第12話 水着とムニムニのモミモミです

 最近雅也は自信がなくなってしまっていた。


(僕は彩夢に対して性欲を抱くことが出来るんだろうか)

 これまで何度も彩夢に対してエロい目を向けようとしていた。だがしかし自分では精一杯くすぐったくなるような甘々な視線を向けているのであるが彩夢の方は一ミリたりとも気にしていないのである。


(この前とか谷間を見てたら)


『どうしたんですか?ブラならちゃんと胸にあうものを使ってますからご心配なく。ああ、つけてみたいならあっちに私の予備があるのでどうぞ、私のが嫌だったら近場のデパートに行きますか?

 安心して下さい、私は女装癖に嫌悪感とか覚えませんから。十人十色、私も小鳥も鈴も皆違って皆いいです。化粧をしたいならお教えしますよ。にいにいから教えてもらったのでバッチリです』


(とか言ってたし……やっぱり僕才能ないのかなぁ?流石に彩夢の胸を揉んだりするのは不味いだろうし……覗きとかは僕の主義に反するし……まあ多分僕がその手のことをしたとしても彩夢は大して気にしないだろうけど)


 ブラブラと歩いていると普段なら気にも留めないものが見えてきた。


「プールか」


(うーん……ここなら)





「プール二人占めです!!!!」


 森林を思わせる深い緑色のビキニがタワンと揺らめく彩夢の胸を覆っていた。楽しそうに動くたびにプルプルと踊りだし瑞々しい白色の肢体はとても艶めかしく躍動する。普段はまとめていない長い黒髪を白色のゴムでキュッと締めたポニーテールは彩夢の溌溂さを引き上げているように思わせる。


(けど……こないなぁドキドキ。いや、まだこれからだ、昔姉ちゃんが言ってたろ、水が滴った女の子の官能レベルは格段に上がるってさ。今までは特に意識したこともなかったから気づかなかっただけだ……と思う、いやそうに違いない!!!)


 雅也はいつも通りに口を開いた。


「いや、結構人いるだろ。運営している最中に時間が止まったんだから」


「ええ。ですけど誰も私達のことを見てませんし何より空っぽのプールはちゃんとあるじゃないですか」


「え?どこ?」


「ここです」


 案内板のあるかしょを指さしてニッコリと笑った。

「子供用プール?」

「はい!!!ここなら空っぽです」


(ここなら狭い。ここならボディタッチも多いはず……それならばきっと)



「うほほーいです!!!」


 たゆんたゆんと躍る緑に包まれた双丘。


「らららららーんです!!!!」


 窓から差し込む陽光に照らされ色づく肢体。


「ラップルルーンです!!!」


 躍動する若い魂。


「シュパパパーンです!!!!」


 吹き出てくる謎の言葉。


「ドドドドドドンです!!!!!」


 そして繰り出されるこれまで見たことがないほどパワフルなスパイク。


「スマッーーーシュです!!!!!!!!!!!」


「はぁはぁ」


「ん?疲れましたか?なら休憩しましょう」


「ああ。うん……そうだね」


 何故か雅也はひたすらトスを上げ続けていた。雅也がトスを上げ、彩夢がスパイクをする。この単調な動きを何度も何度もしていたのである。


「ふぅ、やっぱりあれですね。運動した後のプールは最高です」


 子供用プールに肩までつかった彩夢はフゥーっと息を吐きだした。


「明らかにプールの楽しみ方じゃ無い気がするんだが」


「まあそうですね。でもこれって私の夢だったんです。プールサイドで心許せるお人

と楽しく運動をして、その汗をプールで流す。その昔漫画で見てから是非ともやってみたいと思ってたんですよ。ああ、その漫画の中ではお金持ちキャラの勇作君が意中の女の子である麻尋ちゃんを落とそうとして貸し切りにしたんですけど……とまあそんなことは興味ありませんよね」


(まあぶっちゃけ)


「とにかく憧れだったんですよ。付き合ってくださってありがとうございました」


「まあそれは構わないんだけどさ、なんでひたすらトス&スパイク?」


 彩夢と雅也の肩と肩がこつりと当たったのだが二人とも気にすることもなく談笑を続ける。


「ああそれですか。二人で出来ることなんてたかが知れてますからね、プールらしくてなおかつ清々しい汗が流せるものはないかと考えたらトス&スパイクが一番じゃないかという結論に」


「バレーボールはプールじゃなくって海のような気がするんだが」


「親戚です」


「似て非なるものだと思うんだが」


「似て非なるものとは歩み寄れる存在です。スッポンだってその気になれば山を登って月を仰ぎますよ。まして海とプールは仲良しこよし、プールがバレーボールをとっても海は怒ったりしません」


 奇怪な論を展開させていくが不思議と雅也の頭の中にはスッと入っていった。それは果たして疲れていたからなのか、それとも雅也自身が彩夢に影響されているせいなのか、とにかく納得できるもののように思えたのである。


「なるほど。流石は海だ……海と言えば彩夢って海瀬って苗字だったよね」


「はい。まあ海瀬って言っても海を司ってるとか海にもまれて育った一族だとかそう言うあれはありませんよ」 


「そうだろうな」


「雅也さんは長谷でしたよね」


「ああ。勿論長い谷の間で生まれ育ったとかそう言うあれはないから」


「合点です。ふーんそうですよね、谷なんですよね」


 彩夢は何かを思案した後に雅也の顔を自分の胸に傾けた。




「ちなみに谷間に興味ってありますか?私それなりにあるんですけど」


「…………正直に言えばないんだけどこれから興味を持っていきたいとは思ってる」


「ならどうぞ」


 ただでさえ強い存在感を放っている谷間を思いっきり強調しながら胸を差し出した。


「どうぞ?」


「ムニムニのモミモミです」



(ああなんだムニムニのモミモミか………やっぱり彩夢って変な子だな)



 一ミリも焦ることなく自分のことを棚に上げながら冷静な思考をする自分もどっこいどっこいだと気づかない雅也、何とも間抜けな男である。

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