第39話 うずうずうず 疲れてんのかな

 次に三人が足を踏み入れたのは刀剣類が所狭しと置かれている展示室であった。


「うふふ。見てくださいお二人とも刀ですよ!!剣までありますよ!!!何ならかたびらまで展示してますよ!!!テンション爆上がりですね!!!!普段は漫画やアニメでしか見ることが出来ない武具の数々が滅茶苦茶ありますよ!!!!」


 そう、彩夢はこれらを見るために美術館にまでやってきたのである。


「しかも普通なら美術館でこんなスーパーハイテンション出来ないのに今なら存分に大声出せますからね!!!うきゃきゃきゃって言いたい気分です!!!言っても良いですか?」


「言えよ」


「うきゃきゃきゃきーーーーー!!!!!!です!!!!!感動感激です!!!!!!!」


 下手すればコロコロ転がってしまうのではないかと言うくらいに舞い上がっている。


「ったく、高尚な趣味でもゲットしたのかと思ったらこう言うことかよ。めっちゃ俗っぽいな」


「はい!!!!雅也さんもバトル漫画好きなんでしょう。魂に来るものとかないんですか!!??ありますよねきっと!!!」


 華麗なステップで雅也に近づきクリスマスプレゼントの封を解くときの子供のようなキラキラした瞳を上目遣いでぶつける。胸板を撫でるおっぱいの感触と相まって真っ当な男だったら幸福極まりない時間であろう。


「こら彩夢、マー君を困らせないの」


「あ、すいません。でもテンション上がって仕方ないんですよ!!!出来ることなら装備してみたい気分です!!!」


 うずうずうずうずうずうずうずうずうずうずうずうず


(なんか見える気がする……彩夢の周りにうずうずうずうずうってのがめっちゃ見える……僕最近疲れてんだよな……まあ冷静に考えなくても彩夢に振り回されてんだから当然か、幻覚の一つや二つくらいは見えるよね)


 雅也が妙な納得のさせ方をしているのと同じ空間で彩夢は自らの妄想世界を現実世界にまで展開させていた。


(この鎧を私が付けたら………ああ駄目ですね、ぶっかぶかで機動力がダメダメです。ビキニアーマーとかないですかね………いえ、実際にはあんなのないでしょう。お腹狙われたら一発KOですし

 あっちの太刀を振り回したとしたら……重量に耐えられず刃が自分に刺さりそうです……うう、やっぱり刀ですね、普通の刀……さやに納まってるせいでいまいちどんな感じなのか妄想できません。うううううううう)


 だが展開させられるにも限界があった。変にリアリティを求めるてしまう自分の性分のせいで彩夢は素晴らしい武具の数々を十全に操ることが出来なかったのである。


 そんな彼女の瞳に鏡のように研がれた刀に映った未来が映った。


「これです!!!!」


「え?なに?」


「未来さん、少々妄想借りさせていただきますよ!!!」


「妄想借りって何!!??」


「身体を頂きます!!!」


「ちゃんと説明しなさいあんた!!!」


 だがそんなの気にすることもなく彩夢は未来の身体に武具をつけた。


(素晴らしいです)


 彼女の脳裏に展開されていたのは凛とした様子で刀を自由自在に操っている未来の姿。大木を切り倒し大岩を一刀両断する未来。弾丸風雨の中を流麗な動きで疾走しながら素早く盾を動かし楽しく笑う未来。


 カッコよかった。妄想特有の美化200%された未来は元々の美しさと戦う女の素晴らしさを存分に引き出していた。


 あまりにも素敵すぎさ自らの妄想に彩夢の瞳からはポロポロと綺麗な涙が流れてきた。


「ちょ、何?急にどうしたの彩夢?」


「未来さん……とっても綺麗です。魔剣を振り回しても綺麗です」


 いつの間にか現実に会った刀は魔剣になっていた。


「何が!!!??ちょマー君!!!」


 慌てて雅也に助けを求めようと身体を翻してみると。


「マー――――君!!!!!!!????」


 ベンチでスヤスヤと寝ている雅也がいた。彼自身の予想通り余程疲れていたらしくとてもよく眠っている。


「もぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


 未来の絶叫が響く美術館は一体どんな顔を浮かべていたのか、それを知るものは誰もいない。


「むにゃむにゃ………このバカ姉……彩夢に乗るな」

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