はたちとあまり ひとつ数えつ

古博かん

第七回お題作品「21回目」KAC20217

 ひとつ 一言ヒトコト告げたらば

 ふたつ 蓋なし鍋の底

 みっつ 三つ目の小坊主が

 よっつ 四辻よつじの黄昏に

 いつつ いつまで立ち尽くす


 むっつ 陸奥国むつのくに山越えて

 ななつ なつどき鐘つけど

 やっつ やつりの美濃おこし

 ここのつ ここまでくらぶれば

 とうとう とをとなりにけり


 とを と あまりのひとつ行き 行きて帰りてまた来んと

 とを と あまりのふたつ取り 遠くへ投げてまた拾わん

 とを と あまりのみつ読みて 書きてつづってさらにじん

 とを と あまりのよつ噛みて クワえてカジって吐き出さん

 とを と あまりのいつつ踏み 土にかえりて骨とならん

 とを と あまりのむつおがみ 伏せてかしこみたてまつらん

 とを と あまりのななつ摘み 蒸して湯掻ゆがいて飲み干さん

 とを と あまりのやつ置いて ひとつ休んでを開けん

 とを と あまりのここのつを 引いて叩いて曲げ伸ばし


 はたち 経ちては立ち止まり はたと振り向き背なを見る


 燃ゆる影落カゲオつ そはタレ

 落ち延び去りゆく たそかれの暮れゆく春ぞ なお寒し

 山にこもりて食を断ち 水と木の実を口にして いよいよ漆を含ませば チリンチリンと鈴が鳴り にわかに常世トコヨを去りゆかん


 はたち と あまりのひとつ食い 残りは朽ちて平坂ヒラサカを転がり行かんと歩きせば 行く手に塞がる山桃のよじれし枝葉に手を伸ばす

 ぽきりと乾いた音を立て 折りしひと枝たずさえて 何処いずこへゆかんと尋ねるは こぼれ落ちたる砂の音

 ひたひた響く足音の虚しきさまぞ いとかなし


 一つ ひらひら花が舞い 散りゆく花弁カベンいさぎよ

 二つ ふつふつ沸き上がる 怨みつらみに涙する

 三つ みしみしフシが割れ やがてウロから倒れ落つ

 四つ 宵々々山ヨイヨイヨイヤマの飾れるホコや誇らしげ

 五つ 五十鈴イスズの禊ぎせば罪や穢れは祓われん

 六つ 村々練り歩く練れた読経の虚無僧の節くれ立ちたる指の先

 七つ なつめの花のした 泣いたあの子の影法師

 八つ 八尋ヤヒロのなみの上 極楽浄土へ漕ぎ出でん

 九つ このわた献上し 珍味に将軍舌鼓

 トオは 遠浅トオアサシオ引きて 歩き渡れる つなしの幽霊


 トオ余り一つ ぐるりと回り

 十余り二つ 元どおり

 十余り三つ 離岸の旅路

 十余り四つ 彼岸の別れ

 十余り五つ 今生にいとまし

 十余り六つ 黄泉路よみじのおとない

 十余り七つ 来世を願い

 十余り八つ 色即是空シキソクゼクウ

 十余り九つ 空即是色クウソクゼシキ

 

 二十ハタチ おかえり こんにちは

 二十余りて 一つ 生まれる


 くるりくるりと繰り返す

 悪戯に伸びる蜘蛛の糸

 掴め掴めと伸びる手が するりするりと抜け落ちる

 ここは良いトコ 一度はお

 釣られ飛び出て生き地獄

 死ぬは容易たやすし 生きるはかた

 ツラい辛いと泣いて喚いて 針のむしろに はや幾年


 二十ハタチ余りて 一つ 失う


 失くして初めて涙する

 生きるは良い良い 失くすは辛い

 泣いて喚いて繰り返し 気付くと後ろについてくる 延々伸びる影法師

 燃ゆる影落つ そはタレ

 裾を引きずり ひた走る 目指す彼方は鼻の先

 泣いたあの子の影法師 なつめの花だけ知るアカシ


 ひとつ 一言ヒトコト告げられて

 ふたつ 塞いで知らんふり

 みっつ 三つ目の小坊主は

 よっつ 四辻よつじの真ん中で

 いつつ いつから待ちぼうけ


 むっつ 陸奥国ミチノク山越えて

 ななつ 南天カドに植え

 やっつ 厄除ヤクヨけ厄落とし

 ここのつ 雷落としたら

 つなしの幽霊 去り行かん


 とを と あまりの一つ得て 今日も今日とて生き急ぐ

 とを と あまりの二つ持ち 背中せなに担いで生き急ぐ

 とを と あまりの三つ捨て 身軽になって一休み

 とを と あまりの四つ飛び 慌てて追いかけ生き急ぐ

 とを と あまりの五つみ るんたるんたと生き急ぐ

 とを と あまりの六つ泣き とぼりとぼりと俯いて

 とを と あまりの七つ吐き 地面に打ち伏し しばし落つ

 とを と あまりの八つ見て むくりと起きては生き急ぐ

 とを と あまりの九つを けすぐり懐へ


 はたち はたはた手を振って錦の御旗ミハタを担ぐ肩


 はたち と あまりの一つ告げ 静かにさよなら また今度

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