碧天の行方

樹本 茂

1 ボルネオの女神

「直上、敵機!!」


上部射撃管制のフランツ中尉が叫んだ。その瞬間、編隊の最後尾の、ジェームス機長の機が爆散した。


「バカな、迎撃機インターセプター一機の攻撃でこんな事が……」


副機長コパイが蒼白になりながら、呟いたのが、無線機越しで聞こえてくる。


「上ってくる、下部銃座弾幕張れ!!」


さっきのやつが下から、あがって来たのだろう。機体上のドームから顔を出して覗くと俺達の5時方向を飛ぶ、マット機へと襲い掛かる瞬間だった。機体の真下から90度の上昇角で、銃座の死角、直下から日本機にあるまじき上昇速度を纏い一気に距離を縮め3秒の斉射を加えると、そのまま、機体を主翼の後方ギリギリを狙いすり抜けて、高度を上げていった。


マット機はインターセプターがすり抜けた数秒後に爆散して、その爆発の衝撃が俺の乗る先頭を行く編隊長機にまで伝わって来た。


その様子を一緒に見ていた、フランツ中尉が


「まずいぞ! あいつは、ボルネオの女神だ! あいつが、トーキョーの空に来た……という事か……」


「ボルネオの女神? 何ですか? それは?」


俺は、顔面蒼白のフランツ中尉に聞く、


「やつは、迎撃専門のプロフェッショナルだ。あいつに狙われたらお終いだ……」


「そんな、ばかな。ジャップの空にはまともに戦える戦闘機なんてない筈では? 俺達だって、それを承知で、護衛エスコート無しで6,000mの遊覧飛行を楽しんでいたんじゃないんですか?」


「お終いだよ……雷電ジャックの横の日の丸ミートボールの中の女神のパーソナルマーク、オリジナルよりも翼端を切り詰めた翼、明らかにデカい排気タービンの音、カウルの横からいくつも出ている吸気口、そして、あの直上、直下からの急角度の攻撃スタイル。俺は昔あいつに落とされたんだ。0対16のスコアでな」


「まさか、そんなクレイジーな奴がいるのか……」

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