第20話 みんなの行方
わたしを含め武装班の仲間全員、クラックの後についていく。彼は無鉄砲な性格だけどそれでも武装班のリーダーとして前線で何度もわたしたちを引っ張ってきた。彼の背中は誰よりも頼もしかった。
幾度となく武装班のみんなのピンチを救ってきた。わたしもその救われたうちの一人だった。武装班に入る前も後も何度も救われてきた。
わたしが武装班に入る前、ないしにここのコミュニティードヨルドへ来る前のこと。わたしは職場の仲の良い同僚たちと一緒のタイミングで有給休暇を使い、わたしたちが大好きなとあるテーマパークの近くの宿泊ホテルの中に居た。
元々わたしは獣医だった。生れた時から両親とも大の動物好きだった。そんな家庭環境だったからか、わたしが動物好きになるのは当然の流れだったと思う。家にはセキセイインコやウサギさん、そしてペットの大定番である犬もいた。
小さいころから両親に耳がタコになるくらい聞かされていたことがある。それは・・・
「人間も動物もみんな一つの命。動物だからって、むやみに命を奪ってはいけない」と言われていた。
ちょうどそのころテレビでは豚コレラのニュースが盛んに報じられていた。コレラ菌が豚の間で広まり、その感染拡大を食い止めるために人間の手で何万頭も殺処分されたらしい。人の手で殺められた豚さんたちには自由意思はなく、人間の利害に基づいて、その命ははかなくも奪い去られてしまった。
また犬、猫などの年間におけるペットの殺処分件数が200万頭以上にものぼっているとのニュースもたびたびテレビの報道されていて、わたしの記憶に鮮明に残っていた。
身近にペットがいるのが当たり前の環境だったわたしにとって、とてもそれらが他人事のようには思えなかった。その動物が殺されたといったニュースを見るたびに心が痛んだ。
一匹たりとも動物をむやみに殺させない。救える命はわたしが救ってあげたい。
そういった思いもあってか、いろいろと紆余曲折を経てわたしは獣医となったのだ。
そして世界が変わってしまったその日、動物たちが人間を襲っていた。その動物たちはカラダに銃を生やし、そこから人間をめがけて銃弾を放っていた。動物は身体能力が人間のそれと比べて何百倍も何千倍も上だ。
たちまち多くの人間がやつらに命を奪われた。
大昔に銃というものが発明され、その銃といった飛び道具が何千種類もの動物を絶滅させてきた。
そのほとんどがアニマルハンティングといった人間の娯楽のための何一つ必要のない殺生がそれらの種を断絶させていった。
そして今、動物がこれまでの歴史で人間によってされてきたことの仕打ちの報いを受けているのかもしれない。
動物たちはずっと人間に虐げられてきた存在。だが今となってはその生態系ピラミッドがくずれ、逆に動物に人間が虐げられる時代へと変わってしまった。
多くの動物たちが変異し力を持ち始めた途端、人間と動物とのパワーバランスが逆転してしまった。人類がこの先どういった歴史を歩んでいくことになるかわからないが、ただただ苦しい時期が続いていくことは確かなように思う。
わたしは動物が好きだ。だから獣医に結果としてなった。だがそれ以上に人間も好きだ。人間がピンチな今は、人間側について大好きだった動物を相手に戦っていきたい。
あのテーマパークでの騒動の中、離れ離れになってしまい、その後の消息がわかっていない仕事の同僚たちのみんなの分まで、わたしは今日も生きるために戦う。
「あれだ。あのキメラだ」
私たちのリーダーのクラックが銃を構えながらそう言った。
「銃声のした方へ行ってみると、やつがいた。」
5メートルほどのサイズのそのクジャクキメラがそこにいた。
「そしてさっきの黄色いベストを着た2人の男女がやつに襲われ、あの羽の模様からなにかが放たれた。それが彼と彼女の最期となってしまったんだ。助けようにも間に合わなかった」
さきほどの彼と彼女のカラダには銃弾に貫かれたと思われるような傷が数か所見られた。
おそらく扇状に開かれたそのクジャクの華麗羽の目玉模様一つ一つが銃口になっていて、そこから放たれた銃弾で2人は命は奪われたと思う。
クジャクのその羽模様は思わずその美しさに釘付けにさせられるほど芸術的なものであるが、しかしそれらは殺傷能力のある武器としてわたしたちを殺してしまう力を持っている。
その美しさに心を奪われないよう気を引き締めていかなければならない。気を抜いたら最後だ。
「今からやつがじっと佇んでいるところを奇襲する。各自狙いをあいつに定めろ」
わたしもクラックの言うことに従い、背後に背負っている弓矢を取り出す。
元々わたしはアーチェリーを地域のスポーツクラブで習っていたこともあって、弓矢の使い方に熟知していた。獣医になってからは現役から離れ、今後一切弓を握る機会は訪れないだろうと思っていたけど、世界が変わってから皮肉にもまた弓を持つこととなってしまった。
キメラなどを数多く始末していくうちに、感覚も戻ってきた。そもそも現役の時も大して有力な選手でもなかったけど、生き残るために必死に矢を放っているうちにめきめきと腕が上がった。現役のころよりも腕は上達していった。
そしてさきほどクラックの言われた通り、わたしも草の茂みに身を隠しつつ、配置についた。
目の前にいる美しいクジャクの皮をかぶったキメラ生物の息の根をとめるために、わたしは今、心の準備をしていた。
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