第111話 森の中の組手
「ゴゴゴゴゴゴゴオオオ!!」
森の中に響き渡る、地鳴りのような叫び声。俺の目の前には、圧倒的な体躯を誇る人型のモンスターが立ちはだかっていた。
「……行くぞ!」
俺は地面を蹴り、思いきり飛び上がった。十メートルはあるモンスターの白亜の胴体に向かって突っ込んでいく。拳を振り上げ、一気に叩きつけた。
拳が肉にぶつかる感覚。渾身の一撃だが、それと同じくらいの反動が返ってくるのがわかる。
「ウガアアアアア!!!」
よく見知ったその怪物は、咆哮の衝撃だけで俺を押し返し、一転して攻撃を仕掛けてきた。大木のように太い腕が頭上から迫ってくるのを見て、俺は地面を思い切り踏みしめる。
「ラウハ、俺はこの一撃に全てを込めるぞ!」
「ゴオオオオオオ!!」
俺たちの叫びともに、放ったストレートが巨大な拳にぶつかり合う。同時に、激しい風が吹き荒れて森の木々が一斉にざわめき始める。
数秒の沈黙の後、俺はスライムに姿を変えた。
『……どうだったかな?』
『さっきよりはかなり良かったと思うぞ!』
ローラに負けた翌日。俺はラウハと一対一で組手をしていた。
敗北から一夜。俺が復活した彼の元に出向いたのは、他でもない。ローラに勝つためだ。
『で、どうだった? 何かヒントは得られたか?』
『うーん、今のところはなんともかなあ。ラウハと戦えば何か思いつくかと思ったんだけど……』
ローラの一撃は、剣を振り払えばたちまち風が吹き荒れ、地面を蹴れば衝撃でクレーターができるほどの高い威力を誇っていた。
昨日考えた結果、あの激しい攻撃に対応するためには、スケールの大きいラウハと戦って戦術を練ることが一番だという結論に至ったのだ。
今朝この森にやってきて、俺とラウハは既に二時間ほど戦いっぱなしだった。しかし、俺はモヤモヤとしたままだった。
まず、ラウハと手合わせして、ローラの強さが文字通り『桁違い』であることがわかった。
確かにラウハの圧倒的な体格から放たれる一撃は力強く、拳を交えれば吹き飛ばれてしまいそうな衝撃が伝わってくる。
だが――何かが足りない。ローラの攻撃には決して届かない、高い壁のようなものがあるのだ。
それに、戦っても戦っても、あの強さに対抗するだけの術が見つからない。
俺が持っている手札の中で、ローラの一撃に対して効果があるのは、鉄壁スライムのガードか<スライジングバースト>くらいだ。しかも、そのどちらも効果的ではない。
やはり、単純な実力差を埋めるのは難しい。それだけの技が今のところない。
『アルクスよ。ちなみに貴様は今どれくらいの強さなんだ? それがわかれば私も力になれるかもしれないぞ?』
『んーと、今のレベルは……』
俺はステータスをオープンし、自分のレベルとスキルを読み上げた。
――
アルクス・セイラント 17歳 男
レベル46
スキル
<スライム>
『スライムテイマー』……レベル8のスライムを発生させることができる。最大58匹。
『スライムメーカー』……スライムにクラスチェンジを施すことができる。
・鑑定スライム(1) ・収納スライム(1) ・ワープスライム(1) ・鉄壁スライム(4)
・治癒スライム(3) ・コピースライム(1) ・錬成スライム(1)
・スライムジェネラル ・スライムアサシン ・スライムアーチャー
<人間>
――
『なるほど……確かに今の状態では超パワーに対抗することは難しいかもしれぬな』
『そうなんだ。しかも、レベルが上がるペースが落ちてきてる。とはいえ、小手先でなんとかなりそうもないし……』
うーん、と頭を悩ませる。ラウハも地面に座り込み、木々の隙間から見える空を見上げて黙る。
『やはりレベルを上げるのが一番ではないか? これからしばらく私が相手してもいいが、貴様の成長速度は他の追随を許さぬ。いずれ私をはるかに凌駕する日も来るだろう。自ら戦い、学ぶことも大事かもしれぬぞ』
ラウハの言う通りだ。ローラに対抗する技を獲得するためにも、実力をつけるためにも、レベル上げは避けて通れない。
『となると、やっぱりダンジョンの奥に行くべきなのかもな……でも、毎日同じような場所を歩いていると気が滅入ってくるんだよなあ……』
「アル君? アルくーん!」
腕はないスライムの姿で頭を抱えている気分になっていると、森の茂みがガサガサと鳴るのが聞こえた。
姿を見せたのは、いつもの制服姿のシエラさんと、無表情でその隣に並び立つイルザだった。
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