【書籍化決定】最速進化のスライム無双 追放された俺の外れスキル<スライム>は超効率的にレベルアップするチートだったので、100倍速で鍛えて世界最強に成り上がる。【WEB版】

艇駆いいじ

第1話 スライム野郎、追放。

「アルクス。お前はパーティから出ていけ。この役立たずの雑魚が」


 パーティリーダーのダンが言った。いつもの人を馬鹿にした目で俺を見て、薄ら笑いを浮かべている。


「一応聞くけど、理由は?」


「あ? そんなもん自分の頭で考えて理解できねーのかよ? お前が使えないからに決まってるからだろ」


 まあそうだろうな。彼の発言に心当たりはある。


 俺はダンの冒険者パーティ『残忍な刃ブルータル・エッジ』のメンバー。所属してから約一年が経つが、ダンや他のメンバーからの受けはめっぽう悪い。

 その理由として、俺がパーティの雑用係をやっていて、戦闘に参加しないことが挙げられる。

 冒険者パーティは強さに価値を見出すものだ。俺みたいな戦わない人間に報酬を分けるのが嫌になったのだろう。


「でも、仕事はちゃんとこなしてきたはずだろ? それに、最初からそういう契約だったはずだ」


「ふざけるな! お前ができることなんて見張りくらいだろうが!!」


 俺のスキルは<スライム>。非力な俺がパーティに入れたのは、このスキルが理由だった。

 能力は、その名の通り、体をスライムに変化させることができるというものだ。スキルを発動すると、俺は子猫くらいのサイズのスライムになることができる。


 スライムは最弱のモンスター。だから戦闘面では役に立たない。しかし、その代わりに分裂することができるのだ。

 数は最大で8つ。それ以上の数になろうとすると、思考が曖昧になって頭がボーっとしてしまう。最悪の場合、そのまま元に戻れないかもしれない。


 俺はこの能力を使って、主に監視役をやっていた。

 ……と言っても、監視の任務はクエストの最中の夜だけだ。ダンが休んでいる間、分裂してテントの周りを見張るのが俺の仕事。


 なんでそんなことをするかって? ダンはパーティの女を侍らせているからだ。夜な夜な彼がテントの中で彼女たちと何をしているのかは想像に容易い。


 まあとにかく、俺はそのためだけにこのパーティに採用された。


「で、どうするんだ? まさか出ていくのは嫌だなんて言うつもりじゃないだろうな?」


「嫌だとは言わない。ただ、俺が抜けた分の監視役はどうするんだ?」


「そんなもん、俺が考えてないとでも思ったのか? おい、入ってこい」


 ダンが合図をしたその時、ギルドの扉が開いて一人の少女が入ってきた。

 光を浴びてナイフのように光る銀色のツインテール。紅茶のように透き通った紅色の目。小柄な体の少女は機械のような無表情のままダンの隣に立った。


「こいつはライゼ。俺のパーティに新しく入る魔法使いだ」


 ダンがライゼの腰に手を回す。

 なるほど、俺をパーティから追い出して、夜の監視役にも女の子を入れるということか。女好きのダンらしい発想だな。


「……触らないで」


「いいじゃねえかちょっとくらい。報酬の額に影響するから、俺には気を使った方がいいぞ?」


 嫌がるライゼを無視し、ダンはライゼの腰回りをさする。いい気になったのか、ニヤニヤしながら俺を見る。


「ライゼは戦闘もできる監視役で、そのうえ女だ。つまり、お前の完全上位互換。用済みなのは理解できるか?」


 悔しいがダンの言う通りだ。戦闘ができない俺には居場所がない。


「……わかった。辞めるよ」


 そこそこの給料を貰えるから続けていたこのパーティだったが、どうやらこれまでのようだ。

 俺は椅子から立ち上がり、その場を後にしようとした。


「待てよオラッ!!」


 その時。大きな手のひらが俺の頭を包み込んだ。ダンが立ち上がって俺に手を伸ばしたのだ。

 次の瞬間、俺の顔面は磁石のようにして机に吸いつけられた。


 バアアアアン!!


 激しい音がギルドに鳴り響く。激痛を感じながら、俺は必死に頭を上げようとした。


「何をするんだ!」


「これまではお前みたいな雑魚でも、怪我されたら面倒だから手だけは出さないでおいてやったんだ。だが、もうその必要はない!!」


 ダンの手から逃れようとしたが、力が強くてもがくことしかできない。そんなことをしているうちにも、俺の顔面は何度も机に叩きつけられた。


「ハハハハハ!! いいぞダン! もっとやれ!!」


 観衆の笑い声。酔っ払いたちから見れば、これも余興なのだろう。


「俺はな!! お前みたいに弱い奴を見てると虫唾が走るんだよ!! このスライム野郎!!」


 俺だって好きで<スライム>なんてスキルを持って生まれたわけじゃない。

 理不尽だ。なんでこんな目に合わなくちゃいけないんだ。


 俺が弱いのが悪いのか? 非力な人間が冒険者なんかやってるのがいけなかったのか?


 答えはイエスだ。少なくとも、俺は今ダンという強者に痛めつけられている。そこに理由なんてない。弱者は悪なのだ。


「くそっ!!」


 俺は最後の余力を振り絞ってダンの腕を引きはがした。走ってギルドの出口へ向かう。


「スライム野郎! お前はこれから一生そうやって逃げることしかできないんだよ!! この世界に、弱い奴の居場所なんてない!!」


 ダンの声が聞こえてくる。俺は鼻から滝のように流れる血液を手で抑えながら、ギルドの外へ出た。


 俺は弱い。無能だ。こんな雑魚スキルを持って生まれてきたばっかりに理不尽な目にあわされる。

 弱い人間が何を言っても無駄なのだ。


 だったら俺は――誰よりも強くなってやろうじゃないか。


 実力でダンを跪かせるのだ。俺が強者となったその時に、弱者であるダンに復讐してやる。

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