最終話 純水の夜想曲(ノクターン)
――管理室
「あなたが公安のJOKERという組織を創ったんですか?」
「……あなたは?」
「顔も知らないのですね……」
「迷惑をかけたようですね……では」
「待って! どうするんですか? これから……」
「あの人とただ私は一緒に居たかった、これからも……。私たちが目指した天国で」
(そう……)
しばらくしてやってきた大神が燈火の肩に手をそっと置いた。
「良かったのですか……?」
「AAOは今白紙状態だ……それを自分で選んだってことだと思う。大神さん、あなたは彼女はどうするべきだったと思う?」
「分からない」
「そう……ごめんね……また」
「またって何のことですか?」
「……ごめん。もう終わったんだね、私たち……」
「はい。彼らとの思い出は永遠なんかじゃ生まれなかった」
「そうだね!」
(蘭……終わったよ。ゆり……公英……結局残ったのは僕1人じゃないか。最後にちょっとだけ組織犯罪対策特殊課のリーダーとして戦えたこと……本当にありがとう)
「戻りましょうか、仲間のところへ」
「そうだね!」
◇
株式会社ホープ、エントランス――
「水……か」
「お父さん……?」
目を覚ました木場田は担架に寝たまま水と再会を果たした。
「私は……! いや、もう何も言うことはない。すまなかった。今はただそれだけを思ってる。本心だ」
そのまま木場田は警察に連行されてまたお別れとなってしまった。
純と雫がそっと肩に手を置く。
「……すまなかった、じゃ、ない……でしょ……」
水は2人に抱きついて静かにすすり泣いた。
「次に会った時は思いっきりぶん殴ってやれ」
「う……ん」
「帰ろ。水……駄菓子屋に……私たちの家に」
「……うん、ありがとう」
◇
とある道路――
「やっと追ってこなくなったな、黒スーツの奴ら」
「終わったってことでしょう」
「何が?」
「さあね? 今度お兄さんたちに聞きに行きましょう」
「今日は?」
「帰る」
「……そうやねえ……ほんまに疲れたからなぁ」
緑川はぼこぼこになった軽トラをゆっくりと帰路に走らせた。
◇
アクアパーク――
カチャカチャ、『怪盗ストレリチア逮捕――』
「おい! 何の真似だてめえ!!」
「逮捕だが? 忘れたのか? お前は怪盗で俺は警察だ」
「卑怯だぞ!」
「卑怯もくそもない、愚痴は警察病院でいくらでも聞いてやる」
「はあ!! イテて」
「ほら傷口がひらいた」
「大丈夫か……包帯が解けてるぞ」
「へっ!」
ストレリチアはその隙に胸ポケットから針金を落として手錠を外し、次の瞬間にはグライダーを広げていた。
「またな~~千賀警部」
「てめえ!!!!」
その後、AAOの市街地➀に避難させていた人たちを燈火と大神の手によって現実世界に無事戻すことができたそうだ。ちなみにAAOは一部の規制の上でゲームとしてなら遊べるレベルにまでになった。千賀はあの後勝手な行動の連続のせいで上層部にひどく注意を受けたそうだが公安の件もあり、何とか今の立場のままでいられるらしい。そして、AAOで友達になった緑川さんや瑞希もたまにであるが駄菓子屋に顔を出すと燈火や水から聞く。特に瑞希は水や燈火、雫と年も近いこともあって仲良くなり、高校受験の勉強を教えてもらっているらしい。雫は相変わらず花見町で菊と一緒に人形探偵をやっている。元組織のメンバーがどうなったのかはわからないが目立った事件は今のところ起きていない。あの怪盗や女優としての顔を持つロベリアはちょくちょくニュースで耳にするが……。
◇
そして俺は……現実の駄菓子屋探偵は相変わらずと、言いたいが今は休業中だ。店のことは全て水に任せている。それはこのAAOでまだやり直したことがあるからだ……。
「遅くなったな」
俺はこれからもどこに行っても――。
(終わり)
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