あっちに行ったりこっちに行ったり

@viceversa

第1話 君の好み

「聞いてよ、加奈~。この前うちのカレシがね~……」


僕の背にいる二人組の女子のうち、一人の女の子がもう一人の女の子に何やら愚痴めいたものを発している。


しかし、好きな人と一緒の空間にいるということに緊張してしまっている僕の耳に、その言葉は全く入ってこない。


「~ってことがあって~。どー思うー?」


「どうって、彼氏と喧嘩してるってことでしょ?」


「ちょ、全然話聞いてないじゃん、ありえなくない?」


「だって、乃利子がお菓子ばっか食べてたら、それを山崎さんがとやかく言ってきたからそれに対して乃利子が言い返したら喧嘩になったんでしょ?」


「ん~、喧嘩とは違う気がするんだよね。……何というか、ただの意見の食い違いってやつ?」


「じゃあ今朝とかライン来た?」


「いや、先週からすでに交流ない」


「……喧嘩してるんじゃん」


「いやー、なんというか、器小さいよね。てか、普通女子に太ったねとか言う?しかも自分の彼女に。」


「それは許せないね」


「でしょー?絶対にさあ、がりがりより肉付き良いほうが良いって。加奈もそう思うでしょ?」


「まあ、瘦せすぎはよくないと思うけど、」


「でしょ?それにさあ最近山崎さんもちょびっと太ってきてるし。そんなこと言うなら自分が瘦せたほうが良いって。男は細マッチョに限るよねー。加奈もそう思うでしょ?」


「えー、どうだろうー。」


「でもさ、最近SWAPの長瀬さん痩せてかっこよくなってなかった?」


「あ、かっこよかったね。今日の朝シューナナに出てたの見たよ」


「でしょー?加奈は優しいからあまり言わないけどさ、本当はやっぱり細マッチョが好きなんだよー。」


「そうかな~?」


「そうだよー、細マッチョが嫌いな女子なんていないって。それに、急に痩せたら余計かっこよく見えるでしょ?よく言うギャップってやつだよー」


「えー、よくわかんないよ」


「絶対そうだって」


好きな人の言葉はするすると耳を通って入ってきた。


話を聞くにどうやら加奈さんは、というより女の子は細マッチョが好きらしい。


どこから見たって肥満体系の僕には耳の痛い話だ。


しかしこれは良いことを聞いた。


ギャップか。


「杉野君、黒板の掃除終わった?」


頭の中でそんなことを考えていたら、後ろから急に話しかけられた。


「えっ、と、まだ終わってないかな」


「そう、こっちは終わったけど手伝おっか?」


加奈さんに急に話しかけられてキョどってしまう。


後ろから急に話しかけられて、振り向いたらきれいな瞳でこちらをのぞきこんええくるのだからそれも当たり前かもしれない。


しかし、これは恥ずかしくてどうにかなりそうだ。こんな態度をとったら自分の気持ちをそのまま伝えているようなものだ。


「えー、加奈、今日は映画の最終日だよ?長瀬君の。もう少しで時間になっちゃうし早くいかなきゃー」


「そっか。……ごめんね、杉野君。」


「いや、ごめん」


そこで会話が終わると二人は教室のドアから出て行った。




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