私の小説は読まれない

みこ

私の小説は読まれない

 カクヨムという小説投稿サイトが、21回目の誕生日を迎えた。2037年。

 ……私が投稿を始めてから、15年以上になる。

 インターネットが発展に発展を遂げ、たくさんの人がネット上で、自分好みの姿、自分好みの相棒と暮らす中、私は一人、長編、中編、短編とたくさんの小説を生み出してきた。

 自動的に作られた自分好みのストーリーを体感できるAIストーリーがエンタメとして確立して以来、小説の読者人口はおそらく減りつつある。

 だからというわけではないが、今日も私の小説は読まれない。


 今まで……そう、投稿を始めてから2、3年経った頃はけっこうな人が面白いと言ってくれた。期待できるとも。隠れた名作とも。

 でも、今までの私のピークはそれ。書籍化されたこともない。ランキングに載ったこともない。

 底辺すぎるこの場所で、私は日々、生活の傍ら小説を書いた。

 宣伝が悪いのかと、必死にSNSで宣伝したこともある。成果は出た。フォロワーも増えた。けれど、私が底辺から脱出することはなかった。

「ぬぅぅ……」

 唸る。

 いつまで書いたら今の物語が終わるのかしらと思いながら。

 だって、あまり読者がついていない小説が、突然人気小説になんてなれるわけないのだ。はやく終わらせて、次の……たくさんの人々の気持ちを揺さぶる小説を書き始めないと、あまり読んではもらえないまま。

 それでも、私は、その長編小説の続きを書いた。主人公たちをうやむやにするつもりもないのだ。……読んでくれる人が、ゼロなわけでもないしね。

 ぷわっぽー。

 ほわっとした、通知音が鳴る。これは、SNSにメッセージが届いた時の音だ。

 そこには、私の小説の感想がしたためてあった。

「…………」

 今書いている長編小説の感想じゃない。かなり初期に書いた長編小説の感想だ。

 カクヨムのマイページを覗いてみると、確かに初期作品のいくつかのPVが増えているようだった。

 こんな初期作品、なんで見つけてくれたんだろう。

 検索サイトで簡単にエゴサしてみたけれど、特に私のことを言及するページは見つからない。


 まあいいか。

 とりあえず、感想を読んでみるか。

 ええーと?

 2章5話の宇宙戦争のシーンで……。

 って言われてもどんな話だったかな。

 マイページからその小説を探し出す。

 こんな古い小説、読み返したりしないからなぁ。

 なんて思いながら、該当箇所を読み、もらった感想を読み、また小説で何を書いたのかわからなくなり、最初から読み直した。

 これは……。

 昔に作品なんて恥ずかしくなるかと思ったけれど、古すぎるとそうでもないな。逆に新鮮。

 こんな発想今の自分にはないなぁ、すごいなぁなんていう過去の自分への嫉妬も交えつつ。それでも、楽しく読み切ってしまった。


 読んで思う。今の私には、勢いとか書きたいものを具現化しようとする気持ちとか、色々なものが変わってしまった気がする。惰性で書いてしまっている気もする。

 目を閉じて考えてみる。さて、今の私に書きたいものなんてあったかしら。

 最近はSNSで必死に宣伝なんてしていない気がするし。

 でも……。

 でも多分、書くことが楽しいって気持ちは、あまり変わっていないように思う。

 伸びをして、窓の外を眺める。

 次の長編はもっと時間をかけてネタを練って、自信の持てる作品を目指そう。そして、もっとしっかりSNSで宣伝しよう。

 書くのを辞めるなんていう選択肢があるわけでもないし。

 とりあえず私は、カクヨム宛の21歳誕生日おめでとう小説を書き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の小説は読まれない みこ @mikoto_chan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ