第13話 土砂処理も佳境へ

2日目の作業がはじまろうとした。昨日の現場にベルシュタインらD班の無能生産者たちが到達すると、そこにはパワハラ現場監督の下僕げぼく的存在の現場監督ら数名がすでに待機していた。



「やあみなさん。おはようございます」



「おはようございます」



 下僕現場監督らは無能生産者らを見るなり、丁寧にあいさつをしてくれた。彼らもあいさつを建前上し返す。



「もうみなさんは知っての通りだと思いますが、僕らの現場総主任は若い有能生産者たちを捜しに出かけていきました。おそらくは当分の間、現場にはお戻りにならないと思います」



 ということは今日はパワハラ現場監督不在での土砂処理作業となる。



「あっそういえば、このベルシュタイン君が言っておったのだが、当のそのパワハラ現場監督がわしらに俺が戻るまで休憩なしでぶっ通しで作業にかかるようにと言われたらしいのだが・・・・・・」



「いや、その必要はありませんよ。自由にあなた方のタイミングで休憩はこまめに取ってください」



「ありがとう・・・青年よ。感謝する」



 そして下僕現場監督の数名はその場を後にした。2日目の作業の幕開けである。



 土砂の処理の仕方はざっとこんなものだった。まず土砂をすくうためのスコップで必死にほりほりして、そして荷車に土砂を積め積めして、それをどこかに運んで捨てる。こんな感じだ。



 自分の担当はほりほりして、工事現場用の荷車に土砂を積め積めする役割だ。土砂を運んで捨てる役は、ほかの作業者が分担してやっている。このように各自役割分担して作業に従事している。



 このほりほりしている作業をほぼ一晩ぶっ通しでやり続けているため、自身の肉体には筆舌に尽くしがたいほどの、疲労が蓄積していた。スコップを持ち上げる力も残っていない。



 それゆえ手を休めようと、地面にスコップを突き刺して、つかの間の休息を取ろうとすると、いつものパワハラ現場監督のあのくそ野郎からの怒涛の罵声が飛んでくる。



「手を止めたらしばく!」



 手は止められぬ。この終わりなき無間地獄に自分は耐えて耐え抜かなければならなかった。



 しかし今日は状況が違った。パワハラ現場監督は自身の手違いによって、あろうことか統領セバスティアーノに認められし有能生産者をキャンプまで案内するはずが、野宿をさせてしまった。



 その失態に気づいたのが、今朝の事。彼の表情には切羽詰まったものがあった。落ち着きがなくあせあせしていた。



 それらの理由があって、彼は有能生産者らを捜しに出なければならなかった。そのため今パワハラ現場監督はここにはいない。



 彼が居ないことによって現場の雰囲気は一層明るいものとなっていた。いつもなら16時間労働している間ずっとどんよりしていた空気はどこかへ行ってしまったように、和やかなものになっていた。



 普段なら飛び交わないような会話も数多く見受けられた。



「よ!青年!若いっていいね!精が出ますな!」



 アリアス一行が山奥へ小屋を探しに出るといった際に、無能生産者の中で唯一その意見に対して異を唱え出たエッシェンさんが自分にも気軽に話しかけてくれた。



 普段なら自分に対してめったに話しかけてこない人たちが今日と言う今日は見違えるかのようにお互いと会話し、互いの親睦を深めていった。



 そして朝方、下僕現場監督に言われた通り自由に小休憩を取ったりしながら作業を行っていた。



 うずたかく積もっていた土砂も、初日パワハラ現場監督が監督係としてついていたときよりも、格段にその量を減らしていったのがはっきりわかった。



 時折下僕監督がこのD班の現場を見回ってくるときも、いろいろと休憩を取るように言ってくれたりなど、無能生産者に対して最大限の気配りをしてくれた。



 そんな彼らから昼休憩時も、無能生産者にとって前代未聞の30分間も取るようにと言われた。



 パワハラ現場監督がにらみを利かしていた現場では考えられないものだった。彼が現場に赴いているときは、飯を1分で平らげて、また作業にうつれとよく言われたものだ。



 実質昼休憩は1分程度のものだった。しかも1分以内に飯を口に頬張れなかった者は、その今食っている飯を吐きだせと言われる始末であった。



 とにかくパワハラ現場監督というものは、めちゃくちゃな労働管理をしているまさに脳みそが筋肉で出来上がった人間だというわけである。



 そして昼休憩もおわり、また作業を再開する。休憩でカラダを十分すぎるほど休めたこともあってか、さらに作業のペースは加速していった。



 みるみるうちに土砂は減っていった。



 そしてあっという間に日も沈み、夜となった。下僕現場監督がD班の現場にやってきて彼らにこう言ってくれた。



「今日はもう作業を切り上げましょう。みなさん十分にやってくれました。このペースで行けば明日にもこの周辺の土砂は撤去できるはずです。また明日もよろしくお願いします。各自解散していいですよ」



 そう言われ、ベルシュタインら無能生産者は、ありがたくそのお言葉にあまえさせてもらうこととした。スコップと荷車を現場にきちんと並べ置いたのちに、その現場を後にした。



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「いや~今日は作業がはかどりましたな~」



「そうだとも、そうだとも。奴がいるとではいないとでは、こうも差がつくもんかね?」



「それだけあのパワハラ現場監督のやり方は間違っている!ということの何よりの証になったわい」



 作業の帰りも無能生産者のおっさん連中は話をして盛り上がっていた。



 ・・・当然ベルシュタインはその話の輪の蚊帳の外ではあるものの、彼らの話を聞いているだけでもずいぶんこちらとしても、心が温まってくるのを感じた。



 そしてそうしているうちに昨晩、一夜を明かした場所まで戻ってきた。



 ここまでだいたい20分か30分ほどかかった。



 重労働のあとにこれだけ徒歩で歩いたものだから、ひどくカラダが疲弊しているのは言うまでもないが、それでも今日はそんな疲れをあまり感じさせないぐらい、みんなのムードは上々であった。



 そして各自眠りにつこうと昨晩の寝床場所まで移動する。しかしベルシュタインは昨夜は見張り当番を通しでやっていたため、そんなものを用意している暇がなかった。



 どこに寝ようかとあれこれ考えあぐねていたところ



「ほれ。ベルシュタイン君の分の寝床はここだ。今さっき作っておいた」



 そこにはエッシェンさん自作の枯れ木や葉っぱなどを使って作られた自然なベットがあった。わざわざ即席で作ってくれたという。



 ほかの人達の寝床もエッシェンさんはじめ、無能生産者の数名が力を合わせて、全員分をつくってくれたらしい。



 ほんとに何と感謝を申し上げたらいいのかわからない。



「・・・・あ・・・ありがとうございます」



 彼は深々と頭を下げ、そしてありがたくそのベッドを使わせていただいた。



 そしてすぐに彼は少量のいびきを立てつつ、深い眠りについたのであった。








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 最初の小一時間は、エッシェンさんとメイデンさんが見張りについてくれていた。そして1時間が経過し、次の者と見張りを交代しようとしていた時だった。



 突然、勢いよくこちらに向かって走って来るものがあった。



「・・・ちょっと待て・・・なにかがこっちに向かってくるぞ!」



 まずそれにいち早く気付いたのはエッシェンだった。



 その声に無能生産者らが目を覚ました。



「いったい何があったんじゃ?」



 無能生産者の1人がエッシェンに話しかける。



「こちらに何かが向かってきている。急いで逃げた方がいいかもしれん」



「緊急事態というわけじゃな?・・・了解じゃ!わしはみんなをたたき起こしてくる!」



 そう述べた後、その無能生産者の1人がみんなを起こしにいった。



「おい!みんな起きてくれ!緊急事態だ!なにかがこっちに向かっているらしい!急いでここを離れるぞ」



 その声に無能生産者一同、たたき起こされた。



 そして身支度を整え、逃げる準備も万端というところでエッシェンは、



「よし!行くぞ!」



 無能生産者を引き連れて、逃げようとしていたその時だった・・・・





「おい!くそ虫ども!」






 そう大声を出しつつ、こちらに全速力で向かってくる者の正体が判明した。



「・・・・ありゃパワハラ現場監督じゃ。・・・キメラとかクマとかじゃなくてまだよかったの~」



 その向かってくるものの正体が人間であったことにほっと一息つく無能生産者たちだった。



「くそ虫ども!なぜおれが戻る前に、現場を離れた!・・・そして作業の手を止めた!!」



 開幕早々、罵声をあびせてくるパワハラ現場監督。彼は山の中を走ってきたこともあり、息を切らしながらしゃべっていた。



「まあそんなことはあとだ・・・・それよりも・・・・」



パワハラ現場監督は膝に手をつきながら、このようなことをみんなの前で言った。



「おらん!どこをほっつき歩いていったのか!・・・・全く分からん!1日探しても有能生産者、誰一人見つからねえ!」



 パワハラ現場監督は1日かけて、若い有能生産者たちをこの山の中で捜しまわっていたのであった。



 だが1日かけてもそんな彼は何の成果も得られないでいたのである。

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