第30話 覗き魔未来


 頭を冷やした未来が彩夢と雅也がまったりとしている温泉に再び舞い戻った。

(ここからならマー君の裸を見ても大丈夫、これだけ離れてれば私の心は壊れないはず……少なくとも私の裸は見られない)


 もっとも場所は温泉が見える屋根の上なのだが。


(それにしてもあの二人……本当にお互いを異性として見てないのね……いいような悪いような……いや流石に年頃の男女が裸で重なり合ってるのに無反応なのは不味いでしょ)


「雅也さ~ん」


「なんだ?」


「ウフフ。何でもありません、呼んだだけです」


「そっか……普段より頭が緩くなってんのな」


「雅也さんのツッコミも柔らかいです」


「お前の身体の方が柔らかいぞ」


 彩夢は無造作に自分の身体を揉んだ。ムニュリムニュリと空気まで柔らかくするような音が出そうなくらいにムニュリと揉んだ。その後ついでとばかりに雅也の二の腕を揉む。


「なるほど私の身体の方が柔らかいですね」


「そりゃそうだ、女の子は柔らかいもんだもん」


「今久しぶりに女に生まれて良かったって思いました」


 ダルダルになった頬で口を動かした。声色まで柔らかそうである。

 こんなやり取りを屋根の上から見ている女は心の中で叫ぶ。


(裸でのほほんとしてるんじゃないわよ!!!!!!!しかも結構不純異性なことやってるわよ!!!!)


「えーいです」


「うおっ」


「こうすれば柔らかさのおすそ分けできますねぇ……温かさは倍増なのでお返しは結構ですよ」


「急に抱き着いてくるなよ」


「急に寄り添うのはOKだったんですから堅いこと言いっこなしですよ。温泉マジックは抱き着くのにも有効ってことで」


「なるほど」


(マー君もなんか変だよ!!!いつものスーンが鈍くなってるよ!!!!何なの?温泉にはここまでゆったりさせる効能があるの!!!!???)


「それにしても本当にのんびりしてますね私達……今更ですがこんな感じで良いんでしょうか?」


「何が?」


「ほら、冷静に考えなくても私達って異常事態に巻き込まれてるじゃないですか。なんか対策を講じないといけないんじゃないかって偶に思うんですよ」


「そうだね、僕もよく考えてるけどさ……今はいいんじゃないの?ゆっくりしようよ」


「賛成です」


(そこちゃんと話しとかないと駄目だと思うわよ!!!!!というか私達その手の話全然してこなかったわね!!!!今気づいたわ!!!!!)


 ピタリとくっついた二人の何気ないやり取りに心の中でツッコミを入れていきながら未来の視界はあるものを見ていることにふと気づいた。


「雅也さん、身体洗ってくれますか?」


「いいよ。その代わりお前もしてくれよな」


「もっちのろんのすけです」


 湯船から上がった彩夢の身体はとても艶やかであった。ただでさえ白く張り艶のある肢体は温かくしとやかなお湯色でパワーアップしており人の心を吸い込むような美しさを持っていた。


 水滴が滴る髪の毛を雅也の武骨な指で梳いていく度に彩夢の顔は変化していく。


「やっぱり人にしてもらうのって素敵ですね。なんでこんなに気持ちいいんでしょうか」


「人には優しくできるからじゃないかな?案外何をしてほしいのか感覚的に分かるしさ」


「そう言うもんでしょうかね……ま、気持ちいいのでどうでもいいです」


 快楽の千変万化、彩夢は雅也の感触を髪と頭皮を通しながら存分に堪能していた。

身体も心も丸裸にする温泉という場所で心許せる人と心をかわす、これほど愉快で楽しいことはないであろう。


(雅也さんだけじゃなくって未来さんも来てくれたらいいんですけど……ま、冷静に考えれば想い人に裸を見せるのってそれなりにハードルが高いかも……………あれ?私全然恥ずかしくないじゃないですか………考えないようにしましょっと)


「どうした彩夢?」


「いえ、裸についての持論を組み立てていただけです!!!」


「そっか、今度聞かせてくれよ」


 プルプルと揺れる身体を雅也に向けてニコリと笑った。


 だがそれを雅也以上にガン見していたのは未来である。屋根の上という遠い場所から見ている同性の未来なのである。




(…………天女の身体……彩夢って綺麗ね……心も体も本当に)


 彼女は久しぶりに雅也以外で胸が高鳴っていることを自覚してしまったのだった。

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