第107話 攻略班に入りたい

 俺の目標は、今よりもさらに強くなること。

 レベル上げの効率を上げるためにはダンジョンのより深くに進まなければいけない。


 しかし、ダンジョンの奥に行くほどに、進むペースは落ちてきていた。レベルが上がるのが遅くなり、反比例するように敵が強くなっているからだ。

 だからこそ、さらなる強敵と戦うためには仲間を増やさなければいけないと考えていたところだ。


 攻略班に参加することは、まさに渡りに船。可能であれば、俺も仲間に入れてほしい。


「え? おにーさんって冒険者だったの?」


「うん。まだD級だけど……実力はそこそこあるつもりなんだ」


 フランは俺の話を聞くなり、うーんと唸って腕を組み始めた。


「私は難しいと思うなあ。攻略班の人って気難しい人が多いから、S級じゃないと話も聞いてもらえないかもしれないよ」


 やっぱり一筋縄ではいかないか。訳知りなフランが言うからには間違いないのだろう。

 諦めかけたその時、フランが『でも』と付け加えた。


「言うだけならできると思うよ! おにーさんの実力次第でもしかしたら歓迎してくれるかも!」


「本当か! どうしたらいいかな?」


「そろそろ集会が終わると思うから、そしたらゲルダさんに相談してみたらいいよ!」


「ゲルダさん?」


「攻略班のリーダーのことだよ! さ、ついて来て! 連れて行ってあげる!」


 フランに手を引かれて、俺たちは走り出した。



 たどり着いたのはいつもの冒険者ギルドだった。フラン曰く、ここで攻略班の会議が行われているらしい。

 いつものように扉を開けると、数十人の男たちが席に座っていた。しかし、面子がいつもと違う。


 今座っているのが攻略班のメンバーということだろう。意識してみると、なんとなくいつもよりも風格のある冒険者が多い気がする。

 彼らがS級冒険者で、国に認められた攻略班。思わず気圧されそうになるが、意を決して中に踏み入れる。


「おにーさんこっちこっち!」


 フランがギルドの奥に進みながらこちらに手を振ってくる。俺もその後に続いた。


「……あ! いた! ゲルダさん!」


 フランが声をかけたのは、馬車の先頭で立っていた茶髪の男だった。

 ゲルダは一番奥の席で他のメンバーと雑談をしており、フランに気づいてこちらを向いた。


「ん? なんだいフランちゃん」


 ゲルダは30代くらいの男で、あごの無精ひげをなでている。見たところただの中年で、あまり強そうな印象は受けないが――きっと実力はあるのだろう。


「実は、攻略班に入りたいって人がいるから連れてきたんです! ゲルダさんに会って欲しくて!」


 フランに言われ、ゲルダは俺とライゼの存在に気づいた。飲み物をぐいと飲み干すと、こちらへ歩いてくる。


「……君たちか。フランちゃんが言ってるのは」


「はい。俺たち、攻略班に入りたいんです」


 ゲルダは品定めをするような目でこちらをじっと見つめる。数秒間、緊張が走った。

 なんだろう、俺はこの目に覚えがある。他人の値打ちを決めるような、この視線の向け方。


 すごく嫌な予感が俺の中でよぎった。


「で、君たちはどれくらいの実力があるんだ? もちろんS級冒険者なんだろうな?」


「――いえ、俺たちはD級です」


「は!?」


 ゲルダが声を上げた。同時に、彼の顔が真っ赤に紅潮するのがわかった。


「ふざけているのか!? D級冒険者が攻略班になんか入れるわけないだろう! 私を冷やかしに来たのか!?」


「違います! 俺たちは二人で25層まで到達しました!」


「二人で25層……だと? ミノタウロスを倒したというのか?」


 確かに俺たちはD級冒険者で、客観的に評価できる実績を持っていない。

 しかし、ミノタウロスを倒したのは事実。二人でミノタウロスを倒すのは、S級冒険者でも難しいことのはずだ。そして、それは俺たちに実力があることの証明になる。


「貴様……私をおちょくるのもほどほどにしろ! 口から出まかせもいいところだ!!」


「嘘じゃない! だったらこれを見てください!」


 俺はインベントリからミノタウロスの毛皮の証明書を取り出すと、ゲルダに手渡した。

 ギルドのお墨付きをもらった証明書。これは俺たちの実力を客観的に示すもので、疑う余地がないはずだ。


 ゲルダは俺から貰った紙を見ると、食らいつくようにその文面を読み始め――


「くだらないな! こんなもの、市場に出回っているものを買って、それをギルドで鑑定してもらえばいくらでも捏造できる!」


 俺たちの証拠を一蹴した。バサッ、という音が鳴って、彼の手から投げられた証明書が宙を舞う。


 もちろん、ゲルダが言うように、自分たちがミノタウロスを倒したことを偽装することもできる。しかし、それはあまりにもコストに見合わない。冒険者の実力は、鑑定を使われれば一発でバレるからだ。

 それでも、彼は俺たちの話を聞き入れる様子はない。むしろ、さっきよりも顔を真っ赤にして興奮している様子だ。


「そんなもので私の目を欺けると思うなよ!! 攻略班はS級冒険者しか入ることができない!! それは実力はもちろん、信頼される実績を持っていることが証明されているからだ!!」


 取り付く島もない、とはこのことだ。どうやら何を言っても通じないようなので、いったん退こうと思ったその時。


「なんの騒ぎだ?」


 火が付いたゲルダを恐れず、一人の人物が割って入ってくる。大胆不敵に登場したその人物に、俺は見覚えがあった。


「お姉ちゃん!」


「ローラ……」


 王都でぶつかった金髪の少女。そして攻略班のメンバー。フランの姉だった。

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