ずっと

@f__

ずっと

「好きだよ、千代子ちゃん。」

 2月14日、バレンタインデー。愛の告白とともに満面の笑みで大きなハート型のチョコレートケーキを差し出したのは私の彼氏だ。付き合って5年目。よく毎年懲りないものだと思う。他のカップルは彼氏のLINEがそっけないだの、彼氏がプレゼントをくれないだの、浮気されただのと騒いでいるが、私はそんな悩みとは無縁だ。この男は私のことが死ぬほど好きならしい。誕生日もクリスマスも一年記念日もプレゼントはもちろん、漫画みたいに大袈裟な薔薇の花束まで贈ってくれる。まさに理想の彼氏。

「千代子ちゃん、毎年薔薇の花束じゃ飽きちゃうかと思ってね、今年はネックレスにしてみたんだ。どうかな?可愛い千代子ちゃんに似合うと思って選んだんだ!」

 私がありがとうと言って笑顔を返すと彼も嬉しそうに微笑んだ。こういうのを幸せな光景と呼ぶんだろう。

「千代子ちゃん千代子ちゃん、ずっと大好きだよ。将来僕も君のお父さんみたいに立派なお医者さんになるから。必ず守るから。ずっと一緒にいよう、子供はたくさん欲しいなぁ」

 だからもう別れようなんて二度と言わないでね?そう不安そうに私の顔を覗き込む彼に、ごめん私が馬鹿だったのと言ってまた笑顔を向ける。

「よかった、僕は君のためを思って言ってるんだよ。他の男と目を合わすことすら許さないのは全部全部君のためなんだ。僕がずっと君から離れないのも君を守るためだよ。それなのに去年も一昨年もその前の年も、別れようだなんて。僕は悲しかったんだ」

 本当にごめんね、私が分かってなかったの。だから今年は私もあなたにチョコレートを作ってきたの、食べてくれると嬉しいな。初めて彼に渡す手作りのチョコレートは、彼が私にくれたハート型のチョコレートケーキほど上手にはできなくて不恰好だったが、きっと彼なら食べてくれるだろう。私のことが大好きで仕方ない彼なら残さず食べてくれる。

「千代子ちゃん……嬉しい。ありがとう。本当にありがとう、大切に食べるよ……」

 涙ぐむ彼に私は今までで1番の笑顔を浮かべた。心の底から湧き上がる喜びとともに。



「千代子、大丈夫?あんなに彼氏と仲良かったのに。まさか突然死んじゃうなんて……」

 私も悲しい、本当に信じられないの。受け入れられないよ。そう言うと誰もが私に同情の目を向けた。何か力になれることがあったら教えてねとだけ言い残して立ち去る友達の背中を眺めていると抑えきれない感情が湧き上がってくる。駄目だ、下を向いていないと。顔に出ちゃう。思わず歪みそうな口元を右手で押さえて下を向く。


 

 ずっと、死んでほしかったんだよね。

 鬱陶しくてうざくてさ。

 あんたのこと殺したくて仕方なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ずっと @f__

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ