第27話 リベンジマッチを考えましょう
滑り台の上で彩夢は思案していた。子供たちを眺めながら遠くの雅也のことを考えていた。
(雅也さんに負けちゃいました……愛してるゲームで負けたのは生まれて初めてです。流石は雅也さん、とっくに分かっていたつもりでしたが私がこれまであってきたどんな男性とも違うようですね)
性格はともかく純朴で真っすぐで優しく可愛くスタイルまで良い彩夢は当然のように多くの男子から想いを寄せられていた。そしてそんな男たちは長い時間見つめられるだけでも顔をそむけてしまうものなのである。
「いえ、当初の目的は一応達成されたようなもんなので別にいいんですが……いけませんね、私も結構負けず嫌いってこと忘れちゃってました」
彩夢は真剣に考えた、なぜ自分がゲームに負けたのかを。
(体力差、最後の最後に負けたふりをされたせいで気が緩んだこと……雅也さんはとても強かです。仙人の生まれ変わりと思わしき人なだけに脳みその回転も速い……もちろん私の得意分野で勝負を挑めば勝つことは容易いでしょうがそれじゃあ私のプライドが許しません、なにか……何かいい勝負はないものでしょうか)
ひたすら雅也について考えていく。雅也の癖を、言動を、特技を、運動能力を、眼光を、声色を、性格を、とにかく考えていくのである。まるで恋に溺れる少女のように、まるで愛を探す旅人のように。
だがそんな気の利いた言葉は彩夢の脳裏に過ったりはしない、彼女は真剣に雅也に正々堂々リベンジを考えていたのである。
「………………………よし、これで行きましょう」
彩夢は雅也と殆どゼロ距離で睨み合っていた。
「雅也さん、私の提案を受け入れてくれますよね」
「ああ、お前の我がままに付き合うのはもう慣れた……が、なんでこんなに近いんだ?」
普通に喋るだけで息が互いの顔に当たっていた。お互いがそんなことを気にするような器量の小さい人間でないから何事もなく話を続けていたが一通りの話が終わるとさすがに気になったようである。
「デモンストレーションですよ、今から行う戦いの前哨戦と言ってもいいかもしれませんね」
「いや、僕お前の目と鼻位しかさっきから見えてないんだけど」
「私も同じです………視野が狭まるというよりは視野が集中してるみたいですね……意外と面白いので嵌っちゃいそうです」
「できれば嵌らないで欲しい」
そんな風に至って普通に喋っていると突然二人の間に手のひらが滑り込んできた。
「何やってんのよ二人とも!!??」
「あ、未来ちゃん」
「これから始まる戦いのデモンストレーションですよ」
「はぁ?」
未来はまだ彩夢のことをよく分かっているわけではない、というかあまりにもヤバい女なのでその全てを把握している人間など彼女を育て上げた兄姉や両親を含んだ全人類に一人もいないであろう。海瀬彩夢というのは英才教育によって覚醒してしまった突然変異体なのである。
だから未来は彩夢の言葉を理解できなかったのも無理からぬことなのだ。
「ちょうどいいですから未来さんも一緒にやりましょう」
「何を?」
だから想い人と女がキスする1秒前みたいな距離にいたのを目撃したとしても気圧されてしまうのだ。
「決まってるじゃないですか、私と雅也さんのこの距離でピンときませんか?これから始まる戦いはまだ道具という文化が無かった太古の昔から行われてきたであろう伝統ある競技です」
「な?」
一体何が「な?」なのかよく分からないがこう言ってしまった。彩夢に呑み込まれてしまっているのである。またしても抵抗一つ出来ずに彼女の流れに乗らざるを得なくなったのだ。
「それこそ魂と魂を顔だけに集めて相手を擽る戦い!!!ズバリにらめっこです!!!!」
「はぁ?」
「にらめっこです!!!!!!!」
もう一回言われた。
「え?あんだけ仰々しく前ぶりしといてにらめっこ?」
「はい!!にらめっこです!!!!」
(はぁーあ、未来ちゃんって真面目だよね。彩夢のことを知ろうなんて至難の業だってのにさ……ま、だからこそ知っていくのが面白いんだけどさ)
もし彩夢の考えを理解することが出来るとすれば雅也のように狂気に屈服せずその身に受けても尚笑える人間だけであろう。
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