女子力低い系女子

筧千里

プロローグ

 女子力というものについて考察してみよう。


 まず日本語の文脈から考えるに、『女』の『子』の『力』である。つまり、女の子らしさを数値化した上でのパラメータに匹敵するものだ。

 このパラメータを決める要因は、いかに女性らしいか、女の子らしいか、である。


 しかしながら、インターネットやテレビ番組、雑誌といったメディアで大々的に取り上げられている題材でありながら、これは非常に定義の曖昧な言葉である。

 某ネット上の大辞典においては、『きらきらと輝いた生き方をしている女性が持つ力。女性が自らの生き方を演出する力。また、女性が自分の綺麗さ、センスの良さを目立たせて存在を示す力』と定義されているが、この定義に対してまず感じるのは「?」の一文字以外にないだろう。

 そこで今回は、女子力というものについての明確な定義を作ってみよう。主に僕の暇つぶしのために。

 まず、分かりやすい部分から潰していくことにする。


『女性が自分の綺麗さ、センスのよさを目立たせて存在を示す力』――つまり、女子力には生来の容姿は関係なく、己の容姿をいかに磨き飾り立て示すか、における力が該当すると考えられるだろう。

 これは化粧、ヘアメイク、また服飾におけるセンスが該当する。ここは造語ではあるが、一応『己飾力』とでも名前をつけておく。


 次に、『女性が自らの生き方を演出する力』――これは文章からは少し分かりにくい部分はあるけれど、単純に生活における女性らしさやと考えてみよう。生活において必要な衣食住における、女性の力である。

 つまり、衣においては裁縫や手芸、食においては調理、住においては掃除、整理整頓といった一般的な家政婦の力と考えれば良い。こちらは『家政力』とでもつけておこう。


 最後、『きらきらと輝いた生き方をしている女性が持つ力』――これについては、文章から何のことやら全く理解できない。輝いた生き方というのも千差万別であり、自身に満足のいく生き方なんてそれこそ星の数ほどもあるだろう。だからこの部分は曲解し、『きらきらと輝いた生き方』をイコールで『人間関係』とする。つまり人間関係に対しての力や恋愛に関しての力と考えるべきか。

 そう考えるならばこれは、コミュニケーション能力や気遣い、人柄といった部分に着目するべきだろう。これは『関係力』とつけておくことにする。


 結論として、女子力は『己飾力』、『家政力』、『関係力』を総合した能力値。

 そこまでノートに書いて、ますます分からなくなった。


「まず、二次不等式の先頭が必ずプラスの係数であることを確認し、「<0」である場合は二次方程式の二つの解を……」


 算数という一般的な小学生が吐き気を覚える教科から、数学というより吐き気を齎す科目へと変貌し、さらにそれがⅠからAになりⅡになった時点で、僕は理解を放棄した。それ以来、数学の授業はどうでもいい思考の海に浸るための場である。

 数学Ⅱ、と表紙に書かれたノートがその存在意義を達成したのは最初の数ページのみであり、それ以降はどうでもいいメモ書きやこんな訳の分からない考察で埋まっている。

 ページの一つ前では、何故か『女心とは移ろいやすいものであり、これに王子様である男が『冠』を与えることで、女心→安心に変わるのだ。そして移ろいやすい男の浮気を一度は許しても、『又』行うことで女心→怒に変わる』とかなんか上手いこと書いているあたり、いかに無駄な時間を過ごしているのかがよく分かるだろう。

 ちらりと、教室の隅に目を向ける。窓際の席という、眠気を誘う暖かい日差しと数学と言う眠りを誘う念仏のダブルパンチに耐えきれず、机に突っ伏して眠る少女を見やる。


 和泉いずみ真里菜まりな


 彼女はスポーツ特待生であり、赤点を取っても追試は免除される。そういった特権階級であるためか、授業を真面目に聞いていることはほとんどない。まるで放課後の部活に全力投球しているかのように、昼休み以外は寝ていることが多いのだ。

 僕、千葉ちば武人たけひとが女子力について、意味もなく考察してみた要因――それは、つい昨日の放課後、彼女から唐突に頼まれた『お願い』のせいだった。

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