五章:本物の爆弾

第28話 大雨


 とある日の美咲高校駐車場――



「KARASU……組織からの新しい任務か……」


 開いたメールにはただ『を連れてこい。』とあった。


「毒を以て毒を制す……。公安……良い機会ですね」


 大神はそのメッセージを削除してしばらく傘をさして下校する生徒たちを眺めた後に愛車のエンジンをかけた。




 美咲町、駄菓子屋探偵事務所――



 朝から降り続けている大雨。夜になってさらに激しい降り方をしていた。そんな悪天候が原因というわけではなく、いつでも客があまり来ない駄菓子屋の探偵事務所。奥の畳に座っている天音純は真剣な顔つきで新聞を広げていた。それを横目に水は店内の掃き掃除をしている。



「はあ……」

「ん~~? どーした水。悩み事か?」

「……あんたいつもカッコつけながら新聞見てるようだけど、最後の四コマ漫画しか見てないのバレバレだから。ホント子どもね」

「ハ、はあ!? ミテマセンシ! 俺はいつも新聞に載ってる事件を見てどうすれば平和になるか考えてるんだよ……。それに今日のコンちゃんが家出する回はあんま面白くなかったし! この前の道に迷った人にお菓子をプレゼントした回のが感動したし!」

「はあ、もういいわ……。早く仕事して」

「…………はい、すみませんでした」


 いつもの景色。いつもの会話。そんなただの日常を天音は幸せに思っていた。



 一つの電話が入るまでは――



 ブーー、ブーー、ブーー、



 携帯が鳴り、画面には千賀白の文字が表示されていた。



『何だよ千賀? こないだの駄菓子の赤字分+αの報酬か?』

『お前にまた頼みたいことがあるんだ』

『……せめてなんかツッコんでくれや。で、組織の件か? それとも事件か?』

『なるべく今日中にある人を探してほしい』

『バカタレか! お前今日、一度も外の天気見てねーのか? それにもう夜だぞ』

『今日中にある人を探してほしい』

『…………。わかったよ、やるよ。ただし! 報酬はいつもの倍だ!』

『先に言っとくが、今回は少し難しくてな……。まあ、まずその人の特徴を伝えるぞ』

『わかった』

『まず、髪の毛は……』

『おいおい、そんな髪型よりそいつはまずどこの誰なんだ? そもそも何の事件なんだ?』

『それは…………』



 ピシャーーーーーーン!!!! ガラガラガラ!!



 電話の途中に近くで雷が鳴ったと同時に駄菓子屋の扉を開ける音が聞こえた。そこには雨の中走ってきたのか辛そうに膝に手をついている髪の毛から全部びしょ濡れの女性がいた。



『すまん、千賀! 今別件が入った、そっちでなんとかしてくれ』

『あ! ちょっ』



「水! タオル頼む! あとシャワーの準備も!」

「う、うん、わかった!」


 千賀からの電話を急いで切った天音はとりあえずタオルを渡して座らせて温かいミルクを用意した。その女性は何故か自分の髪の毛や服をタオルで拭く前に赤い手帳らしきものを大切そうに拭いていた。


「大丈夫か? 傘持ってねーのか?」

「……コーヒー」

「は、はい?」

「……ブラックのコーヒーが……いい」

「なんだこいつ! 子どもはコーヒーは好きじゃないかなと思ってミルクにしたんだよ! ちょっと待ってろ!」

「……子どもじゃない……もうお酒も飲める年齢……」

「まじかっ……。てっきり中学生くらいの子どもかと思っ、」


 ビシッ!!


 そう言いかけた天音に向かって水が頬をビンタした。


「イッッタ!! 水!」

「謝りなさい。 失礼でしょ」

「す、すみませんでした」

「……ここ……探偵事務所じゃなかった……の……ね…………」

「くっ! なんなんだこいつは……。 ここで合ってる! ここは駄菓子屋探偵だ。そして俺は探偵の天音純だ」

「……………………………………」

「って寝てるし!! 起きろ、風邪ひくぞ」




 雷が鳴り響く大雨の中、突如として現れた容姿が中学生くらいの謎の女性。ただの雨宿りかそれとも――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る