悪魔の21

ヘパ

第1話 悪魔の21

 仕事の帰り道。アポロンちゃんちのレストランを、通りすぎようとしてた時。


「あらー!ヘパちゃん!」って、アルゴスに、声をかけられた。



 アルゴスは、海のレストランのおねえ系ウエイター。


掃除そうじの最中で、後ろを向いてたのに。アルゴスは、歩いてくる俺に、気づいたらしい。


あいかわらず。全身に、目があるような男……。



 アルゴスと話してたら、おなかが鳴っちゃった。


「なにか食べてく?」


「たべるー!」と、俺は、アルゴスに誘われるまま、店へ。



 海のレストランは、今日、定休日だったから。


アポロンちゃんは、2階の防音室じゃなくて、1階のピアノで練習してた。


アポロンちゃんの、今日の練習曲は、ノクターン5番だった。



 「店長!ヘパちゃん、おなかすいてるみたいなの!なにか、つくってあげて!」


アルゴスが、カウンターキッチンにいる、アルテミスに言う。


「ドラゴンバーガー?」って、アルテミスが、俺に、きいた。



 ドラゴンバーガーっていうのは、海のレストランの裏メニュー。


一口、食べた瞬間。ドラゴンみたいに、火を吹いちゃうくらい、やばい、激辛バーガー。俺は、これが、大好き!


姉貴あねき!俺にも!」


なんと、アポロンちゃんが、ピアノの手を止めて、ふり向いた。


集中してるアポロンちゃんは、まわりの音が、一切、聞こえなくなるのに……。



 ドラゴンバーガーを食べた後。アポロンちゃんは、早速、ノクターンの練習を再開した。


「今日、とりあえず、50回くらいは、弾きたい。次で、21回目か。」



 俺も、アルゴスも、アルテミスも、アポロンちゃんの優雅なピアノの音色に、聞きれていた。



 が、事件は、突然、起こる。



 ノクターンの演奏が終わった瞬間に、アポロンちゃんの頭が、がくん!って、鍵盤けんばんの上に、落っこちた。


「アポロンちゃんー!?」


俺は、びっくりして、アポロンちゃんを、揺すった。


「ちょっと、気絶?はりきりすぎて、疲れちゃったの?」って、アルゴスも来る。


「自分のノクターンで、寝るとか、アホやん!」って、アルテミスは、笑ってたけど。


アポロンちゃんが、眠り姫みたいに、眠りこけてて、まったく起きる気配がないから、さすがに、心配してた。



 おかしいぞ!?って、アルゴスたちと、騒いでいると。


いとこおじのプロメテウスが、店に、けこんできた。


 プロちゃんは、全力疾走してきたみたいで、ひざに手をついて、肩で息してる。


「ダイちゃんが……急に、倒れて……。」って、顔をあげたプロちゃんの視線の先には、ピアノに、つっぷしてる、アポロンちゃんがいる。


「こっちもかー!」



 プロちゃんの話だと、ダイダロス先生も、同じく、眠り姫になってるらしい。


 困っていた時。


「間に合わなかった……?」


戸口とぐちに、コンパスを持って、アザゼルが立ってた。スピリアも、いっしょだ。


 ふたりは、冥界で、はたらく天使。


アザゼルは、昔、ぎぬを着せられて、天界を追放されちゃってて。


長い間、こっちに、来られなかったけど。


俺の時間の魔法で、堕天だてんの印が消えたから、やっと、来られるようになった。



 「アザゼル!スッピー!アポロンちゃんたち、どうなっちゃったの!?」


「悪霊の呪いだよ、これ。厄介なのが、いてさ。21回目に、なにかした人に、呪いをかけてまわってるんだ。」


って、スピリアに言われて、「そういえば……。」と、俺は、思い出した。


「アポロンちゃん。ノクターン弾くの、次で、21回目って言ってた……。」


「ダイちゃんもだ……。」と、プロちゃんが、つぶやく。


「特売で、タマゴが、安かったからって。ダイちゃん、飯のたびに、ハムエッグ、焼いててさ。次、焼いたら、21回目だなー!て、笑ってたら、倒れた……。でも、なんで、21回目なん?ふつう、呪われるのって。4とか、9とかじゃない?」


「うちも、知らん。」と、スピリア。


「あー!悪霊でたー!」


アザゼルが、コンパスを見て、叫んだ。


「どこだー!」と、スピリアも、店を出る。



 「こっち!」って、海の方へ走っていく、アザゼルの後を追いかけたら。


ポセイドン伯父さんが、イルカに、芸を仕込んでた。


「はいー!21回目のジャンプ、いくよー!」


ストップー!って、俺たちは、21回目がキメられる寸前で、ポセイドン伯父さんを止めた。



 逃げようとしてた悪霊を、スピリアが魔法で、氷漬けにする。


「待って。それどうするん?」って、ポセイドン伯父さんが、スピリアに、きいた。


「冥界に、つれて帰って、まとめて浄化しますけど?」


あつかざつ!そんなん、かわいそうやん!なにか、心残りがあるから、悪霊になったんちゃうん?」


「そうかもしれないけど……。」って、アザゼル、困ってる。


「こんなの、いっぱい、いるし。いちいち、悪霊に、かまってあげてたら、1日が、48時間あったってたりません。」


「まだ、亡霊狩りの途中だから。私たち、次の回収にいかないと。」って、スピリアも、急いでた。


「俺に、任せてくれない?」って、ポセイドン伯父さんが言うから。


アザゼルと、スピリアは、しぶしぶ、悪霊を置いて行った。



 悪霊をなだめて、ポセイドン伯父さんが、話をきいたところ。


その悪霊は、21回目のデートで、恋人にふられて。21回目の出勤で、会社をクビになり。


21回目のドライブで、高速道路で、亡くなったらしい……。


 21回目の時、自分が、ことごとく、不幸にあったもんだから。


うさばらしに、21回目に、何かした人を、呪ってまわってたんだって。



 で。なんで、高速道路を運転してたかっていうと。


推しのライブの遠征に、行こうとしてたんだって。



 「心残りは、ライブに行けなかったことか……。」と、スマホを出して、ポセイドン伯父さんが、ネットで調べた。


 悪霊の推しが、ライブやってた。


ちなみに、そのライブ、21回目の記念ライブだった。


本当に、21回目に、呪われた悪霊……。



 ライブに、連れてってあげたら、悪霊は。


推しの姿を、さいごに、拝めてよかったって、安らかに、昇天していった。



 そして、俺のスマホに、アルゴスから、電話が、かかってくる。


『いい知らせよ!アポロンちゃんが、起きたわ!』


『プロちゃん、今どこ?』って、プロちゃんのスマホにも、ダイちゃんから電話が、かかってくる。



 眠り姫たちが、目を覚ましたー!


電話をきった後。俺と、プロちゃんは、ハイタッチした。



 海のレストランに戻ると、ダイちゃんが来てた。


復活してよかったね!って、ダイちゃんに言ったら。


「え?なに?ごめん、もう一回、言って。」って、おじいちゃんみたいな、リアクションされた。


「なんかさー、俺の耳、難聴なんちょうみたいに、なってんだけど。よく、聞こえねぇわ。」


たちまち、プロちゃんが、あ!って、顔になる。


「たぶん、俺のせいかも……。ダイちゃんが、ぜんぜん、起きないから。耳に、ギュ!って、奥まで、イヤホン、突っ込んで、爆音で、音楽、聞かしたんだよねー……。」


「おめーのせいかよ!」


「あんなに、ガンガン鳴らしたのに、起きないなんて!呪いって、怖いなー!」


「よし。今度、プロちゃんが寝てる時、同じことやってやる。」


「やめて!」



 「復活祝いやでー!」って、アルテミスが、プロシュートのピザを焼いてくれた。


「姉貴、やべぇ、21……。」アポロンちゃんが、つぶやく。


なにかと思ったら、ピザにのってた、生ハムの数。


「うそー!?適当に、のっけたのに!?」って、アルテミスも、ビビってた。



 これ、絶対、呪われてるでしょ!?


悪魔の21だー!って、震えながら。その日は、みんなで、ピザを食べた。


おいしかった。

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