第28話 本気のにらめっこです
「さぁ、それではルール説明行きますよ!!!!ルールは簡単、笑った、もしくは目をそらした方の負けです!!!!」
「なんでそんな勢い強いんだよ」
「気合の表れです!!!!」
「表情筋が疲れるから不利になるぞ」
その言葉を聞くや否や彩夢の顔はシュンっとだらしなく頬が垂れた。
(そこまで大した差は出ないと思うのに……確かにこいつは本物みたいだな……遊びだけど……となると……)
「さぁ、雅也さん。前回の愛してるゲームでは後れを取ってしまいましたからね。今度こそ貴方に勝って見せます」
「返り討ちにしてやるよ」
(だからこそ真面目にだ。彩夢に負けてたまるか)
ふつふつと闘志が沸き上がっていくのを雅也は感じていた。だがしかしこれまで姉以外には滅多に抱くことがないほど熱くなっていると言うことまでは気づかない、負けず嫌いがここまで執着することなぞ殆どなかったと言うことには気づかない。
未来が不思議な気持ちで見守る中二人は一歩近づいていった。にらめっこの為にアホみたいに真面目な顔になっている。
(負けたくありません。どんな手を使っても負けたくありません!!!!私の中のゴーストが叫んでるんです、雅也さんに負けるなって。そして私の第六感が吠えています、ここで雅也さんに勝つことが出来れば何か素敵な扉が開くって!!!それに)
(なんか知らんが負けたくない、こんなことだからこそ負けたくない。彩夢に負けるのはなんか嫌だ!!!いつまでもいつまでも勝っていたい……それに)
何度も言うがこれはにらめっこに臨む二人なのだ。どのくらい負けず嫌いかという意地の張り合いすら負けたくないレベルの負けず嫌いなのだ。
そしてもう一つ、この二人に共通していることがある。
(至近距離で顔を見れば今よりも好きになれるかもしれません!!!)
(彩夢の可愛さを僕の脳みそに焼き付けてやる!!!!好きになるために!!!!)
理性的に狂気に満ちている特殊な愛の探究者なのだ。
「未来さん、号令を願います」
「うん、悪いけど第三者として公平なジャッジを頼むよ」
「ええ、分かったわ」
未来は奇妙な拍動を覚えていた。しょっぱいような甘いような堅いような柔らかいような、判然としない拍動だ。
二人の奇天烈な雰囲気に吞まれてしまっているのか、未来が本来持っている狂気が触発されたというのか、それとも彼女のマイノリティな感情が爆発してしまっているのか。
(でも、悪い気分じゃないわね………マー君と美少女のにらめっこを見れるなんてある意味ラッキーかも)
未来は二人の間に手のひらを割り込ませた。
「さぁ、レディー」
(行くぞ)
(先手必勝です)
偶然なことに二人は似たようなことを考えていた。ただそれは運命ではない、彩夢は最初からそのことを考えていたから、そして雅也は真剣すぎる彩夢に本気で迎え撃とうと考えていたから。
つまりある意味で必然的なのだ。
「ファイッ!!!!!」
「覚悟ですぅぅぅぅ!!!!!」
「おらぁぁぁ!!!」
二人の顔は全くもって面白くなかった、本当にらめっこをする男女の顔ではなかった。そりゃもう馬鹿みたいにつまらない映画を3時間見続けた後のなり立てカップルのような顔になっていた。
その代わり
「えええぇぇぇ!!!!???」
未来の絶叫が響き渡る。
「うっううううぅぅうぅ」
(笑っちゃいけません……笑ったら、負けです。それになによりまさか雅也さんに同じことをされるとは)
「くしゃyそあほrほghdんgj」
(ヤバ……死ぬ………というかやっぱりこいつ同じこと考えてたな)
二人はお互いの身体をくすぐっていた。一流のマッサージ師のような指さばきでお互いの身体を擽りまくっていた。雅也は彩夢の柔和な肢体を、彩夢は雅也のがっしりとした肉体を遠慮も躊躇いも一切なくくすぐりまくっていたのだ。
(あ!!!そう言えばさっき彩夢笑ったり目をそらしたら負けって言ってたけど顔だけで笑わせろとは言ってなかったわね……いや、それは詭弁でしょ!!!にらめっこじゃないでしょ!!!!!)
遅ればせながら二人の企みに気づいた未来の瞳に必死に笑いをこらえる艶めかしい二人の様子が映る。
「ごごはえんvljwびうvbふあおえhふぉv」
「あrちうあおgなんふぇおvfぁ;のj」
もはやなんて言ってるのか分からない、だが未来の耳にはひどく心地の良い我慢声だった。
お互い普通の神経をしていたら触られたくないし触ってはいけないと倫理観のガードが働く場所まで普通に指を這わせていく。おっぱいとか下半身とか一切考えずにいかに相手を笑わせるかで一色になっている。どんなことをしてでも勝ちたいという気持ちが強くて強くてたまらない。
そしてもう一つ
(ああ、やっぱりそう言う顔も愛には必要ですよね!!!全てを受け入れないといけませんもん!!!)
(普段の顔とまた違う!!!新たな魅力再発見ってやつだね………でも……でも)
勝敗をわけたのは普段の行いだった、奇行をしまくっていた彩夢は当然のようにあらゆる体を使った遊びをしており、一方の雅也は能動的に何かをするという経験がとても少なかった。
ゆえに雅也は
「あはははっははは!!!!!」
負けるのだ。
「よっしゃぁぁぁぁ!!!!!です!!!!!!」
腰の砕けたガッツポーズはとても美しかった。
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