※この作品は別作品に移動しました。(滅びゆく世界で『無能生産者』認定だと!? ~コミュニティー先で強制労働なんて絶対に許さん! 復讐を果たし、成り上がる!~に変更されました)
第17話 彼はサイコロステーキ弁当を食べたい
第17話 彼はサイコロステーキ弁当を食べたい
グウ~・・・
「グリアムスさん。お腹の虫がなっておいでです」
「おやおや。これは失敬失敬。なんとも気恥ずかしい限りです」
武装班の連中がここのキャンプから軒並みいなくなって以降、ベルシュタインとグリアムスはペトラルカに案内されたテントの中でじっとしていた。
あのとき銃声が鳴り響かなければ、今頃ペトラルカに食料と水をここまで持ってきてもらう手はずであった。
しかしクラック隊長が暗い山中へ猪突猛進していったことがきっかけで、当のペトラルカまでもがそっちの方へと行ってしまった。
その際ベルシュタインとグリアムスは、ペトラルカが手に持っていたサンドイッチとミネラルウオーターが、クラック隊長を追いかけるべくして、投げ捨てて行った時に、それらが宙に一度舞ってから、地面に落っこちるまでの一部始終を目撃した。
サンドイッチの中身の具材は飛び散り、ミネラルウオーター、500mlのペットボトルには川石にぶつかった衝撃で亀裂が入り、そこから水が全て垂れ流され、あっという間に2本とも空っぽになってしまった。
地面を濡らしてしまったミネラルウォーターを、その部分をなめずりまわして、水分補給するということも当然ながらできない。
かろうじて口にすることができそうな地面に離散していったサンドイッチ二つ分を、それぞれが手に取って、近くのポンジョル川の水で一度、砂がこびりついたのを洗い流してから、口に入れてはみた。
サンドイッチの外側の生地は川の水をたっぷりとスポンジのように吸い込んでしまったことで、たいへんしめりけのあるサンドイッチになった。
たいへんにおいしくなかった。
ペトラルカの手で支給されるはずだった食料はこれらのみであり、双方の空腹を満たすまでには至らなかった。
なにせ3日もの間、土砂処理作業をやらされ続けた結果、かなりのエネルギーを消費をしてしまった。
当然その消費したエネルギーを補給するのに、このたった一つのサンドイッチ程度では事足りないのである。まかないきれないのである。
「そうだ!今このキャンプ地にはわたくしめら2人しかいない。ということは……」
そう言うと、唐突にグリアムスさんは立ち上がり、テントの外へ出て行った。
「ん?どうしたんですか?何の前触れもなくいきなり外に出るなんて」
突然のグリアムスの行動にベルシュタインは若干戸惑う。
「今がチャンスです。ベルシュタインさん。武装班の彼ら彼女らがいない今・・・・キャンプテント1つ1つにがさ入れして、食べ物をつまみ食いしてしまいましょう」
「えええ・・・・いきなりそんな・・・なんかグリアムスさんらしくないですよ。そんな盗人みたいな真似、自分には到底できませんよ・・・」
とベルシュタインはグリアムスにそう言って彼の今からしでかそうとしている行いそのものに、反対の意思表明をする。
しかしグリアムス自身はそんなベルシュタインの意思など意に介さないと言わんばかりに、すでにキャンプテント1つにがさ入れを開始し、食べ物のたぐいを探していた。
「時は一刻を争います。ベルシュタインさん。警備が手薄な今が絶好の機会なのです」
「はあ・・・そんなもんでしょうか」
「そんなもんです。背に腹は代えられないとはまさしくこのこと。今がその状況です。今を逃したら、次いつこんなビッグチャンスが訪れるかわかりません。チャンスはつかめるうちにつかんでおきましょう」
「・・・そ・・・そうですね」
そうしてまんまとグリアムスに丸め込まれた形で、お互い手分けして、テント1つ1つ丁寧に食料を捜すため、回ることとなった。
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「とりあえずなにか食料があったらわたくしめにもわけてくださいねー」
「了解です」
2人して夜分遅くに、まるで火事場泥棒、空き巣犯のような感じで、こそこそとドブネズミのようにお互い食料を物色し始めた。
「よし・・・まず一つ目のテントだ・・」
さきほどまで乗り気でなかったベルシュタインも、今ではもうその気になり、完全にウキウキ気分で、しきりに鼻をくんくんとさせながら、食料の微量な匂いを逃すまいと、嗅ぎまわっていた。
「ん?おっ!!これは弁当箱だ・・・」
するとさっそく一つの弁当箱を見つけ、早速それを手にもって確かめてみる。
「おっ!!ビンゴだ。重みがあるぞ。この中に何が入ってるんだろう?」
さっそく中を開けてみた。するとその中身はなんと白ご飯の上にサイコロステーキがまばらに置いてあるサイコロステーキ弁当だった。どうやら手作りらしい。
キャンプテントへのがさ入れを始めてから早い段階で、きれいな弁当箱に入っているサイコロステーキ弁当を1つ見つけることができた。
それは一口も手に付けられておらず、まだ誰のモノにもなってない状態で放置されていた。
初回からいきなりの大当たりを引いてしまったベルシュタインは、手つかず状態のサイコロステーキ弁当をたまらずそのままテントの外まで持っていき、グリアムスが今現在がさ入れを行っているテントのところまで、その弁当を見せびらかすようにして持っていった。
「グリアムスさん見てくださいよ!これを」
「おおお!これはわたくしたちにはもったいないくらいのごちそうじゃないですか!ステーキ弁当なんて、なおのこといい!」
グリアムスさんが興奮するのも無理はないだろう。
「このサイコロステーキ弁当、二人でシェアしませんか?肉ですよ!肉!この際食べないともったいないです!」
ベルシュタインはサイコロステーキ弁当を持って、グリアムスに執拗に食べることを勧める。
ベルシュタインは今か今かと食いたくてたまらない様子だ。
「でもしかしですね・・・」
先程までサイコロステーキ弁当を見るなり、目を真ん丸くしてそれを凝視し、いかにも興味津々そうな様子だったグリアムスさん。
しかしちょっとした時間経過とともに、この豪華なサイコロステーキ弁当を前にして、あろうことかここにきて、グリアムスさんは渋い顔をしだした。
「・・・まさか・・・この豪勢な弁当を見て食わぬおつもりですか?」
このサイコロステーキを一度見れば、誰もがっつきたくなるはずなのに、なぜこうも躊躇するのだろう。
理解に苦しむ。
だがしかしそのとき、サイコロステーキないしに食肉そのもの価値が世界が崩壊してから、希少なものとなっていることを唐突に彼は思いだした。
サイコロステーキがどうのこうのより、そもそも食肉のそのものの価値がこの世界になって、高騰していた。
牧羊地や牛、豚といった資源がかなり希少な存在となり、そのものが減ってきたため、食肉の入ったそのサイコロステーキ弁当はかなり貴重であった。
しかもサイコロステーキをびっしり白ご飯の上にのせて、わざわざお弁当にしているところを見ると、おそらくコミュニティードヨルドの中での貴族階級、かなりのお偉いさんの昼ご飯といった感じがしてならない。
コミュニティードヨルドの統領セバスティアーノと近しい立場の人の昼飯といったところで、もしこれを一口でも無能生産者の人間がつまみ食いしたのを、何かの拍子でバレようものなら、おそらく今従事している労働よりもさらに過酷な地下労働生活が待ち受けていることだろう。
ちなみに地下労働について補足しておくと、その労働とは今現在コミュニティードヨルド内で執り行われている地下シェルター建設計画の地下空間における現場作業の事である。
もしコミュニティードヨルドの壁がキメラ生物に突破され、侵入を許した有事の際に、統領セバスティアーノをはじめとするコミュニティードヨルドの重役らが地下へ避難するために、建設されているらしい。
ちょうど最近その計画がやっとスタートしたばかりなのだと、数日前にグリアムスさんに聞かされていた。
地下労働は自分たち無能生産者らが、現在身を置いている作業環境よりもかなり劣悪であり、地下には当然光が差さず、灰や埃、砂埃が四六時中舞っており、それらを多量に吸い込んでしまうと、呼吸器系等の病気を患ってしまうらしい。
それらの劣悪な労働に駆り出されるのは決まって、自分ら無能生産者であり、すでにここに住む何百人かの無能生産者がそこへ連れられ、すでに肺をやられた者たちも出始めているらしい。
当然無能生産者らに防塵マスクなどの希少品を支給されるはずもなく、次々と砂埃に肺をやられ、彼らの肺には一生消えない傷が残っていく。
そこに連行される作業者たちは、無能生産者の中でもさらに無能な生産者たちであり、セバスティアーノをはじめとした重役、もしくは無能生産者らを監督する立場にある現場監督の判断、意思のもとそこへと連れ出されてしまうらしい。
「まだあなたはここにきて日が浅いですから、今すぐにその場所に連れられる心配は皆無に等しいですが、しかし今与えられている仕事を十分にこなせなかったり、セバスティアーノの機嫌を損ねたりすれば、いずれあなたもその場へ連れられてしまうと思われるので注意しておいてください。
あそこに行き着いたら、最期です」
と強く言われたのを覚えている。まさに地獄といった言葉で形容するにふさわしい過酷な労働だということである。
おそらくちょっとした作業場のミスでも起こそうものなら、現場監督に点数を下げられ、すぐセバスティアーノにそのことを報告される。減点を重ねれば重ねるほど、地下へ連行されてしまう可能性が高まってしまうのだ。
コミュニティードヨルドはそうしたひどい格差社会だった。
世界の崩壊を前にみんなで手を取り合い、互いに助け合いながら生きながらえようといったスピリッツはこのコミュニティーにはまるで感じられなかった。
よくゾンビ物の映画、ドラマ、ゲームで見られるお互い助け合うといった清き心は微塵たりとも感じられない。
役に立たない者はまるで助けないし、なにがあっても知らぬ顔だ。
「役に立たない無能は仲間でない。無能に慈悲などありえない。」
まさにセバスティアーノはそうした思想を持った人間なのかもしれない。
そして今、目の前にいるグリアムスさん。ガサ入れをまず最初に実行に移した当の本人が、ここに来て渋めな顔をしている。
サイコロステーキ弁当を食って、もしそれがバレたら減点されるということに気に留めているのかもしれない。
だからここに来て躊躇しだしたのだ。
それはないだろう。グリアムスさん。希少な肉だ!いいから食え!もし仮にサイコロステーキ弁当を盗み食いしたのがばれたとしても、1人だけが食ったのではなく、ここにいる2人が食ったとなれば、2人分にその罪が分散されて、一人当たりの罪の重さがそれで軽減する!だからここはだまって食ってほしい!
とよくわからない理論をベルシュタインは自身の頭の中で構築していた。
罪を共に背負う覚悟がベルシュタインにはすでにできていた。しかしグリアムスさんにはその覚悟が足りてないように見受けられる。
説得しよう!ここは意地でもサイコロステーキ弁当を食いたいのだから。
そしてベルシュタインはグリアムスを説得するべく、どういったワードを口にすればいいかと考えてたところ、グリアムスが先にベルシュタイン自身考えがまとまらないうちに、言葉を言い放ってきた。
「いやしかしですねよくよく考えてみてください。ベルシュタインさん。・・・これはどう見てもごちそうです。」
そうですとも。ごちそうですとも。それもとびっきりの。だからどうしたというのだろうか。
「わたしはちょっと遠慮しておきます。少し惜しいですが・・・・それはベルシュタインさんがどうぞ1人で召し上がってください。」
「ちょっと待ってくださいよ!グリアムスさん!そりゃないでしょうよ!食べましょうよ!食べないと損ですよ!次いつ我々が食肉を口にする機会があるかどうかもわからないのに・・・・」
グリアムスさんは何か宗教か秘密結社か何かに入信していて、それで豚肉、牛肉、サイコロステーキなどなどを食べてはならぬといった宗教上の制約に縛られているのではないか?
そうだ。きっとそうに違いない。でなければ今ここで食べない理由はない!
「だとしても今の世界に宗教なんて知ったことか!ですよ!宗教はもうほろんだのです。グリアムスさんはこのご時世になってまでも、宗教のしがらみに縛られる必要はないのですよ。
ほらここに!貴重なたんぱく質の塊がどーんとこの白ご飯の上に乗っかっているんですよ!これらを貪り食わない理由なんてないでしょうに!」
「一体全体ベルシュタインさんが何の心配をかけてくださっているのかよくはわかりませんが、一応わたくしめは元々無神論者であるので、食べ物に関するそのような心配はご無用ですよ。別に豚肉でも牛肉でもなんでも口にできます」
「だとしたらなぜ?」
「別にわたくしが食べないからと言って、あなたに食べるなとは言ってません。それはあなたの自由です。わたくしめがそれを止める権利なんてどこにもありはしません。
しかしですね、仮にそのサイコロステーキ弁当を盗み食いしたのが、わたくしたち以外の誰かにばれようものなら、おそらくそれ相応の罪に問われることになるでしょう。
最悪あの地下労働に放り込まれるかもしれません。故にわたくしはそのようなリスクを負いたくはないものですから、そのサイコロステーキ弁当はあなたにすべて差し上げます。
どうか心赴くままに召し上がってくださいな。ただしその弁当の盗み食いがばれても、わたくしは一切の責任は取りませんし、フォローもいたしませんけどね。その点何卒よろしく。」
「うううう・・・・」
それはほぼほぼこのサイコロステーキ弁当は食べてはいけないといった一種の遠まわし的なグリアムスさんなりの警告に聞こえた。
つまり食べたらあかん!・・・・そういった意味合いが込められていた。
グリアムスさんにそう説き伏せられたものなら、おとなしくここは引き下がらなければならない。
そう思うようになってくると自然とこのサイコロステーキ弁当に手を付けることも気が引けきた。
自分はその言葉に促されるままについに食うのをあきらめ、その弁当を元にあった場所へと戻していった。
サイコロステーキ弁当を戻し終え、違う食料を再び探そうとあたりを散策していると、またもや銃声が聞こえてきた。
しかし今度は人の悲鳴とセットに、かなりこのキャンプに近い距離まで聞こえてきた。
その音に自分とごく近しい距離で、別のテントにがさ入れしていたグリアムスさんもそれに気付き、はっとその音がした方角へと振り返った。
するとそこには人の血肉を貪り食っていた、動物の姿があった。羽には機関銃がその枚数毎に装備されており、その銃口からは少々煙がもくもくと立ち込めていた。
山のすぐそこにその姿があった。身なりはクジャクのそれだ。
そのキメラ生物は山の中から血肉を口に含んだまま、ずっしり並べられたキャンプテントの方をじっと目を凝らすように見ていたのであった。
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