第26話 アウトブレーク

「説明してくれ! 『アウトブレーク』ってなんだ!?」


「ダンジョンの中ではモンスターは勝手に出現する。それは基本的に1体ずつだけど、まれに大量のモンスターが一度に出現することがある!」


「じゃあ、その大量のモンスターが一気に襲い掛かってくるって言うのか!?」


 ライゼは黙ってうなずいた。彼女の表情からは強い焦りと緊張が見て取れる。


 四方の道から、ぞくぞくとモンスターが姿を現し始める。どれも見たことがない種類のモンスターだ。人型のものもいれば、地を這うトカゲのようなモンスターもいる。まさに魑魅魍魎。

 その数は、なんと15。とてもじゃないが、こんなにたくさんのモンスターは捌ききれない。


「アルクス! 何としても逃げるわよ! こんなたくさんのモンスターを相手にしてたらキリがない!」


「無茶だ! 囲まれてるんだぞ!」


 複数体のモンスターが現れたら逃げる。それは俺たちが5層に入る前に決めた鉄則だった。

 しかし、これはあまりにも数が多すぎる。どの方位にもモンスターがいて、隙をつくのは無理そうだ。


「……アルクス、今から私が言うことをよく聞きなさい」


「なんだ!?」


「ここは私が囮になる。今から最大火力で魔法を撃つから、手薄になったところから逃げなさい」


 ライゼの口から出たのはとんでもない提案だった。


「何言ってんだ! 馬鹿なこと言い出すな!」


「私はいたって冷静よ! どう考えたってここから二人で逃げる方法はない! だったら一人でも助かった方がいいじゃない!」


 それは、傍目に見れば合理的な判断だ。状況をよく見えているライゼだからこそこういうことが言えるんだろう。

 ここでライゼの言う通りにして、他の冒険者に助けを求めればなんとかなるかもしれない。

 でも、なんとかならなかったらライゼは死ぬ。


「……いいのよ、こういうのはもう慣れてるの。私は誰かを守るために生まれたの!」


 ライゼは覚悟を決めたようにして俺の前に立った。モンスターたちは彼女のことを見据えている。


「……それと、最初に話した時にアンタのこと嫌いって言ったわよね。あれ嘘。本当はわかってたんだ、私は弱い人が嫌いなんじゃなくて、いつまでたっても強くなれない私のことが嫌いなんだって」


 ライゼは魔法陣を展開する。今まで見たものよりも大きい。おそらくあれが今できる最大火力なんだろう。


「だからお願い、行って!」


 モンスターたちが円を小さくするようにライゼに向かって走り出した。魔法陣が強い光を放つ――!


「行くわけないだろ!!」


 直径1メートルはあるような巨大な火球が放たれた瞬間、俺はライゼの体を抱えてモンスターたちの攻撃を回避した。


「え!? ちょっとどこ触ってるの!?」


「そんなこと言ってる場合か! 死のうとしてたんだからちょっとくらい我慢しろ!」


 モンスターの攻撃を回避したタイミングで、なんとかモンスターたちの円の外側に出ることができた。俺はすかさず走り出す!!


「馬鹿! なんで私を置いていかなかったの!?」


「置いていくか馬鹿! 本当に馬鹿だなお前! なんでそんなに馬鹿なんだ!?」


「ば、馬鹿馬鹿言うな馬鹿! アンタは私が助けるからいいの、なんで素直じゃないの!?」


「素直じゃないのはお前だろ! お前が俺を助けるなら、お前は誰が助ければいいんだよ!」


「そ、それは……」


 ライゼは口ごもる。

 その時、俺の背後でモンスターのうめき声が聞こえてきた。バタバタという足音も聞こえてくる。


「追ってきてる!」


「こうなったら、一か八か戦うぞ!」


 ライゼを下ろして、俺は剣を引き抜いた。


「いくぞ、スライムたち!」


「キュキュキュー!!」


 20匹のスライムたちと一緒に、俺はモンスターに向かって突撃する。思い切り剣を握って走り、モンスターに向かって振り下ろした。


「ウガッ!!」


 キン、という音が鳴り響く。俺が攻撃したモンスターは、剣を持ったゴブリンだった。体格は草原エリアにいたものよりもはるかに大きい。

 俺の剣とゴブリンの剣がぶつかり合っている。力が強い。全力で押しても押し返される!


「ヒエェッ!!」


 次の瞬間、ローブを纏った老人のようなモンスターが俺に向かって火球を放ってきた!

 マズい! まさかモンスターが魔法を使ってくるとは思わなかった! 避けたら目の前のゴブリンに押し負ける!


「キュキュッ!」


 火球が顔面に迫ってきたその時、ギリギリのところで何かが射線を遮った。

 鉄壁スライムだ! 背負ったシールドを巧みに使って、火球を弾いてくれた!


「すごいなお前! 俺を守ってくれたのか!」


「キュキュ!」


 当然だ、とでも言っているのだろうか。すっかり頼れるガードマンだ。


「アルクス、そのモンスターから離れて!」


 後方からライゼの声。俺はすぐに意図を理解して、剣の反動を使ってゴブリンの体勢を崩してその場から離れる。


大火球エル・フレイア!!」


 真っ赤な魔法陣から、巨大な火球が放たれる。一直線にとんだその火球は、ゴブリンの体を捉えて一気に後方へ押し戻した。


「そこだッ!」


 剣を手放したゴブリンに斬撃を食らわせる。断末魔を上げて、ゴブリンは絶命した。


「一体は倒した! でも……」


 残った敵は14体。20匹のスライムたちが時間を稼いでくれているが、1体ずつ倒していては絶対に間に合わない!!

 どうする。スライムたちを犠牲にして走って逃げても、絶対に追いつかれてしまう。このままじゃ二人とも死ぬ。


 いや、弱気になるな! 絶対に生きて帰るって決めただろ! 何か、何か策はないのか!?


――


 レベルが20になりました。


 <スライム>の能力が強化されました。


――

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