第34話 未来の趣味
ぶん殴っていい?そう真顔で言われた有恵は瑞々しい身体を日の元に晒しながらアホな顔を披露してしまっていた。
『え?』
『いや、え?じゃなくってさ。なんかもうムカつくから殴っても良い?って言ってるの』
『ちょっと雅也……なんであんたそんなこと言えるの?冗談よね、冗談なのよね』
首を横に振る。
『僕はそんなつまんない冗談なんて言わないよ。未来ちゃんが怒ってるのはちょっと見当違いだとは思うけどそんなことは関係ない。有恵ちゃんだっていきなり小汚いおっさんにちんこ見せられたらムカつくでしょう』
『あんた……マジで何言ってんの?』
意味は分かっていた、言葉としての意味は分かっていた。だがそう口についてしまった。
雅也の眼差しが嫌という程に突き刺さっている。何も守るものがない肌を通して心の奥底までジンジンと響いている。
『だって……え?だってさ……私可愛いもん』
『可愛い?』
『嘘…………私だよ、ちょっと上目遣いで頼んだら何でも買ってくれるんだよ』
『催眠術でも使えるの?』
『そんなの使えないもん………だってさ、普通皆可愛い子は好きじゃない』
『そうなの?』
『見てるだけでポワポワとした……何というか幸せな気分になるじゃないの。それでそんな私に甘くすればもっともっと幸せな気分になるんじゃないの?』
『自分のために買った方が100倍は幸せになると思うよ。こんなこと言うのは何だけど自惚れすぎじゃない』
嫌味なんて全く感じさせない子供らしい純然とした声だからこそ有恵の心に深く深く鋭く突き刺さった。
『そんなぁ』
幼いプライドの壁を突き破られた有恵はうるうると綺麗な涙を流した。
ポロポロポロポロ。みっともないくらいに泣いてしまった。
『ちょっと、有恵ちゃん急にどうしたの?』
『だってぇ………おっぱいまで見せたのにぃぃい』
『え?ちょ、ゴメン!!なんかゴメン!!よく分かんないけどとにかくゴメン!!!』
雅也は慌てていた、現在の雅也では考えられない程慌てふためき脳内は勿論五感すら正常に動いていなかったのだ。
それゆえ隣にいた未来がぽそりと呟いた一言をきちんと処理が出来なかった。
そして
『だったらこれならどうよ雅也!!!!』
ちゅ
『んん!!!???ちょっと』
『ちゃんと私の舌遣いを堪能しなさい!!!』
距離をとったのに即座にゼロ距離に戻される。助けを求めて未来の方に腕を伸ばすと。
『マー君!!!???ちょっとマー君に一体何やってんのよ!!!』
裸の有恵がフワッと宙に舞った。ガツンっと柔らかな身体がアスファルトに当たるや否や礼を言おうとした唇が唇でふさがれた。
(未来ちゃん!!!!?????)
(マー君のファーストキスは私なの!!!上書きしたから私なの!!!??)
チューチューと心臓まで吸い取られてしまいそうだ。
(あはは………紙パックを最後まで飲み干そうとしてるみたいだね、心臓をちゅるんってしなちゃいいけど……また未来ちゃん絡みで死にかけの記録更新)
走馬灯とは言わない、何故なら死にかけるのには慣れているからだ。
そして何よりつい先ほどの言葉が遅れて処理されただけだと確信したからである。
『綺麗………可愛い………食べちゃいたい、やっぱり女の子って良いわね』
雅也は抱き着いてくる彩夢をポンポンっと叩いた。
「そろそろ離れろ。もう十分だろ」
「あはっ、相も変わらずの冷静でどことなく渋い判断ですね。そう言う所好きですよ」
「そりゃどうも」
(彩夢は可愛いよね……多分有恵ちゃんと同じかそれ以上には………そんでもって)
「未来ちゃん」
「何?マー君?」
「そろそろでよっか。暗闇にも飽きたでしょう」
「何言ってんですか雅也さん、本来の目的を忘れたんですか?」
胸を張っている感触がした、そして僕を押し倒してくる。
「みんな一緒に暗い中で寝ましょう!!!!」
「え?そう?まあいいけど」
(未来ちゃんは彩夢みたいな可愛い女の子が好きなんだ。百合ってやつなんだろうね)
雅也は心の中で苦笑いをした。別に軽蔑とかその手の物があるわけではない、当初の目的を達成するのに具合が悪いと思ってしまったからだ。
(僕の方に惚れてくれる方が子供作りやすいんだけど………ま、仕方ないもんは仕方ないか)
だがそんな心配は杞憂でしかない、何故なら未来は百合でも単純なノンケでもない。ただただ可愛い女の子が恋愛対象になりうるバイというだけだからだ。
一番好きなのは徹頭徹尾雅也である。
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