第3話 統領セバスティアーノの謁見

 中に入ると、その邸宅内は外同様、内装も豪華そのものだった。金ぴかな塗装にレッドカーペットが敷かれ、まさに金持ちの屋敷そのものだった。シャンデリアもまばゆいほどの光を放ち、平民身分のベルシュタインは終始そのすごさに圧倒された。



 そしてつかつかと屋敷を歩くセバスティアーノについていくと、やがて応接間とおぼしき部屋へ案内された。その応接間に立ち入ると、これまた国賓をパーティーのゲストとしてお呼びするレベルの豪華なもので、もう言いようがないくらい素晴らしいものだった。



 その部屋のすごさっぷりにベルシュタインは唖然としていると、セバスティアーノがとある一角に置かれた椅子に腰かけ、ベルシュタインも一言断ってからもう一つ用意された席の方に座った。



「どうだね?座り心地は?」



 そう彼に問われるものの、すごいですね。との一言だけをベルシュタインはただ述べるにとどまった。



「具体的にどうすごいのだ?教えてくれたまえ」



 さらに彼から問われるも、



「いやーただすごいですね・・・・・・・・とにかくすごい・・・」



 セバスティアーノに具体的にどうすごいのかと問い詰められていたが、それに対してまったく要領の得ない返答を彼は返してしまった。その様子にセバスティアーノはくすりとも笑わないで、全く表情を変えぬまま黙ってそれを聞いていた。



「・・・・まあいい・・・そろそろ本題に入るか」



 そう言うとセバスティアーノはここまでの経緯とベルシュタイン自身がどのような人生を過ごしてきたかについて聞いてきた。



 ベルシュタインは拙いながらも、かつて大学で模擬面接をしたときの事を思い起こし、その時の要領で自分自身のありったけのエピソードを話していった。



 しかしながら模擬面接ですらうまく自己アピールできず、エピソードトークもできず、そもそも模擬面接時の場においても、一言も一切口に出てこなかった自分がこの期に及んで、急に言葉巧みにしゃべくりするなんてことができるはずもなかった。



 それでもたどたどしくはあったものの、なんとか言葉をつむぎだし、言葉を選びつつ、最後までしゃべりきることができた。



 その話にセバスティアーノは終始、頬杖をつき、話半分にしか聞いていない格好だった。まるで自分の話など鼻から興味もなく、聞く価値がないとまで言いたげな態度にベルシュタインは内心腹を立てていた。



 そしてこちらから話せることは全て出し尽くし、ベルシュタインは口を閉じた。その間、セバスティアーノが再び口を開くまでにしばらくの間、その部屋には沈黙が続いた。



「・・・・・・・ん?ああ、話はもう終えたのか?」



 そう聞かれ、うなずくベルシュタイン。セバスティアーノがベルシュタインを全く相手せず、聞く耳をもってない様子であったのは明白であった。



「やはりお主は吾輩の見立て通り、無能生産者のようだ。はじめてお主を玄関先で見かけた時からずっとそう思っておったわい」



 無能生産者?なんだそれ?ベルシュタインにとって聞きなれない言葉だった。



「お主が無能生産者である以上、このコミュニティードヨルドに居住する際の待遇をよくするわけにはいかぬ。・・・・・お主は今日から強制労働に従事してもらおう。」



 待遇?強制労働?なんの話だ?そのことを言われてもピンとこず、ぼっ~としていると、



「これだけ言われてもまだお主の置かれている状況が理解できぬようだな。やはりまごうことなき無能生産者じゃ。お主はこのコミュニティー内では全くの役立たず。よって役立たずには過酷な労働を課すのだ」



「え?え?え?どういうことでしょうか?」



「もういちいちお主のような無能生産者に事のあらましを説明するのも面倒だ。言葉も通じぬ無能はきらいじゃ。手短に言う。お主はこの先ずっと、このコミュニティードヨルドのために働き、根を上げることなく、生涯をこのコミュニティーのために捧げるのだ。もしその仕事に耐えられず、根を上げるようなことがあれば、お主を外に放り出す。そういうことだ。ほらさっさと連れていかんか」



 そのセバスティアーノの一言を合図にして、セバスティアーノの背後からニョキッと2人の男が急に現れ出た。その連中にむりやり腕を背後から捕まれ、ベルシュタインはその部屋を退出させられた。



「ちょっと待ってくださいな!なにが無能生産者なんですか?自分が?この自分がですか!?」



 そう騒ぎ、暴れているベルシュタイン。するとその言い分に腹を立てた連中が、腹に思いっきりボディーブローを食らわせつつ、このように言い放った。



「そうだって言ってるだろ!やはり無能生産者は自分が無能であることすら自覚できないのだな!やはり統領セバスティアーノ様の言う通りだ!」



「そうともそうとも!はやくこいつをあの豚小屋に連れていくぜ。あの無能生産者らがこぞって収容されているあの忌々しき豚小屋にな!」



「あんなところに収容されている連中はかわいそうでかわいそうで見てられないな!死ぬまで俺ら有能生産者の踏み台となって人生を全うすることになるなんてな!」



「「ガハハハハ!」」



 二人の大男に連れられた先は、コミュニティードヨルドの端の端に位置するまるで豚小屋と呼んで差し支えない汚らしいおんぼろな宿舎だった。遠目に見てもその周囲の街と比べてその異様さが際立つくらいの建物だった。



「「無能生産者一匹、ご案内~♪」」



 その二人の息の合ったハモリとともに、その豚小屋と呼ばれる施設に連れ込まれ、ベルシュタインはそこに放り込まれてしまった。



 ガチャン!



「じゃあな!無能生産者!そこでせいぜい余生を過ごすのだな!」



「お疲れ、お疲れ~♪へへへ~~い♪」



そして鍵もかけられてしまった。



「待ってくださいよ!ちょっと!あんまりだぁ!こんなところに閉じ込めておくなんて!」



その日からというものの、ベルシュタインはこのコミュニティードヨルド内で過酷で地獄のような労働生活を余儀なくされた。自分の意思は全く聞き入られず、日々コミュニティードヨルドのため強制労働にかつがされ、心身ともに疲弊していくのであった。

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