第9話 おはようと言ってもらえた朝
目が覚めると、そこには僕の寝顔を覗き込んでいたと思えるような位置にみさきの顔があった。とても懐かしい気持ちでいたのだけれど、僕はいつの間にベッドで寝ていたのだろうか。眠りについた記憶も無ければ、着替えた記憶も無かったのだ。
「おはよう。まー君はよく寝てたみたいだけど、体に痛いところとかないかな?」
「おはよう。そうだね、これと言って痛いところはないけど、少し体が凝っている感じはするかも。ちょっと寝すぎちゃったのかもしれないね」
「まー君はずっと寝てたからね。起きないんじゃないかって心配になるくらいだったんだからさ。それとね、まー君が寝ている間にこの辺にいた聖職者たちを全員捕まえて生贄にしちゃったよ」
「聖職者?」
「そっか、まー君は聖職者たちの事を知らないんだったね。私達がこの教会に入る前に襲ってきた集団がいたと思うんだけど、その人たちの元締めが神を信仰している教団の人だったんだよ。でね、その人たちの命が必要になったんで、ちょっとだけその人たちを生贄に使ったんだ。でもね、これは絶対に必要な事だったから勝手にたくさん殺しちゃったかもしれないけど、怒らないでね」
「みさきが必要だと思った事だったら気にしなくていいんだよ。あの人たちって色街に拠点があるって言ってたんだけど、色街ではなかったんだね」
「それなんだけどね、色街って私達が思っているような歓楽街的なのじゃなくて、色女って言う聖職者が支配している街だったみたいだよ。もちろん、歓楽街の色街もあるんだけど、あの人たちが言ってたのは色女の方の色街だったんだって」
「色女ってのが何なのか思い出せないんだけど、それって強い人たちなのかな?」
「どうだろう。まー君と一緒に見た一人目はそれなりに強かったと思うんだけど、対策をしっかり立てておけばどうってことなかったよ。最初の時は魔法の事を何も知らなかったから抵抗できなかっただけだし、今だったら対策もばっちりだから安心してね。それとね、私も魔法を使えるようになったんだよ」
「え、みさきが魔法を使えるって凄いじゃん。みさきはやっぱり天才なんだね」
「まー君のためだったしね。それでね、魔法を使えるようになった代わりに、私は人間じゃなくなっちゃったんだよね。ごめんね」
「人間じゃなくなったってどういうことなのかな?」
「えっとね、詳しく話すと長くなるんだけど、この世界の人間ではない私達が魔法を使うためには、一度その体をこの世界に再あわせて構成する必要があるらしいの。それでね、その再構成をするためには贄となるモノが必要で、それは目的にもよって変わってくるんだよね。でね、今回はまー君を蘇らせるのが目的だったから、神に近い存在と悪魔に近い存在が必要だったの。神に近い存在はあの教団の人たちを使えばいいだけなんだけど、神の影響力が大きいこの世界に悪魔はほとんどいないんだ。そこで、悪魔を召喚するためにも多くの生贄が必要だったんだ。でもね、それってこの世界にいる人たちだけじゃ全然足りてなかったの。どうしたらいいんだろうって考えていたらね、前に呼んでおいた悪魔の人が大天使を呼べばいいよって教えてくれたんだよね。大天使って誰だろうなって思ってたんだけど、私がこの世界に来るきっかけになったミカエルって天使がいたのを思い出したのね。それからはずっとミカエルを探していたんだけど、結局は見つからなかったんだ。でもね、その代わりになりそうなものを見つけたんだよね。それが、金で出来ている聖ミカエル像ってやつだったの。何とかなるかなって思って試してみたところ、それに反応した悪魔がたくさん出現したの。でも、まー君を蘇らせるのに必要な量ってのが決まっていて、余計なものを混ぜちゃうとまー君の心が悪魔に侵食されてしまう恐れがあるって言われてたから、必要のない悪魔はそのままこの世界に放っておいたよ。でね、神に近い存在と悪魔をちょうどいいころ合いで見計らって生贄にすることによって、まー君は無事に蘇ったのです」
「そうだったんだ。で、無事に蘇ったってことは死んでたってこと?」
「そうなんだよ。私がもっとしっかりしておけばまー君は死ななかったんだけど、次からはちゃんと守るからね」
「いやいや、そんな事は気にしなくても大丈夫だよ。みさきが無事ならそれでいいんだけど、みさきは僕が死ぬ前とは違うみさきなんだよね?」
「肉体的には違うかもしれないけど、心は前と一緒だよ」
「それなら安心だね。これからもよろしくね。それと、姿が見えないんだけど、シスターってどこにいるのかな?」
「あ、言うのを忘れていたけど、シスターは私が解き放った悪魔に殺されちゃった。この近くに住んでいる人だけじゃなくて、この街にいる人はほとんど死んじゃったと思うよ。教団側が悪魔退治に乗り出しているって話を聞いたこともあるんだけど、あの人たちの力じゃ悪魔を相手に戦うのは無理だと思うんだよね」
「それって、みさきなら余裕で戦えるってことなのかな?」
「今はそんなに余裕じゃないかもしれないけど、まー君は私の能力って覚えているかな?」
「確か、殺した相手の力を奪うとかだよね?」
「そうなの。それをうまく使えば楽勝だと思うよ」
「よし、みさきが強くなったらその教団に協力して悪魔を退治しちゃおう」
「ええ、あの人たちに協力するのってなんか嫌なんだけど」
「大丈夫大丈夫。協力して悪魔を退治した後はその流れて神の力も頂いちゃおうよ。神がどれくらい強いのかわからなけれど、みさきなら神よりも強くなれるんじゃないかな」
「そうなのかな。ちょっとよくわからないね」
「それと、悪魔を呼び出すのって結構複雑だったりするかな?」
「最初は結構複雑だったかもしれないけど、今は生贄さえあれば魔法で儀式を再現することが出来ると思うよ」
「その生贄って生きている人じゃないとダメなのかな?」
「いや、普通に死体も使っていたから問題ないと思うよ」
「それなら、呼び出した悪魔に命令を一つ付け加えようね」
「そんな事って出来るの?」
「出来ると思うよ。何となくだけど、悪魔と心が通じているような気がしているからね。生き返る時に悪魔を使った影響かな?」
「それなら、神の声とかも聞こえるのかな?」
「どうだろう。それは聞こえないけど、僕の中に聖なる力があるような気がするのは確かだね。何となくだけど」
「うう、それは私も薄々感じてはいたんだよね。目覚めたまー君に抱き着きたいって気持ちはあるんだけど、その聖なる力のせいかあんまり近付けないんだよね。どうしよう、私って悪い子になっちゃたのかな?」
「みさきは悪い子なんかじゃないよ。じゃあ、僕の中を少しずつみさきに合わせていこうね。きっと神が喜ばないようなことをしていればいいはずだからね」
みさきは魔法を使えるようになったみたいなのだけれど、僕は自分で魔法が使えるような感覚は全くなかった。
みさきが魔法を使っているところを見た後にも、僕の中に魔法を使えそうな感じは一切なかったのだ。僕が魔法を使えなかったとしても、みさきにこれ以上危険が及ぶ心配が無ければそれでいい。それに、死んだのがみさきではなくて僕で良かったなと心から思えたのだ。
だって、みさきが死んでも僕はみさきを生き返らせることが出来ないと思うからね。
お世話になったシスターには悪いけれど、シスターを生き返らせることはしないよ。みさきが生き返らせるのは僕だけなんだからね。でも、なるべく死なないように気を付けることしよう。
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