神霊愚痴屋

 小さいころからへんなものが見えた。いわゆる霊感というやつだろう。面倒な輩に追いかけられる人生に嫌気が差した俺は、神にすがることにした。近くの神社に通いつめ、どうぞご加護を、と五円玉を賽銭箱に投げ続けた。ある日、神さまが降りてきた。「せめて五百円玉にしろ」俺の投げた五円玉を鼻息で吹き飛ばしながら、神さまは俺にそう愚痴った。

 全国の神社を巡り、その土地の神さまの愚痴を聴く。これが今の俺の仕事だ。五百円で俺の守護神になってくれたお手軽な地元の神の縁もあって、これがなかなか割がいい。金銭はもちろんもらえないけど、格段にくじ運は良くなったし、道端で財布を拾う率も、人のいいおっちゃんに奢ってもらうことも増えた。人類がものすごい勢いで変化しているから、神さまもなかなか大変なようだ。「ゆーちゅーばーでひとやま当てさせてって言われても、なんのことだかさっぱりだ」と嘆く神にスマホで動画を見せてあげる生活は、それなりに楽しい。もらった加護でへんな霊もまとわりつかなくなったし、一石二鳥だ。

 あんまりにうまくいったから、つい油断した。久々に参加した同窓会で、俺は、自分の仕事をしゃべってしまった。霊感のせいで変な奴扱いされていたことを、どこかで引きずっていたのかもしれない。次の日、学生時代は一度も話したことのない奴から連絡が入った。「力を借りたい」

 連れられたのはいかにもって権力者の前で、昨日はじめて下の名前を知った自称俺の幼なじみは、俺のことを神の使いだと紹介した。いやいや、そんな大したもんじゃねえって言葉はねじ伏せられて、気づけば俺は、そいつのボスが次の選挙に勝てるよう、力を貸すことになっていた。んなこと、できるわけねえだろ。俺の悲鳴はやっぱり無視され、家に帰り頭を抱える俺を、お手頃守護神は呆れてみていた。「神さま舐めすぎだ、お前」

 翌日、その権力者の家が火事になった。幸いけが人はいなかったみたいだけど、それ以降、俺に連絡が来ることはなかった。「言ったとおりだろ?」どや顔をする守護神に、俺は抱き着こうとして、すり抜けて床に顔を打った。こいつが実は人で放火魔って線はなさそうだ。よかった、と胸をなで下ろす俺を、超有能守護神は哀れむような目で見ていた。俺はあわてて財布からピカピカの五百円玉を取り出す。コンビニのおつりでもらって、つい取っておいた新しい貨幣はまるで本物の金みたいにきれいで、俺はどや顔でそれを掲げた。それだけで機嫌を直してくれるから、まったくもって、ありがたい神さまだ。

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