幕間
幕間➁ 女子会➀
とある日の放課後、水は補習のせいである約束の時間に遅れていた。水と燈火と雫でゆっくり話そうと計画を立てていた本人が遅れるとは二人は思っていなかった。
「まさか誘った本人が遅刻とはね」
「ボクは
「一つ確かめたいことがあってね。あぁ、君の能力とかを説明してもらうために来たわけじゃない。そういうのは隠しておくべきだと思うからね」
「じゃあ前に水や千賀さんが言ってた
「……それもだけど、それは水が来てからにするよ。雫……何でまだそんな男装に男口調なの?」
「おかしいな、ボクは燈火に初めて会った時からずっとこんな感じだっただろ」
「だからっ! その男装は全部マリーゴールドを捕えるためにやってたんだろ? あいつは過去のトラウマのような事件から男性にしか催眠が効かない。だからそれに強引に近づくために君は……」
「ははは、そうだったね。それがきっかけで男装し始めたんだった。一人称も私から、ボクに変えて……」
「自分を偽るのは辛かったはずだ……雫。そんな奴のために自分の生活を押し殺したのだから……」
「まあね~、学校とか最初の頃は大変だったねぇ~」
「今さら……って感じかもしれないが、少しずつ前の自分に戻していけばいいと思うよ……。私も訳あって0からスタートし始めたんだ」
「ボクはこのままでこれからもいくよ」
「何で!?」
「確かに燈火の言う通り、今のボクは昔の私とは全然違う。けどこれが自分で選んだ道なんだ。今のボクを否定するってことは昔の私が自分自身に誓った覚悟まで否定してしまうような気がするんだよ。自分の道は正しかったんだといつの日か思えるようにこれからも頑張るよ」
「そうか……覚悟……か」
「それに! きっと今のボクがあるから水に、燈火に出会えたんだよ! それだけで充分ボクの心は壊れない、後悔もないんだよ」
「ははっ、ほんと似てるよ君たちは」
「えぇ? 似てないよ!」
燈火はその瞬間に雫という人間の覚悟の重さと天音純の影を感じた。
「でもこれで取り敢えずマリーゴールドが捕まったってことで花見町は平和になったってことだね? 流石にあの組織も花見町からは手を引くだろう」
「……そううまくはいかないみたいだ。信じられないが町のみんなが言ったようにこの町は本当に呪われてるのかもしれない」
「え? どういうこと?」
「眠り病はマリーゴールドが操った人間がショートしたこと、睡蓮病はその催眠やロベリアの能力を使用して組織の研究薬品を投与したことが原因だった。これに間違いはない」
「また何か奇病が流行っているの? この花見町で」
「いや……まだ確かなことは分からない……。最近分かったのは眠り病の患者さんはあのマリーゴールドの一件から増えているらしい……」
「増えている!? 何でだ! 眠り病は彼の過度な催眠の後遺症じゃなかったのか?」
「多分、それだけじゃなかったってことかもしれない……。詳しい原因はこっちで調べてみるよ」
「…………」
「もう日が沈みそうだね」
「ああ……」
◇
「ヤバい! もう日が沈んじゃう! 急げ、電車~!」
水は補講が終わってすぐに花見町行の電車に乗り、イヤホンで夕方のニュースを片耳で聞いていた。
『新型ゲーム機を買い求める長蛇の列ができております』
AM4:00に厚手のコートに身を包んだ人たちがずらずらと並んでいる様子が画面に映っていた。
(先行発売かぁ、凄い熱狂……そんなに凄いの?)
『五感を直接仮想空間のアバターに接続するフルダイブ技術を搭載したこれまでにない全く新しいゲーム機の実現……』
(ちょっと前に流行っていたアニメ、VRMMOだっけ? あんな感じのことが今もう実現できてるの……?)
ブーーーッン――
(あっ、トンネル入っちゃった! そろそろ着くし、降りる準備しよ)
………………………………
『専門家の先生を今日はゲストにお呼びしております……。早速ですが先生、この夢のゲーム機、何かデメリットのようなものはあるのでしょうか?』
『はい、それは現実とゲームとの区別がつかないことですね、現実は現実だと自分をコントロールできないとゲームの中に閉じこもってしまい、社会から隔離されてしまいます……』
『それは恐ろしいですね……発達し過ぎた夢の技術、これから私たちはどのように向き合っていけばいいのか……考えていかなければなりませんね』
『先行プレイの結果を収集して、おそらく現時点では発売日は見送りですね。何しろデメリットが大きいですからねぇ、今後の社会を大きく変えるかもしれない技術なので是非とも慎重に判断していけたらいいなと思ってます』
『その先行プレイで何か重大な問題点が見つかったのでしょうか? それは先ほど話されていた現実との区別でしょうか?』
…………
「やっと着いた~! 花見町。燈火は先にもう行ってるよね。ちょっと遅くなっちゃったけど今日は夜まで雫と3人で女子会だ~」
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