第91話 計算違い
突然のバリーの申告に、俺は思わず耳を疑った。
「お前……突然出てきて何を言ってるんだ!?」
「うるせえよ三下! 俺はお前に言ってるんじゃない。そこのあんたに言ってるんだ。」
バリーは一喝すると、マシューに歩み寄って微笑みかける。
「……なんです、アナタは悪人ですか?」
「悪人と言えば悪人かもな。現にそこの三下に負けて悪役になっちまった。……でも、俺は計算だけは間違えないつもりだぜ」
「ほう」
バリーは両手を広げると、演説をするように語りかけた。
「俺をあんたの仲間にしてくれ。役には立つぜ」
媚びを売る。それがバリーの取った選択だった。
「そんなことをするメリットがワタシにあると思いますか?」
「ある。俺が考えるに、アンタはオルティアを乗っ取ろうとしている。そうだろ?」
マシューが唸った。
「あの結界はレベル30以下の人間を幽閉する効果がある。街の人間が一か所に集まったタイミングでそんなことをするなんて、テロ以外の何物でもないだろ」
「確かにアナタの言う通り。でもそれがなんだと言うのです?」
「あんたたちはオルティアに関する情報を欲しがっているはずだ。それに、俺のレベルは32。いい駒になるぜ?」
丁寧に自分を売り込むバリー。こいつは自分で計算間違いをしないと言うだけあって、状況を見極める力に長けている。
街の人間が<インビジブル・ウォール>で収容されていることや、俺がゴーレムの少年に押されていることを込みで考えているのだろう。
彼はマシューの部下になることを選択した。
「なるほど、確かにアナタの言う通り、戦力は多いに越したことはない」
「そうだろ? あんたは計算を間違えないタイプだと思ってたぜ。こんなの誰が考えたって買いだと思うんだが」
バリーは握手を交わすために、マシューに手を伸ばす。お互いが悪意のある微笑みを浮かべていた。
マシューはしばらく沈黙した後、笑みを深めて返事をする。
「なるほど……ではアナタを仲間にしましょう」
「当然の判断だ。あんたが計算ができるタイプで助かったよ。さあ、オルティアへ……」
「ただし、養分としてね」
次の瞬間。マシューが右手を挙げ、頭上で指を鳴らす。パチンという音に反応するように、赤髪の少年がバリーへ向かって走り出す。
「なっ!?」
振り返った時にはもう遅い。少年は拳を振り上げ、バリーの横面に一撃を叩きこんでいた。
「<
刹那、巻き起こる爆発。激しい音とともにバリーの体は地面を転がった。
よろよろと起き上がるバリー。彼の顔半分はひどく火傷していて、煙が上がっている。あまりにも痛々しい傷で、俺は思わず視線を逸らした。
荒く呼吸をするバリー。火傷している自分の顔を触り、手のひらで熱を確かめる。そこでようやく、自分が攻撃されたことを理解したらしい。
「あああああああああ、ああああああああああああああ!!」
その瞬間、バリーが獣のように激しく叫んだ。
「なにをしやがる!? あんたと俺は仲間になったはずだろ!?」
マシューを見て、背筋が寒くなった。バリーを裏切った彼の表情は、これまでで一番醜く、それでいて心から愉快そうな笑顔だったのだ。
「おい、笑ってないで答えろよ!!」
「何か勘違いしてるみたいですが……アナタみたいな悪人を信用するわけないですよね?」
「はあ!?」
「聞くところによると、アナタはオルティアの人間だ。しかし、街を裏切ってワタシたちに味方しようとしているわけですよね? 街の人間を裏切るような悪人を味方にできるわけないじゃないですか」
マシューはそう言うと、バリーの脇腹を蹴り上げた。あれだけ力強かったバリーの体が、いとも簡単に吹っ飛ばされる。
「あんたは……計算ができると思っていたのに! どうして俺を味方にしない!?」
「アナタ、自分のことを高く見積もりすぎじゃないですか? 計算計算って言ってますけど、そんなに完璧に計算ができるなら、なぜ地べたで這いつくばってるんです?」
「それは……」
バリーは地面に四つん這いになりながら、土を握りしめる。腕が震えている。呼吸が乱れ、首筋に汗が噴き出す。
「アナタは自分が思っているほど完璧な人間ではないんですよ。傷だらけで地に伏せているのがせいぜいの――ただの愚かな悪人です」
バリーの中で何かが壊れていくのを感じた。彼の足に力が入るのが見える。
「バリー、やめろ!!」
「うわああああああああああああああああ!!」
発狂したバリーは、もはや使い物にならなくなった自分の体を引きずるように立ち上がると、フラフラとした足を動かしてマシューに突進した。
俺は慌てて声を上げるが、もはや彼に声は届かない。マシューはため息を吐くと、手を高く掲げた。
「ゴーレム。この愚か者に<
パチンという音がなる。それを皮切りに、少年が走り出した。
「<
少年が呟くと、彼の拳が赤く光るのが分かった。素早い足取りでバリーに追いつくと、そのまま光る拳を振りかぶり――
――バリーの顔面に叩きつけた。
「ぶはッ!!」
吹っ飛ばされ、木の幹に激突するバリー。白目を剥き、口から涎を垂らしたまま気を失ってしまっていた。
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