幕間

幕間➀ デート

 組織二人の幹部との接触から一週間。天音たちはまたいつもの日常に戻ったのだが、いくつかの謎が残った。何故怪盗ストレリチアはコスモス、大神黒斗が組織のスパイだと分かっていたにもかかわらずそれ相応の処罰をしないのか……。水の白い髪が生まれつきじゃないという話……。そして今回のビル爆破といい、組織のボスは怪盗ストレリチアやロベリアのような世間でも目立つような奴らの行動を許していること……。組織の目的……。幹部それぞれの目的……。天音はそんなようなことをあれからずっと考えていた。



 ブーー、ブーー、ブーー



「ん? 水の携帯、なんか鳴ってるぞ? 珍しっ! 友達か?」

「うっさい!」


 花見町の一件の後に連絡を交換していた天音雫からのメールであった。


「デートに行ってきます! さようなら!」



 ガラガラガラ、ガタン!!



「へ? ま、まじ? おいちょっと待て水! ……誰だそいつ許さん!」


 水は駄菓子屋を勢い良く飛び出してメールで雫に呼ばれた場所へと向かった。



 花見町、とある場所――



「それはむかつくよな~。水は友達たくさんいるもんね! きっと!」

「う、……うん」

「あれ? まさかボクだけとかじゃないよね? まあボクも人のこと言えないけど」

「……そんなことより! ここどこなの? 急にメール来てビックリしたよ」

「こないだの件はごめんね……ボク、何もできなくて……。今日はそのお詫びじゃないけどさ、初めて会った時に話してくれたやつ。水が今も気にしてることに少しでも協力したくて……さ」

「気にしてること……?」

「じゃ入るよ。許可は千賀さんから取ってある」

「えっ!? この厳重で怖そうな建物に!?」


 入った先で水は前に会ったことがある人物を目にした。それは面会という形での再会だった。


加藤かとう……苗木なえぎ……さん?」

「……水。友達……? を連れて何の用?」

「雫! どうゆーこと?」

「苗木さん。ボクは水の友達でね。人形探偵ってのをやってるんだ。君が起こした事件、水から聞いたよ」

「……探偵。もうあの事件は私が犯人ってことで終わったこと……。帰ってよ……」

「まあまあそんなこと言わないでよ。まだボクの自己紹介が途中だよ?」

「ちょっと雫!」

「ボクはね。生まれつき幽霊が見えるんだ。ある条件を満たせば会話もできる」

「っ!?」

「ちょっとは興味を持ってくれたかな? ここへ来たのはね、君はまだ死人じゃないよってことを伝えたかったんだ」

「お前なんかに何が分かる……。帰れ! ……水、最後に言ったはずだ。心が死んだ私は人形同然の死人だと……」

「…………」


 水はその言葉でまた鮮明にあの事件を思い出していた。


(そうだ……苗木さんが逮捕されてあの事件は誰しもがみんな終わったと思ってたけど。やっぱり終わってない。苗木さんに起きたその心の痛みはまだ解決してない。そもそも心の痛みなんて警察とかが解決できるものじゃない……。そして探偵の私達にも……。あれからずっと苗木さんは……)


「そ。それだよ。苗木さん。今から証明するよ。君はまだ生きてる。つぐないってのは心を持った人間にしかできない」

「何を言ってるのか分かりません……。生きている証明……? そろそろ時間ですよね……」

「いいかい? 苗木さん。ボクには人形に幽霊の魂を入れる力があるんだ。勿論人形は生きてない」

「バカにしないで……さっきから何を言って」

「これを見て。この人形には菊っていう名前の魂が入ってるんだけど……」


 雫は服から出したその人形を苗木の前に置いた。すると雫の合図で人形はその場でカタカタと音を立てて苗木の方を向いた。


「見えたよね? きっと」

「――――っ!!」

「雫……まさかっ」

「そう。……!」

「待って!! そんなことしたら!」

「いくよ……。覚悟を決めろ加藤苗木!」


 苗木はその言葉でとっさに目をつぶってのけぞった。


 ……………………


「どうだー? 苗木さん。喋れる? ボクと水が分かる?」

「しゃ……しゃべれる……」

「ふう……。ってことだ! 苗木さん。君は生きてる。もし死んでるなら君の体を今頃動かしてるのは菊だからね」

「………………!」


 面会終了の時間になり、二人は建物の外に出た。


「ちょっと雫!! あんなことできるなんて聞いてないよ!! それにもし失敗したら……」

「ボクは彼女に会った瞬間にもう加藤苗木の魂は見えていたんだよ」

「じゃあ苗木さんは生きてるってわかっててやったんだ」

「当たり前だろー? わざわざあんなことしなくてもわかるはずだよ」

「でもどうして」

「気にしてたろ? それにいくらこれから地獄が待ってたとしてもその最後の瞬間までは人間らしい心を持っていて欲しいんだ。どんな人でもね……。本当は生きてるのにもう死んでるなんて思ってるのは悲しいだろ?」

「……ありがとう。雫。雫は優しいねホント」

「ふふ、水ほどじゃないよ。でもこれからどう生きるかは加藤苗木が決めることだ。その支えになれたかどうかはわからない。けど今回みたいなのがボクにできることなんだと思うよ……。だから、これからは困ったことがあったらボクを頼ってよ! 一人で解決できることなんてほとんど無いんだからね! 組織の件でボクもそう気づいたんだ」

「そうだね……きっと! ありがとう!」


「じゃあ今から前に約束した食べ物巡りでもしよーか!」

「え!? 今から!?」

「デート! するんだろ?」

「じゃあ最初はスペシャル餡蜜デラックス行こ!!」


 こうして水と雫の短いデートが始まった――



(幕間➀終わり)

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