第2話 コミュニティードヨルド
3週間経過し、その期間中ずっと家で潜伏していたものの、とうとう備蓄がそこを尽きた。水道は未だに稼働しているものの、電気は止まり、食料を切らしてしまった。サバ缶などが家にたんまりあったおかげで、今日までなんとか過ごせてきた。・・・・母親のサバ缶好きには感謝しなければならない。
未だ家に帰らない母の事を想いながら、今日まで生きてきた。電気も異変が起こって少しした後に、完全に止まってしまいゲームはしたくてもできなくなってしまった。
時折、外の様子を窓越しにのぞいたりするが、街には至る所にモンスターが散見された。
街にはびこるそのモンスターは、ネット上では通称キメラと呼ばれており、身なりは野生のライオン、トラ、クマといった何の変哲もない野生動物のそれだが、彼らの体の一部位に人が武装した際に装備する銃火器といったものが、どこかしらに必ず生え散らかしているのが特徴である。
そして身体に生えたその銃火器をまるで手先の感覚のようにして、その野生動物が使いこなしているのである。
それらの銃火器を駆使することで、狩りをしたり、はたまた自分の身を守るためにその銃火器を利用しているのであった。いわば動物兵器であった。
その動物兵器が出現したことによって、街の勢力分布図はたちまち人間とそのキメラ生物とで完全に逆転してしまったのである。
野生動物が手足の感覚の要領で銃火器を使われようものなら、まさに鬼に金棒。そのキメラに力のない人間が遭遇すれば、逃げ切ることは困難に近かった。
3年もほぼほぼ家から外に出ず、引きこもってゲームばかりしていた身の自分が、いざそんな状況下で外に出ようものなら、すぐに奴らに襲われ、あっけなく死んでしまうだろう。
故に決して外に出るわけも行かず、こうして家でじっとしているほかなかったのである。
そして今、食料はそこを尽き、リビングにて腹を空かせ極度の飢餓状態となり、彼はぐったりしていた。もう立ち上がる気力すらなかった。身なりもずいぶんみすぼらしくなり、栄養失調も引き起こしていた。
余命いくばくもない中、じっと死を待つしかないその状況の中、不意にドアが打ち破られ、ドタドタと足音を立て、家の中に入って来るものがいた。
玄関を超え、リビングまでそれが入って来るとしっかりその正体を認識できた。・・・・・それは人間だった。
日中、堂々と不法侵入してきた彼ら、彼女らは銃やライフルを所持していた。服装はいたって普通で、ただの一般人と見える。
その集団がリビングに一斉になだれこみ、そのうちの一人が自分の姿を認めた。
「生きてる!生存者だ!生存者がいたよ!」
その一人がみなみなにそうさけび、そのことを伝えると続くように、他の連中も声を上げていく。
「なに!?この町にもまだ生き残っている奴がいたのか!」
「今すぐこの人も車にのせて、連れ帰りましょう!」
「でもこの人ずいぶん痩せこけているよ。食料をもう長いこと口にしていないかもしれない。だれか食料持っている人がいたら、この人に分けてやって!」
てんやわんやしているうちにベルシュタインはそのグループの人らに救出され、車に搬送され、生まれ育った街を離れることとなった。
父は家に残し、母は行方不明。数々のキメラと道中遭遇するも、その都度、ライフルやスナイパーで武装しているその集団が、キメラ生物を撃退していくのを目に焼き付けながら、ベルシュタインの意思とは裏腹にどこか別の街へ、彼ら彼女らとともに連れられて行ったのであった。
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車で遠路はるばるかけ、ようやくとある街が見えてきた。
その街は遠目からみても手に取るほどわかるくらいに、巨大な壁で覆われていた。
どの地域の街であろうか?生まれてこの方ずっと地元を出たことのないベルシュタインにとって、どこに位置する街かわからない分、ここが異国の地であるように思えた。
途中車を走らせている中、眠りについてしまったベルシュタインは、どの方角にある街なのかすらも見当もつかなかった。
そしてようやく巨大な城壁都市のようなコミュニティーの出入口と思われる、これまた巨大な城門の前まで来た。おおよそ10メートルか20メートルはあるだろうか。大型トラックを上に何台積み上げても、あまりある門だった。
そして門がゴゴゴゴゴッときしむような音をたて、ゆっくりと開かれる。
その門の中に立ち入った瞬間、大勢の人間がその壁の中で街の中を往来し、暮らしている姿が目に入った。
行きかう人々は外の世界で起こった異変そのものの絶望感を感じさせないくらい、明るくにぎやかに道を往来していた。
そしてそこに住む住民が外から戻ってきた一台の車を見るなり、いっせいに集まってきた。一瞬のうちにギャラリーができ、大勢の人が自分の姿を見た。
「ひさびさの生存者だ!」
「よく今日まで生き残った!」
「ここに来れば安心よ!」
とあれこれ言っていたのが車の助手席に横たわっていた自分にも漏れ聞こえていた。
そしてそのまま車に乗っけられたまま、その街の診療所と思われる場所まで運び出された。
その診療所らしき建物のそばで車が止まったかと思うと、さっそくその診療所からはナース服に身を包み、とびっきり美人な看護士数名が出迎え、自分は彼女らに抱きかかえられながら、とある病床に運ばれていった。
病床に就くとさっそく医者らしき白衣を着た男一人に問診を受け、検査などもされたのち、様々な処置が施されることとなってその日は終えた。
翌日、翌々日もいろいろ介抱していただき、ようやく容態の方も安定した。すっかり元の健康状態まで回復し、立って歩けるまでになった。
その様子を見て、その日ベルシュタインのかかりつけ医だった人物にこう声をかけられた。
「このコミュニティーのトップの人が面会したいと言ってきている。わたしについてきてくれ」
そう言われ、とある豪華な邸宅まで彼に引率されていった。
診療所からコミュニティーの人がたくさん行きかう大通りを出ると、その道なりを進み、コミュニティーの中心部分へ向かっていった。そしてコミュニティーの中心地帯を進むと、周囲の建物よりひときわ大きいある邸宅の前まで来た。
それはまるで宮殿かのような大規模な邸宅でまさに皇帝なり大領主さまが住んでいるような圧倒的なものだった。
その医師とともにその宮殿のような邸宅の玄関部分へ向かうと、そこには呼び出し鈴があった。それを彼が押すと、するとまもなくして中から1人の人物が出てきた。
「おや?」
その人物は立派な髭をはやし、中世チックな貴族衣装を着飾り、なんともまあ豪華絢爛な出で立ちで、ベルシュタインらをむかえていた。
「ようこそ、我がコミュニティードヨルドへ。お会いできて光栄です。吾輩は統領セバスティアーノ。このコミュニティーを統括する者である。こんなところで立ち話もあれですから、どうぞ中へお入りください。」
そう彼に言われるまま、招き入れられるかのようにして中の邸宅へと入っていった。
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