第52話 一人ぼっちの戦い 第三話

「あなた酷く混乱しているようなのですが、アレは真実の一部分を切り取っただけの不完全な情報なのです。あなたのお母さんが何を言っていたのか、佐藤みさきは何の目的で全員を殺したのか。それを確かめたいって思っていたりはしませんか?」

「思いますけど、アレを見た後にみさきちゃんに会いに行くのは怖いんですけど」

「そう思うのも仕方ないと思いますが、佐藤みさきはあなたの事を殺したりはしないので安心してください。あなたに助けられたことに大変恩義を感じているようで、あなたの事だけは殺さないと決めているそうですよ。ただ、前田正樹があなたの事を殺せと言ってしまったら状況は変わってしまうと思うのですがね」

「なんであんなことをしたのか知っているんですか?」

「私は何も知りませんよ。私が知っているのは見てきた事だけですから。どんな理由があってどんな気持ちでアレを実行したのかなんて私にはわからないんですよ。わかっているのはアレが行われてしまったという事実だけなのです。そうそう、あなたは自分のお母さんが殺された段階で私とのリンクを解除してしまったのでその後に何が起こったかはご存じないのですよね?」

「話では聞いているんですけど、お母さんたちが殺された後にその領地にいる人達を皆殺しにしたって聞いてますけど。これも事実は違うんですか?」

「そうですね。完璧とは言い難いですが、大体は私が見てきたものと一致していますね。ただ、根本的に説明が下手なのか重要な部分はあえて伝えていないようにしていると思えますね。佐藤みさきの説明を聞く限りだと、あの領地にいた敵兵を全滅させることに成功しているみたいです。ただ、あの領地にいた戦闘員と非戦闘員を駆除したのは他の世界の魔物である。どこから持ってきてどこから取り出したのかは存じ上げないのですが、魔法を使えない佐藤みさきが使っているという事で、アレは魔力がほとんどないような人でも使えるという事なんですね。あなたも一つ貰っておけば戦闘の役に立てるんじゃないでしょうかね」

「私がアレを使ったとして、私の力じゃ絶対に服従しないと思うんですけど。そんなのを与えられても使いこなせないんで、それだったら無い方が真面目だってことですよね」

「そうでしょうね。アレは見ようによってはなんにでも見えてしまいますし、アレを銃に見立てて練習をしているのだが、はたから見ると明らかにヤバい連中がまぎれこんでいるので、私達はそれに巻き込まれないように大人しく暮らしていこうと思っているよ。でも、出来ることならお母さんを殺した理由を知りたいんだよね。どんな気持ちで殺しちゃったのかな?」

「確かに。私もどうしてお母さんを殺さないといけなかったのか聞いてみたいです。その理由に納得は出来ないと思いますけど、どういう気持ちだったのかは知りたいです。今も特に何かをするわけでも無いのですが、私はみさきちゃんが自由に行動しているのにも意味があるんじゃないかなって思うんですよ。だから、みさきちゃんに真実を語ってもらわないと意味が無いんだよね。それが出来れば苦労しないと思うんだけどね」

「少しでも機嫌を損ねて戦ってしまったとして、私は無事に戻ってくることが出来るんでしょうかね?」

「戦いになったら間違いなく殺されますね。その後も様々な素材を生かして天使を作ってみようかなと思っているのです。魂の入っていない器はかんたんにこわれてしまうんで、別の世界の魔物も簡単に駆除できちゃうかもしれませんね」


 私はこの悪魔は何が目的でここにやってきたのかもわからないし、本当にみさきちゃんたちがアレを行ってしまったのだろうか。私にはあの映像が作りものなのではないかと少しだけ疑い始めてしまっていた。


「おや、肝心な事は何も教えてくれない。それどころか、佐藤みさきを止める力を持っているはずなのに、何もしないで見ていただけなのも納得できないのだ。って顔をしていますが、私はこの世界に何の関りも持っていない悪魔ですよ。それでも、生死にかかわることには特に関わらない様にしようとお互いに決めあっているのです」

「私はそのリストに名前があるんですか?」

「ヒカリさんの名前は無かったと思いますが、アレを追い払ってしまったら書かないわけにはいきませんよね?」

「リスト入りとかそう言うのが目的じゃないんでどうでもいい話なんです。私はみさきちゃんになんであんなことをしたのか聞いてみたいだけなんですよ」

「それは素晴らしい。ですが、これは覚えておいてくださいね。私は基本的に本当の事しか言わないのですが、それでも時々うそをついてしまうこともあるんですよね。もしかしたら、あなたが見てきた景色も別の場所だったりするかもしれませんね」


 私が見てきた風景も人物も全て飛んでしまったっぽいのですが、私はそんな事は気にしないでこの世界にいる天使を探すことにしたのだった。

 探して見付けられたとして、宙に浮いているので我々の攻撃は届かないと思うのだ。


 では、魔法を使うのは悪い事なのだろうか。

 その答えは誰も知らないのだが、この世界を支配しつつある佐藤みさきは魔法を一切使うことは出来ないのですがね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る