第25話 愛してるゲームです!!!


 パフパフパフパフ


 陽気なラッパの音を奏でた後に彩夢がマイクを持った。


「はい、それでは始まりました第一回『親交を深めるにはまず言葉から!!!!恥ずかしがっちゃダメですよ、愛してるゲーム!!!!』ルールは簡単」


「ちょっと待て」


「どうしましたか雅也さん、ルール説明の途中なんですけど」


「ルール説明の途中なんですけど、じゃないよ。急に何やってんだ?」


「ですから未来さんとも親交を深めようと愛してるゲームをしましょうと言ってるんですよ」


(お前はそんなことしないでも勝手に仲良くなるだろうが)


「未来さんもそれでよろしいですよね」


「ええ、勿論異論はないわ」


「ないの!?」


「うん!!!楽しそうじゃないのマー君」


「まあ……未来ちゃんがいいならいいけど」


 実は唐突に始まったと思われたこの奇怪なゲーム、彩夢と未来が事前に打ち合わせしていたのである。幸いなことに彩夢が変なことをするのはいつものことであるし、雅也はなんやかんやで変なことにノッてくれるのでまず開催されるであろうと確信していたのだ。


 勿論こんなことをする目的は決まっている


(マー君に愛してるって言ってもらいたい!!!!)


(雅也さんと未来さんのキュンキュンを見てみたいです!!!!)



 純粋な欲望である。


「さて、同意が貰えたのでルール説明の続きです。と言っても至ってシンプル、一方の人がもう一方の人に愛してると言ってもう一方の人はもう一回、という類のことを言い返します。この一連の流れを止めた方の負け。いいですね雅也さん、未来さん」


「うん、いいよ」


「ええ」


 だが雅也とてそこまで鈍い男ではない、具体的に何がどうだということは分からないのだが間違いなく何か思惑があると言うことは看破していた。


 しかしそんなことは彩夢の想定内、彼女は確信していた。


(彩夢と未来ちゃんが組む理由はない……よね、なら彩夢の思惑か……なんだ?この前僕に負けたことのリベンジか?それとも何かを賭けるつもりか?)


 雅也が『愛している』という言葉に深い意味を感じていない、それゆえに本当の考えを見透かされることがないと確信していたのだ。


「さ、それじゃあ早速一回戦行きましょうか。雅也さん、未来さんに愛してるって言いまくってください」


 だが、彩夢にも想定外の事態が起こる


「何で僕と未来ちゃんなんだよ」


「え?」


「僕と未来ちゃんは自分で言うのもなんだけどめっちゃ仲良いぞ、するなら彩夢と未来ちゃんなんじゃ」


(あ、愛してるって言葉にマジで意味を感じてませんね!!!!!)


 変に合理的なことを言われてしまったのだ。


(ふっ、ですが)


「まあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあ、そいう言うのは別にいいじゃないですか、こう言うのは勢いが大事ですよ!!!」


「まあまあ言いすぎじゃね?」


「気のせいです!!!!さあどうぞ!!!!」


「分かったよ、もう」


(勢いで押す作戦成功です!!!ふふふ、さあ雅也さん、言っちゃってくださいもうがっつり言っちゃってください)


 いよいよ雅也がビシッと背筋を伸ばしている未来に向き直って唇を動かした。


「愛してるよ」


(愛してるって言われた、愛してるって言われた愛してるって言われた!!!!マー君に言われた!!!!!私を愛してるって言ってくれた!!!!!)


「うぎゅぅぅぅ!!!!」


(ん?)


 ドタドタドタドタ!!!!!!!ガンガンッ!!!!!ドドンッ!!!!!!!!! 


「あれ?未来さーん!!!!!!」


「どっか行ったね……なんで?」


(お、思った以上にピュアでした!!??え?普通一発でKOします!?せっかくのチャンスだってのにそう言うことしますか!!??)


 彩夢の胸に薄い失望と漲ると太陽のような情熱と慈母のような尊さが同時に飛来してとても複雑な思いになるが取りあえず笑った。


「えっと……取りあえず私達でしますか?」





 体感で数時間後、脳内でリフレインする雅也の愛してるに多少なりともなれた未来が元居た場所に戻ってみると


「愛してます」

「もう一回」


「愛してます」

「もう一回」


「めっちゃ愛してます」

「もっかい」


「愛して愛して仕方ありません」

「もっかい」


「愛してますよ雅也さん」

「うん、もう一回言って」


「愛してるって言ってるでしょう」

「もう一回言って、とっても嬉しいから」


「愛してるんです!!!」

「もっと言って、めっちゃ言って」


「Ⅰ LOVE YOU」

「PLESE ONE MORE SAY」


「病んじゃうくらいに愛してます」

「僕も病んじゃいそうだからもっかい言って」


「一億年と二万年前から大好きです」

「それはどうもでもう一回」


「そろそろレパートリー少なくなってきましたが愛してますよ」

「僕もそろそろ怠いけどもう一回聞きたいな」


「なんでこんなに愛してるんでしょう」

「愛の理由を知りたいからもう一回」


 二人がゲームを続けていた。驚くことにこの二人、一秒たりとも休むことなく『愛してます』『もう一回』を言い続けてきたのである。


「ちょっと二人とも何やってんの!!!!????」


「負けたくないのでやってるんです。愛してます!!!」

「そう言うことなのもう一回」


 二人の疲れ果てながらも真剣な顔を見て未来はこの二人が本気なのだと悟った。特に彩夢の方は当初の目的すら忘れてしまっているようだ。


「マジか」


「さぁ、どっちかが倒れるまで愛してますよ」

「上等だよ、もう一回」




 それからしばらく経ちやがて雅也がヘロヘロになって倒れ込むと、彩夢の緊張の糸が切れたらしく重なるように倒れた。


(こんときを待ってたんだよ)


 そんな彩夢の耳元で雅也が囁く。


「もう一回言って」


 彩夢はついに疲労と睡魔に負けて言葉を返すことが出来なかったのであった。

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