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見つけた!
木更津から東京湾の奥へと進む単縦陣で進む3機編隊、高度11,000m。高度差1,000m、奴らの頭を押さえた。残り1分で会敵。
どいつだ?どれも上から見ると同じ改造がされている。お尻の銃座だけがあるタイプ。外見からは判断がつかない。
帝都の高射砲が無駄に吠え出して、機体のはるか下から炸裂音が聞こえている。
都心との距離を考えると、攻撃できるチャンスは一回きり。背面飛行し、私は30mmを単縦陣に向け乱射した。相手も無抵抗ではいないが、上面銃座が無いので、正面からの銃撃だけだ。回避行動を取りながら背面飛行のまま上昇した。私の乱射に根を上げた1番、3番がそれぞれ左右に回避行動した。
見つけた!単縦陣真ん中、2番、奴だけがコースを変えなかった。
「……落ちろ……」
37mmの斉射を2番の奴にくらわした後、すり抜けると、思惑通りに爆散した。
「アハハ! やったよ」
盛り上がっている私の前方、2,000mに別の機体が目視できた。
私は既に高度8,000mで水平飛行に戻していたのだが、腹の方が見えて、見上げる様な位置関係になっていたが、そいつは、爆弾倉の扉を開けていた。
……あいつか……
絶望を感じた。前方2,000mと高度差2,000m。爆弾倉を開いていることから、既に爆撃へのカウントダウン中と思われる。
しかし、考えている時間はない。即座にフルスロットルをくれてやる。途端に、金属音のシンフォニーが奏でられ賑やかに発動機がお喋りを始める。
「いい子よ。そう! もっと、楽しみましょう」
すさまじい金属音がこだまする操縦席から見上げる敵機はまっすぐ飛び続ける。
速度差はおよそ200km/h、私の方が早いといっても、追いつくのだけで1分はかかる。湾の最深部にかかっているように見える敵機。
……使うか……
おととい、整備兵の僕ちゃんをなだめてすかして、脅して付けさせた。
6連装ロケットブースター。
胴体下部に取り付けさて、上昇速度の向上を狙って整備長に黙って付けさせた、これまた出所不明な逸品。
1番、6番点火!
私は何の迷いもなく操縦席のスロットルの下に新設された6個のスイッチの2つを押した。
お尻の下から轟音がとどろいたと思ったら、のけ反る様な加速と共に機体がミシミシいいだした。速度は800m/hを超えている。いっぺんにいったらどうなるんだろう?やらないけど。一気に、間合いを詰めて上空の敵機を追い超して2,000mの上昇を見越した先で燃料切れ、速度も落ちたところでホップアップ、90度の角度で垂直上昇へとコースを変える。
2番、5番点火!
残り、1,000m。
楽しい!!胸をすく加速が私を別世界へと誘う。上空の敵機は爆撃コースへのアプローチから動けないでいる。
貰ったよ。
残り300m。
「……落ちろ……」
3……2……1
扉の開いた弾倉の隣、翼の付け根37mmの斉射をくらわし、機体を捻ると、敵は図ったように爆散し、台場上空で跡かたなく消えていた。
爆散した敵機の上空で振り返り、黒い空中の煙を見ながら、
「父さん、どう? あなたのやりたかった事、私が防いだわよ。
……残念だったわね。
母さん、私、凄いことしたのよ。日本人になれた? もうこれで、母さんを悲しませなくなるかしら」
みるみるうちに上昇して、正面に向きなおった私には漆黒の闇が見えている。90度の上昇角度で昇る私にはそれしか見えなかった。
このまま……このまま、昇れる? いい子ね。私をそこまで連れて行ってくれる?
左手を自然に下ろした先のあたらしく加わった、スイッチ達。その子の3番、4番はまだ押されていない。
行こう! 今日は、行けそうだよ!!
3番、4番のスイッチを私は押した。
お尻の下から聞こえていた轟音が、勢いを増し、それに呼応するように、加速して、高度計の針がグルグル、全力下降している時の様に激しく回り続けている。後ろを振り帰れば、既に、東京湾、房総半島、三浦半島が一つの視界に収まるくらいの高度になって、私をその気にさせる。
高度は13,000mを超えてさらに上昇していた。
何処まで登っていくのか、ロケットブースターは4本点火で、私の興味はそこにあった。出来るなら、行った事のないあの真っ暗な……
碧い空のもっと上までつれていって……もう、トリガを押さなくてすむ世界まで……
父さんの作った飛行機を壊さなくて済む世界に。
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