第10話 魔法使いになっていた私

 まー君が生き返って本当に良かったと思う。何度失敗しても諦めなくて良かったと心から思えていた。ずっと寝顔を見ていたのだけれど、失敗した時はずっと動かなくて悲しかったのに、成功した時には呼吸に合わせて体がかすかに動いていたのがとても嬉しかった。

 まー君を生き返らせるのに五年もかかってしまったけれど、その間にずっと体を守ってくれていた悪魔の人には感謝してもしきれないよね。あの人がいなければまー君の体はとっくの昔に朽ち果てていたのだからさ。その分、生贄は大量に必要だったんだけど、まー君を生き返らせるためだったんだから仕方ないよ。それくらいの犠牲は神様もきっと許してくれるはずだもん。


 それにしても、まー君の考えにはびっくりだよね。悪魔を退治して教団を助けるって言いだしたんだもんね。私は全然気が進まないんだけど、まー君がそう言うなら仕方ないかな。あの人たちの仲間をたくさん殺しちゃったけど、きっとそれは誰も気付いていないだろうし、私から話題を出さなければ問題無いはずだよね。

 でも、悪魔がこんなに大手を振って昼間から出歩くような世界になっているのに、あの人たちの神はいったい何をしているんだろう。こんな時こそ神の力の出番なんじゃないかなって思えるんだけど、教団の人たちの祈りが足りていないってことなのかな?

 そんな事はどうでもいい事かな。でもね、悪魔を信じて崇拝していたシスターたちがみんな悪魔の手で命を失ったってのは何とも皮肉なモノよね。悪魔を信じて待っていたのに、結果は悪魔の手によって命を奪われるって言うんだもの。もしかして、それがシスターたちの本当の目的だたのかもしれないわね。悪魔に殺される前のシスターって清々しい表情だったからさ。私もまー君に殺されるとしたらあんな表情になるのかなってちょっと思っちゃったよ。

 ここから教団の支部に行くにしても本部に行くにしても時間はかかるし、この世界には車ってものが無いから移動も不便なのよね。どうにかして楽に移動できる手段を見付けた方がいいかもしれないわ。


「ねえ、僕たちが向かう教団の本部ってここから遠かったりするかな?」

「馬車を使っても一週間くらいかかっちゃうかもしれないよ。何回か近くまで行ったことあるけど、普通に歩いていくのは無理かもね」

「そっか、そんなに遠いなら空を飛んでいった方がいいかもね」

「空って言ってもさ、飛行機とかヘリコプターも無いのにどうするの?」

「悪魔の中には空を飛べる奴だっているでしょ。そいつを使おうよ」

「タクシー代わりに悪魔を使うってこと?」

「そう言うことだね。魔物でも悪魔でも何でもいいんだけど、その本部ってとこになるべく早く行く必要があるんだよね」

「そんなに急いでどうするの?」

「早くいかないと、みさきの活躍を見届けてくれる人が減っちゃうでしょ。そうなると、みさきの武勇が広まる速度も落ちちゃいそうだからね。みさきはこの世界の英雄になるんだよ」

「英雄とかあんまり興味ないかも。でも、まー君がそう言うなら私は頑張るよ」

「ありがとう。みさきが英雄になってくれば計画もうまく行くと思うんだ」

「計画って何?」

「それはね、みさきがこの世界を救った英雄となって一番神に近い存在になるんだよ。そうすれば、神はみさきの前に出てくると思うんだよね。その後はどうしたらいいかその場で考えるとして、みさきがこの世界を悪魔から守るのが一番だね」

「それは簡単だと思うんだけど、それでも神が出てこなかったらどうするの?」

「そうだね。その時は教団の人を皆殺しにしちゃっていいんじゃないかな」

「皆殺しにしてもいいの?」

「いいんじゃないかな。神を信じている人が全員死んじゃうまで出てこない神になんて、全く価値は無いでしょ」

「そう言うもんなんだね。でも、この会話を神が聞いていたらどうしよう?」

「それはそれでいいんじゃないかな。聞いていたとしたら邪魔しに来ると思うし、そうなったらその時に考えればいいさ」


 まー君の話はちょっと難しかったけど、私の事を考えてくれていて嬉しかった。生き返ってからも変わらずに私の事を考えてくれてるし、誰よりも大切にされているなって思えるんだよね。

 空を飛ぶ悪魔を探すのは大変かもしれないけど、まー君のためにも一生懸命探さないとね。私も地上だけじゃなくて空から探すことにするよ。あれ、私が空を飛べるならわざわざ探す必要も無いんじゃないかな?


「ねえ、まー君にはいってなかったけど、私って空を飛べるようになったんだよね。だからさ、教団の本部まで私が連れて行ってあげようか?」

「それは嬉しいけど、遠くまで飛んで疲れたりしないのかな?」

「うーん、あんまり長い時間飛んだことないからわからないけど、そんなに負担は無いと思うよ」

「それならいいんだけどね。じゃあ、みさきがつかれる手前まで飛んで、疲れたら休むことにしようね」

「わかったよ」


 私は早速まー君を抱えて空を飛ぼうとした。飛ぼうとしたのだけれど、まー君をもって空を飛ぶというのは難しそうだった。思いとか持ちにくいとかではなく、まー君の中にある光っぽい力が私の邪魔をしているのだ。私の力とまー君の光の力が反発しているのは仕方ないのだけれど、まー君の中にある悪魔の力も絶妙に邪魔をしてきているのだ。どちらかだけなら対処のしようもあるのだけれど、同時に反発しあう力が襲ってくるのは少しだけ集中力を削がれてしまう。その少しが空を飛ぶという事には大きな影響を与えているのだった。


「ごめんなさい。まー君の中にある光の力が私の力を消しているみたいなの。うまく飛べないよ」

「そっか、それなら気にしないでゆっくり行こうよ。早く着くのに越したことは無いんだけど、ゆっくり行くのもいいものだと思うよ」

「そう言ってくれて嬉しいんだけど、ここからまっすぐ行くのは山を越えなきゃいけないんだよね。でも、そんなのって面倒だし疲れちゃいそうだから、私達が通れそうなトンネルを作りながら進むことにします」

「そんなことが出来るの?」

「うん、土を削る魔法と、外壁を固めて安定させる魔法を同時に使えば大丈夫だと思うよ。少なくとも、私達が通っている場所は安定させることが出来るからね」

「みさきの魔法って便利なんだね。戦いだけじゃなくて土木作業も出来るなんて万能すぎるよ」

「上手く使えば治水工事とかも出来ると思うし、まー君も困ったことがあったら何でも言ってね。役に立てたら嬉しいからさ」

「そんなことしなくてもいいんだけどね。みさきは僕の傍にいてくれるのが一番嬉しい事だからさ」


 私はまー君の役に立てているという事だけでも有頂天になっていた。傍にいるだけも嬉しいっていうのは私も一緒だよ。それに、もう二度と死なせたりしないからね。

 実は、まー君を生き返らせるときに魂の一部を私の中にもらっちゃったんだ。これはまー君には内緒だけど、その一部を私の中に取り入れておくことによって、万が一死んじゃったとしても簡単に生き返らせることが出来るようになるって言ってたよ。

 でも、それにはちょっとした副作用があって、魂を一部でも共有することによってお互いに依存する気持ちが強くなってしまうんだって。それって、前と何も変わらない気もするんだけど、お互いに依存しあえるってとても嬉しい事かもね。


 そんな事を考えていると、あっという間に教団の本部前まで着いていたのだった。

 山を越えるという事をしなければ意外と近いのかなと思っていたんだけど、穴を掘っている時に教団の近くの山にワープしていたみたいなのよね。どうしてそうなったのかはわからないけど、魔法って都合のいいものだと思えばそれでいいかな。


「アレが教団の本部なんだね。とりあえず、正面から正々堂々と行ってみようか」

「まー君がそう言うなら私も着いていくよ」

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