第77話 打開策と覚悟
会場がざわつくのがわかる。まあこんなやり方をしたら当たり前か。
剣の大会だからできればこの剣を使いたかったけれど……さすがにそういうわけにはいかなかった。
「<鑑定>!」
鑑定スライムを肩に乗せ、対戦相手のレベルを測った。
――
対象:イーロン・マクガワン レベル28
――
A級冒険者でレベル28か。S級のバリーがレベル35だから、やはり両者には大きな差がある。
とはいえ、A級冒険者はギルドの中でも上位数パーセントに入る猛者であることには間違いない。このレベルが出続けてくれれば余裕だろう。
「しょ、勝者、ダンツェル武具専門店ー!!」
司会の男が慌てて試合の終了を宣言する。俺は舞台から降りてイレーナと共にゲートへ退場した。
『なんだったんだ今の……?』
『A級冒険者を蹴りで倒したのか……?』
『でも、折れた剣で参加した事実は変わらないだろ。そもそも俺たちは剣も含めて見に来てるのに』
『試合の結果がよくても、剣があれじゃな……』
会場の人々のざわめきを浴びながら、俺たちはゲートから退場した。
さて、退場が終了した。俺は振り返ってイレーナの方を見る。
これからの作戦について考えるためだ。今のところ、あまりいい展開になっているとは言えない。
「イレーナ、これからのことなんだが……」
イレーナに話しかける。しかし、彼女は下を向いて俯いている。
明らかに覇気がない。俺が話しかけたのが聞こえていないようだ。
「イレーナ?」
「お、おう! 聞こえてらぁ!」
……まあ、いいか。
「これからの作戦についてだけど……ライゼが言ってた通り、イレーナは次の試合の時間まで剣の修理をするのがいいと思うんだ」
作戦はこうだ。
まず、今回の大会は最大で5回戦。1日目である今日は2試合、明日は3試合やることになる。
AブロックBブロックで分かれ、そこのブロックで勝者を決め、最後に決勝戦という流れである。
俺たちはAブロックの2試合目なので、次の試合までかなり時間がある。その時間を使って、イレーナに剣の修理をさせようという作戦だ。
いくらなんでも毎試合あんな風に言われていたらイレーナの身が持たない。そもそも、この大会は彼女の腕を示すために参加したのだ。
仮に俺がさっきみたいに対戦相手を蹴って優勝したとしても、イレーナのためにはならない。
ましてや、Bブロックにはあのバリーがいる。他の冒険者がA級レベルだった場合、決勝でぶつかることは容易に想像できる。
とにもかくにも、やはり武器がないと駄目だ。
「明日の決勝戦までに、剣は用意できそうか? 無理なら最悪素手でも……」
「駄目だ!」
イレーナがぴしゃりと叫んだ。突然のことだったので、俺は思わず驚いてしまった。
「ど、どうしたんだ?」
「……すまねえ、大きい声を出しちまった。でも、駄目なんだ。このままじゃ……」
「どうしてもか?」
「……どうしても駄目だ!」
イレーナはそう言うと、深々と俺に頭を下げた。
「頼む! 無茶なことを言ってるのは承知してるんだ! でも、どうしても納得のいくものを作らせてほしい! 絶対になんとかする!」
こう言われてしまったらどうすることもできない。俺はイレーナのことを信頼している。彼女の職人気質も、きっと大事なことなのだろう。
「わかった。でも、本当にいけるのか?」
「できる。絶対に間に合わせてみせるからよ!」
イレーナの言葉は、いつもと同じようで少し雰囲気が違う。自信にあふれているようで、実際はかなり自分を追い詰めているような。
それでも、俺には送り出すことしかできない。ワープスライムを出し、ダンツェルさんのお店までつなぐ。
「次の試合の時間になったら呼ぶからな!」
「がってんだ!」
こうして、俺はイレーナと別れて休憩に入った。
午前の部が終わった。あと30分もすれば俺たちの二回戦が始まるころだ。
……だというのに、イレーナが帰ってくる気配がない。
「ちょっと様子を見に行くか……?」
俺はワープスライムを使って、イレーナがいる武具専門店に向かった。
移動が完了し、いつもの店内から奥に向かって工房へと進む。彼女はここで仕事をしているはずだ。
「駄目だ……これじゃ駄目だ……」
奥から聞こえてきたのはイレーナの声。ひどく切迫している様子だ。
「イレーナ!?」
暖簾をくぐって工房の中に入って、俺は驚いた。
俺の目には、イレーナが床にぺたりと座り込んで頭を抱えている光景だった。
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