第19話 じゃんけんしましょう
雅也が眠い目をこすりながら鍵の開いていた誰かの家の洗面所にいくと彩夢が鏡に向き合っていた。
最初は自分の顔を見ているのかと思っていたが目をもう一こするとそれは勘違いであったと気が付く。
「あいこでしょ!!あいこでしょ!!」
(こいつ、一人じゃんけんしてる)
寝起きなこともあって軽い戦慄を覚えた、こんなことをするのは子供だけと思っていたのだから仕方がない。
が、すぐさま彩夢は基本子供であったことを思い出したので大あくびをする。
「あ、雅也さんおはようございます!!朝かどうかは微妙ですけどね」
「鏡の中の僕じゃなくって現実世界の僕と目を合わせて欲しいね」
「うふふ、それもそうですね」
勢いよくこちらに振り返った拍子に長い髪の毛がふわりと回った。
「改めておはようございます、起きて早々で申し訳ないんですけどじゃんけんしてもらえますか?今103戦103分けなんですよ」
どうやら103回もしていたらしい。雅也はその精神力に感服してしまう。
(よくもまあそんなことを飽きもせずにできるわな)
「彩夢、お前一体何が悲しくて自分とじゃんけんし続けたんだよ」
「別に悲しいしいことなんてありませんよ、ただ雅也さんがお休みになっている間私は一人ぼっちですからね、一人遊びを考えるのは至極当然のことだと思いませんか?」
「漫画でもよんどけよ」
「それがですね、この家ってどうやらそう言うのに興味があまりないご家庭のようで自己啓発書や妖しい占い本、あとは英語で書かれた海外の独裁者の伝記ばっかりなんですよ」
「怖い家に入っちゃたな」
「まあまあ、どのような趣味嗜好を持っていたとしてもそれは人の勝手でしょう。それより雅也さん早くじゃんけんしましょうよ、103回も練習したすえに覚醒した私の新たな力、みせてあげます!!!」
じゃんけんに覚醒も何もないだろうと雅也がジトっとした瞳を送ろうとした時彩夢が膝をかがめながら上半身をくねくねと動かす。
「え?」
「森羅万象、千変万化、人生100年下天の内に比べれば、ああ寿限無寿限無のアントニヌスがメリーさんの羊を笑う」
「ちょっと待った、何?怖いんだけど、流石に意味わかんないぞ。お前には結構慣れてきたと思うけど今回は流石に分かんない」
「雅也さん少し待っていてください、これは私がじゃんけんを極めるために必要な儀式なのです……、ほらそこに置いてあるでしょう」
奇怪で妙に艶めかしいダンスを踊りだした彩夢が一瞬視線をやったほうをみると何かの本があった。手に取ってみる。
「数秒後の未来を見る方法……こんなもんを重宝するのはバトルかスポーツ漫画だけだろう」
ペラペラとめくってみると手書きの文字がひたすらに羅列している。
(なるほど、やっぱりこの家の主はどっぷりオカルトに傾倒してたみたいだね。そう言うのを否定するつもりはないし何なら今僕達が陥っている状況がどう考えても異常事態だからオカルト肯定派になってんだけどだからっつってな)
彩夢は足首を器用に動かしながら頭グルングルンと回していた。ただ恐ろしいことに視点は一点を見つめている。その後も豊かな肢体を存分に震わせながら色々と躍っていたのだが視点は常に一点を見つめているではないか。
(タップにドジョウ、ボックスステップに盆踊り、エイサー、あとまあよく分からんダンスを色々と織り交ぜたダンスをするみたいだけど……こいつどんな運動神経してんだよ、こんなの数日の練習は必要だろう)
そう、雅也が恐ろしいと思っていたのはダンスそのものではない、彩夢の能力の高さである。ダンスそのものも視点を一点で留めるのもそう容易くできることではないことのはずだ。
(前々から思ってたけど……もしかしてマジで喧嘩したら負けるかもね……彩夢が良い奴で良かったよ)
やがて最後までなぞの踊りを踊り切ると汗だくになりながらも達成感のある顔をした彩夢がビシッとポーズを決めた。
「さぁ、見えた気がしますよ!!!いざ尋常に勝負です!!!」
勢いよく拳を振りかざして叫ぶ。
「最初はグーです!!!じゃんけん」
緊張の一瞬、僕は無心で手を出した。
「ポンです!!!」
僕が出した手はパーそして彩夢が出した手は
「グー…………あの、雅也さんの手、実はチョキってことにできませんか?」
「できないね」
「そこを何とか」
「上目遣いで来られても無理」
「可笑しいですね、私の見た未来ではチョキを出されていたんですが」
「お得意の妄想だろ……ったく、こんな怪しい本に書いてることがマジなわけないだろうが」
「ちぇっ、です」
すると彩夢は汗で濡れた自分の髪を見た。その後再び鏡と向き合ったと思ったら強く拳を握り締める
「ま、頑張ったのでよしとしましょう!!!」
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