第5話 コミュニティードヨルドのシチューは食えたもんじゃない

 今現在ここの食堂スペースにいる者たちすべてが統領セバスティアーノによってまるでひよこ選別のごとく、オスメスを選別するように、ふるい分けられた者たちのハズレくじの方に位置する。



 そこには以前の世界ではごく普通のサラリーマンだったもの、ごく一般のお年寄り夫婦、じいさん、ばっさん、学生、生徒などがいた。



 みな不幸にもセバスティアーノによって無能生産者と判断され、彼の独断と偏見で来させられた、いわば囚人みたいなものだった。



 配給されたシチューの入った皿を持ったベルシュタインは、食堂のすみの方のテーブルでぽつんと1人、人が束になってあれこれ談笑しているグループとは一線を画したところで座った。



 給仕係からの配給めしを皿で受け取り、それを持って食堂の端の方の席まで移動し、そこでポツンとただ1人座っていたところ、一人の男が自分の席の方へと同じくシチューの入った皿を手に寄ってきた。



「ベルシュタインさん。お疲れ様です」



「お・・・・お疲れ様です」



 自分に対してこうも気さくに話しかけてくれるこの人はグリアムスさん。世界がこうなる前ではごく普通のサラリーマンだった。



 いや正確にはサラリーマンだったといった方が正しいかもしれない。



 というのもこの異変が起こる直前のタイミングでリストラにあい、そのころは新たな職探しに奔走していたらしい。



 勤め先の会社が倒産し、解雇の憂き目にあっていた。グリアムスさん自身が住んでいた町にも自分の故郷と同じく怪物が現れ、壊滅してしまったらしい。



 そこには怪物殲滅のため、自分の街とは異なり、機動隊、軍隊の動員もあったらしいのだが、結局怪物の返り討ちにあい、やがて機動隊、軍隊も撤退を余儀なくされたことで、グリアムスさんを含むその地域住民は彼らに見捨てられる形となって、町は崩壊してしまったらしい。



 そうしてグリアムスさんは、彼の住む地域のとなり街にある避難所にのがれ、しばらくはそこですごしていたのだが、やがてそこにも怪物の魔の手が忍び寄り、おおよそ彼が来て2週間程で突破、崩落させられていた。



 その後は独り身で外の世界で放浪しているなか、コミュニティードヨルドの人達に遭遇、即座に救助され、現在はコミュニティードヨルドにて、今自分と同じ席、同じ立場で同じ釜の飯を食っているということだ。



 そしてグリアムスさんがここの豚小屋にぶち込まれるまでに至った経緯というものは、自分とほぼ同じである。ここに来させられた見渡す限りの大量の無能生産者はセバスティアーノの裁量ひとつでここに押し込まれた負け組の人間たちである。



 グリアムスさんと自分も例外ではなかった。



「晩御飯時に、席ご一緒してよろしいでしょうか?」



 ベルシュタインはタオルを片手に、シャワールームに裸でむかっているさなか、すれ違い様に「今日の晩飯時にご同席してよろしいか」とこのようにはなしかけられ、いつものごとくその問いにたいし、ベルシュタインはうなずき了承していた。



「ずいぶんここに来るまで遅かったですね」



「そのようですね。いつものことながら配給待ちしている人たちが列をなしていて、わたくしもその波にのまれてしまいました」



「それは気の毒に。ご愁傷様です」



「またまたベルシュタインさん。わたくしとしゃべるときはそんな丁寧な口調はよして、もっと砕けた調子でいてくれればいいのに。そもそもあなたはそんな柄の人間ではなかったでしょう?」



「いいえ、これでいいのです。これで」



 おそらく自分がこのようにバカ丁寧な口調に変貌してしまったのは、グリアムスさんの人柄と彼のとても紳士めいた丁寧な口ぶりに感銘を受け、影響をされてしまったからだと思われる。



 そうとしか思えない。はじめて彼とあったときはこうでもなかったが、今となってはいざ彼とこうして親密になってからは、見事なまでに丁寧な口調が板についてしまい、元の調子で話すことを忘れてしまった。



 なんとかして彼の前で、彼の言う砕けた調子で話そうと努力はしてみるものの、まるで呪縛のように丁寧口調が型にはまってしまい、どうにも修正できそうにはなかった。



 それからずっと彼としゃべる際、彼が自分のそばに居る際はずっとこの調子で話すようになってしまった。



「グリアムスさんも揃ったということで、そろそろこのシチューを召し上がりましょうか」



「そうですね。ではでは、いただきましょう。長らく待たせてしまい申し訳ありません」



 二人は手を合わせ、いただきますと言ったのちにスプーンを手に取り、シチューをいただきに上がった。

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