第5話 ステータス上昇

「どした?」

「ゴン、お前さっき、頭の中で音鳴らなかった?」

「あー……食べるのに夢中だったわ」

「……そうだったよな。これ見てみろよ。ステータスが上昇してるんだよ」


 ゴンが俺のステータス画面を覗き込んで来る。


 露木玲央

 HP 9 MP 5

 腕力 3 防守 3

 魔力 4 敏捷 7 

 運  3

 スキル 

 帰宅 1


「ふーん。ちょっとだけ力が強くなったみたいだな」


 悲しいほどにちょっとだけど。

 でも、強くなったんだ。

 一歩だけ前に進んでいる。


「ゴンのステータスは変化してるのか?」

「オレは……」


 ゴンがステータス画面を開く。


 権田愛花

 HP 15 MP 2

 腕力 16 防守 7

 魔力 1 敏捷 1 

 運  3

 スキル

 暴食 1


「オレも上がってるな」

「だな……これってさ、もっともっとモンスターを倒したら、もっともっと強くなれるってことだよな?」

「そうなんじゃねえの? あんま興味ねえけど」

「お前は食べれたらそれでよさそうだもんな。でも俺は強くなりたい……強くなれたなら、あいつらを見返すことができるかも知れない」


 下柳たちのことが頭に浮かび、憤怒の感情と、強さへの渇望が湧き上がる。

 強くなれば、あいつらにも舐められないかも知れない。

 しかしここで強くなったからって、強さを持って元の世界に戻れる保証はないけど。

 そもそも帰り方が分からないけど。

 うん。そこはそこでまた考えるとして……とにかく強くなりたい。

 どちらにしても、気持ち的には、きっと成長できるはずだから。


「お前が強くなりたいって言うなら付き合うぜ」

「ありがとう、ゴン」


 ゴンの真面目な表情、そして漢らしい言葉に俺は素直に感動する。

 本当に良い奴だな、お前は。


「食事のついでだけど」

「そっちのついでかよ!」

「当然だろ。オレらが強くなることなんて、付け合わせの野菜みたいなもんだ」

「……あってもなくてもいいってことかよ」

「まあな。でも、大事なことだとは思ってるよ」

「…………」


 こいつ、飯にしか興味ないのに良い奴なんだよな。

 良い奴なのに飯にしか興味を持たないから、人から冷たく思われる。

 総合的にみたら……やっぱり良い奴ではある。

 俺はそんなゴンの顔を見て、呆れ気味で笑みを浮かべた。


「仕方ない。俺もお前の食事に付き合ってやるか」

「ってか、お前もモンスター食わないと餓死するんじゃねえの?」

「……モンスター以外の食事を探すとするか!」


 現実逃避をするように、俺は暗い森の中を見渡した。

 嫌だよ。できるならモンスターなんか口にしたくないよ。


 すると、スライムを倒した跡に、キラリと光る物が見えた。


「何だ? それ?」

「どれ?」


 スライムを倒した場所、すなわちゴンの足元に光る物があり、彼女な落ちているそれを拾い上げる。


「……石?」

「石だけど……ちょっと普通の石とは違うような気がするな」

「石の違いが分かるのかよ。お前、そんな趣味あったの?」

「ねえよ。俺が石集めてるとこ、見たことあんのかよ」

「無いな」


 俺はため息をつきながら、ゴンの持つ石を手に取る。


「なあ、一回部屋に戻ろうぜ」

「なんで?」

「もう暗いしさ、それに、戦うにしてももう少し準備というか……素手はマズいだろ」

「オレは素手でも構わんが」

「俺は構うんだよ。お前ほど腕力があるわけじゃないからな」


 振り返り、俺たちが出て来た部屋の方へ視線を向ける。

 見た目は小屋のような造りになっており、窓は一つもない。

 ま、二部屋しかなかったし、こんなもんか。


 俺たちは小屋に入り、腰をかける。

 するとゴンは急に青い顔をし、パタンと倒れてしまう。


「どうした、ゴン! 大丈夫か?」

「う……ううう」


 俺は彼女の額に手を置き、真剣に心配する。


「……腹減った」

「……寝てろ」


 心配するだけ損した。

 俺は呆れながらゴンと離れ、落ちている本を手に取り視線を落とす。

 まだまだこの本から情報を得られるはずだ。


 役に立つ情報を搔き集めて、安全に生活していく術を手に入れる。

 後、帰り方とか書いてないかな。


 本にしっかり目を通していき、必要な情報を抜き取っていく。


「【スキル】……【倉庫】?」


 数ページ読み進めていると、【倉庫】というスキルの情報が表示されていた。

 そのページをよく確認しようとするが……全く理解できない、古代文字のような物が描かれていたので俺は諦める。

 こんなもん読めるかよ!


 もっと日本人にも読める使用にしておけっての。

 と言うか、何でここだけこんな文字が……


 そう想っていると、古代文字のような物が光を放つ。


「うおっ!」

「…………」


 眩い光に、俺は小さく叫ぶ。

 ゴンは既に眠りにつて、反応を示さない。


「何だったんだ……」


 本に変化は見られない。

 だが、俺はここでとある変化に気づく。


 何と、【倉庫】のスキルの使い方を理解していたのだ。

 さっきまで知らなかった知識と技術が、俺の中にある。


 そうか。

 あの文字は目を通すだけでスキルを得られるという物だったのか。

 俺は新たなる発見に胸を躍らせ、眠るゴンに視線を向ける。


 話したらこいつ、ビックリするんだろうな。


「…………」


 そんな風にワクワクしていたが、こいつの興味のなさを思い出す。

 とにかく明日話をしてやろう。


 俺も程よい眠気を感じ、ゴンと同じように横になった。

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