21回目のプロポーズ

真偽ゆらり

俺と一緒に

 一回目。

 新たに訪れた街の冒険者組合に並ぶ依頼を見て、街の依頼傾向を確かめようとした時だった。

 一目で彼女に心奪われ、勝手に口が言葉を紡ぐ。


「あ、あの! も……もし、よかったら!

 お、俺と一緒に——」


「あら? あなた、新参者ね。日帰りで終わる依頼で良ければ一緒にパーティーを組んでもいいわよ」


「よ、よろしく頼む」


 最後まで言えなかった。

 でも、彼女とパーティーが組めたので良しとしておこう。



 二回目。

 彼女との初依頼をこなした帰り道で。


「な、なぁ! 俺と一緒に——」


「ごめんなさい。初めて会った人と出会った当日に食事はしないようにしてるの」


 胸が張り裂けそうな思いだった。

 でも、プロポーズが断られた訳ではないので良しとしておこう。



 三回目。

 数日後、依頼掲示板前にて二度目の邂逅で。


「やっと会えた! 俺と一緒に——」


「あら、また会ったわね。そうね二人の方が稼げるし、パーティー組んでもいいわよ」


 拒否されなかっただけなのに嬉しい。

 またパーティーを組めたので良しとしておこう。



 四回目。

 依頼の受注後にて。


「なぁ、俺と一緒に——」


「あなた新参者だし、一緒にお店回って準備した方が効率的かしらね」


 一緒に依頼の準備をした。

 これはデートと言っても過言ではない……良しとしておこう。



 五回目。

 準備を終え、出発直前に。


「俺と一緒に——」


「大丈夫よ、置いて行ったりしないわ。道案内は私がするから着いて来て?」


 そういえば、漫画で戦闘前に結婚の約束は御法度だって展開があったな。危ない危ない。

 でも、彼女の後ろ姿を追いかけられたので良しとしておこう。



 六回目。

 依頼が思ったより早く終わったから。


「なぁ、俺と一緒に——」


「そうね、お昼は屋台で買って広場のベンチで食べましょうか」


 屋台の串焼きがいつもより美味かった。

 一緒に食事ができたので良しとしておこう。



 七回目。

 昼食を食べ終えて、目が合ったので。


「えっと、俺と一緒に——」


「う〜ん、簡単な依頼なら大丈夫よね。うん、組合で簡単な依頼見繕ってもう一仕事行こっか?」


 簡単な依頼だと良いところを見せる機会がない。

 でも、午後も彼女といられたのだから良しとしておこう。



 八回目。

 簡単な依頼だけど手間がかかった。

 けど、夕日が綺麗だ。


「俺と一緒に——」


「ご、ごめんなさい! 今日はちょっと買いたい物があるから先行くね!」


 俺は物に負けたのか……。

 でも、依頼の報酬を渡すと言う会う口実ができたので良しとしておこう。



 九回目。

 報酬を受け取った後、購読中漫画の新刊発売日が今日だった事を思い出した。

 急いで本屋へ向かうと、本屋から出てくる彼女と目が合う。チャンスかは分からんが。


「俺と一緒に——」


「ごめんなさい! 新刊を一人でじっくり読んだ後は一巻から読み直す予定なの。だから明日は依頼を受けたりしないから、じゃあね!」


 あんなに楽しそうな彼女は初めて見た。

 俺はまだ彼女にとって漫画以下らしい。

 でも彼女の嬉しそうな笑顔を見れたし、漫画新刊も熱い展開で面白かったので良しとしておこう。



 十回目。

 彼女は『心が読める』との噂を耳にした。

 だとしたら俺の気持ちは既に彼女に伝わっているのかもしれない。

 だが、俺は声に出して伝えたいのだ。


「一日ぶりだな。俺と一緒に——」


「あなた、噂を気にしないの? 噂を知っても私とパーティーを組みたいなんて変わり者ね、タイガ」


 名前を呼ばれるだけでこんなに嬉しいなんて!

 これは、文句なしに良しとしておこう。



 十一回目。

 ところで本当に彼女は心が読めるのだろうか。


「それより、俺と一緒に——」


「それ以上は言わなくていいわ。ちゃんとタイガとパーティー組むから安心して? 少なくともタイガが希望する間は、ね」


 真偽は分からなかった。

 でも、彼女と今後もパーティーが組める事に比べたら大した事じゃない。良しとしておこう。



 十二回目。

 討伐対象がしぶとく逃げ回った為、気付けば夜が明けようとしていた。

 けど、美しい朝焼けだ。


「なぁ、俺と一緒に——」


「うみゅぅ……ごめんね、とっても眠いの。だから帰って寝たいぃぃ。朝ごはんは一人で食べてぇ?」


 今度は眠気に負けたらしい。

 でも、彼女の愛らしい様子を目に焼き付けてご飯三杯いけた。良しとしておこう。



 十三回目。

 昼過ぎまで寝ていたら昼飯時を逃してしまった。

 新刊を買った漫画の全巻セットを持ってカフェで軽食を食べつつ読み返していると彼女が店に入ってくる。これは運命なのでは?


「俺と一緒に——」


「そうね、相席させてもらうわね。って、あら?

 それ! タイガも『スタジオ・テンセイ』作品のファンだったの!?」


 漫画の好きな所を語る彼女は可愛らしく、ずっと見て聞いていたい気分だった。

 共通の趣味で距離が縮まったかもしれない。良しとしておこう。



 十四回目。

 徹夜の依頼から一日、疲労は抜けたので組合へ顔を出して依頼掲示板を眺める。

 今日は彼女の方から声をかけられた。

 これは、チャンス?


「俺と一緒に——」


「それ、もう口癖ね。で、どう? 何か良い感じの依頼あった? あ、これなんて良いんじゃない?」


 またも途中で流されてしまった。

 でも、彼女は俺とパーティーを組む前提でいて話を進めている。良しとしておこう。



 十五回目。

 流されてなるものか。

 もう一度だ。


「俺と一緒に——」


「タイガの気持ちは分かったわ。本気でパーティーを私と組みたいのね? 今日から私とタイガは固定パーティーよ。これで良い?」


 良いともさ!

 臨時パーティーから固定パーティーになれた。

 しかし、彼女が心を読めるのなら俺の気持ちには気付いているはず……もしかして焦らされてる?

 それはそれで悪くない。良しとしておこう。



 十六回目。

 受注した討伐依頼は日帰りになりそうだ。

 目撃情報のある地点近くの村で一泊して、翌朝に討伐を試みる。

 ……未婚の男女が一つ屋根の下はダメだ。

 でも、婚約してればセーフではなかろうか。


「ならば、俺と一緒に——」


「ならばじゃなくて、いい加減タイガも私を名前で呼ぶべきだと思うの。もちろん呼び捨てよ? さぁ呼んでみて!」


「……ね、ネコナ?」「なぁに? タイガ」


 これはもう付き合ってると言っても過言じゃないだろう? いや、過言か。冷静になれ俺!

 冷静でなどいられるか! これはもう、もう! 後一歩かもしれない。うむ、良しとしておこう。



 十七回目。

 まだ村へ向けて出発するには早い時間。

 お互いに名前呼び、今度こそ行ける気がする。

 と、言うか気持ちが抑えられない。


「ネコナ、俺と一緒に——」


「それ以上は言わないで! タイガも漫画読んでるなら分かるでしょ? 大仕事の前に約束事は縁起が悪いわ」


 その言葉で冷静になった。

 浮ついた気持ちで大怪我なんてしたら求婚どころじゃない。でも、聞く気はあるみたいだ。

 良しとしておこう。



 十八回目。

 目的地の村に辿り着いた。

 だが、宿に空きが一部屋しかない。

 未婚で同部屋はダメだ。

 なら、今結婚を申し込んで婚約すれば?


「よし、ネコナ。俺と一緒に——」


「待って!? あ、あの……あのね? 流石にまだ同部屋は早いと思うの! だから、えっと……そう野宿! 私は野宿するからここはタイガが泊まると良い時思うの!」


 テンパるネコナも可愛い。

 でも、ネコナを野宿させるわけにはいかない。

 互いに宿の空き部屋を押しつけあう。

 すると見かねた店主が俺に物置を貸してくれた。

 村の住人にとても微笑ましい者を見る目をされていた気もするけど、良しとしておこう。



 十九回目。

 討伐対象が予想以上に強敵で絶体絶命。

 覚悟は決めた。

 死ぬ前に自分の口で伝えておきたい。


「なぁ、ネコナ。俺と一緒に——」


「ええ。私の命、タイガに預けるわ。だからタイガの命は私に預けて? パーティーは一蓮托生!

 さぁ、命懸けで倒すわよ!」


 大事なのは生き抜く覚悟だった。

 無事討伐。二人とも大きな怪我もなく街へと帰還できたので良しとしておこう。



 二十回目。

 街へ帰還し、二人で歩いていると新しい店発見。

 二人組専用店とある。

 店内はカップルや新婚ばかり。

 この店の前でならはぐらかされないかな?


「ネコナ、俺と一緒に——」


「あら? 新しいお店ね。一緒に入りましょ?

 ふふ、こういう所で一緒の食事は初めてね」


 この後、ネコナは実際に心を読む事はできない事を教えてくれた。その際、口が滑り彼女への思いの丈をぶちまけて公開告白してしまう。

 俺達は結婚を前提に付き合う事になった。

 あとネコナに唇を奪われた……良しとして、いや幸せだと宣言しよう。



 二十一回目。

 あれから幸せな日々を送っている。

 けど、俺は気付いた。

 あの日したのは愛の告白であって求婚プロポーズではない。

 だから俺はネコナを街が一望でき、景色も美しいこの場所へ呼び出した。


「どうしたの、タイガ? こんな所に呼び出して」


 改めてネコナにプロポーズをする為に!


「ネコナ! 愛してる! 俺と一緒に——」

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21回目のプロポーズ 真偽ゆらり @Silvanote

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