貴方が帰るその日まで 7話
ローズ視点
昼食もそこそこに、二人にロラン君の話と私の決断について伝える。因みにロラン君は今別室でお食事中だ。本当は一緒に食事をとった方が今後の為にもいいのかもしれないけど、今回は時間が無いし、私たちの話し合いの席に彼を同席させるかどうかは私だけの判断では足りない。
マリアとエリスがどう判断するかも重要になってくる。アイクを除けば私達がこの集団のコアなのだから、ある程度の事案は私たちの中で合意を取れてからでないと今後に差し障るわ。
「んー……。多分さ、ローズのアイクさんに対する分析は間違っていないと思うけどさ、実際にローズをハーレム要員から切り離すっていう行動には移れないと思うよ。
身内とか女性関係でそんな風に思い切りのいい行動がとれるなら、色々と拗らせていないと思うし。」
マリアの身も蓋もない言葉がこの場にいないアイクの面子をがりがりに削ってしまうけど、この場にいないから問題ないわね。
「それでもローズは不安ですものね。大丈夫だと思いますよ。基本アイク様は貴族然とした交流とかしきたりとか面倒な事が自分に降りかかってこなければ文句を言い始めないと思いますし。
それに自分より他に良い人がいるだろうからって考えていても、別れる辛さに耐えきれなくて自分からは切り出せないと思います。
何となくですけど、エイリークが彼方此方で騒動を起こした後に直ぐに姿を消してしまうのは逆説的に人との別れが苦手だから、かなっと思うんですよね。」
確かにそれは私も考えていた事だからか、ストンと腑に落ちる。二人の保証が私を確実に勇気づけてくれた。
「ありがと、お陰で不安が吹き飛んだわ。後はもう一つの問題よね。」
「あんたも解っているとは思うけどレイモンド自身こちらの屋敷に直接来る可能性は少ないわよ。なにせ自分が直接子爵様とダニエルを押さえておかなきゃいけないのは理解しているはずだから。どんなに馬鹿でも。
……理解しているわよね?」
「あんた言うなし。そこが解らないから二人に相談しているのよ。本当なら時間が無くてもある程度の流れを考えてから二人に話すでしょうけど、一応身内の事だからさ。
判断する際に目が曇りそうで。」
いつものやり取りをはさんで少し私に笑顔が戻る。マリアも苦笑しているわね。
「身内として目が曇っていても良いからさ。どう思うの?弟さんはどう動くと思う?」
「本来の気質で考えると前しか見えないし、策士を気取っているけど自分で敷いた策を自分で踏みつぶしてしまう所があるわね。かなり追い詰められているようだし、周りを見る余裕もないみたい。
それと連れてきた兵力が致命的ね。こちらの数を調べなかったのか調べる暇が無かったのか。たった50人じゃ子爵達を見張りながら屋敷の襲撃を考えると絶望的に兵力が足りないわ。私達が強化されているかどうかにかかわらずね。」
となると当然全兵力で動くことになるか時間をかけて兵力を整える。ただ、子爵やダニエルの協力を得られない以上、ルーフェスの兵力は使えないから自分で集めるしかない。時間もかかるし、こちらに情報が漏れる可能性も高くなる。そこをどう判断するか。
中途半端に兵は神速を貴ぶとか言い始めて寡兵で屋敷を責めてくる可能性も高いけど、変に自分に自信がある上にアイクがこの場にいないとわかっているだろうから。
「多分、子爵達の抑えは最低限に、もしくは無しで自ら動かせる最大兵力で今夜来るかもしれない。
ルーフェスでどれだけ雇えるかだけど、元々人の流れが頻繁でよそ者が多く入り込む町だし、やり方にも依るけど普通にやれば2~30、お金にあかせて派手にやれば100は集められるかもしれない。
最初はそこまで派手にやってこちらに知られるリスクを冒すほど馬鹿じゃないと考えていたんだけど、今はちょっと自信ないかな。」
私の言葉にマリアは失笑しエリスは懐かしそうに顔を綻ばせる。
「そういうお馬鹿なところがレイモンド様の魅力でしたからね。ゲームの中のキャラクターなら文句なしに愛でたくなりますね。
……リアルではちょっとご免被りますけど。」
エリスが酷い。思わず浮かんだ苦笑をそのままに話は続く。
「あぁ、まぁレイモンドだもんね。となると最大で150前後の兵が動くという事ね。一応警備兵何人かに町の盛り場辺りを探らせましょう。その報告次第である程度人数が絞れるわね。
前の時みたいにこそこそと侵入するというより堂々と名乗りを上げて正面から突入してくることになるわよね。
名乗りを上げる理由は。」
「子爵家の警邏兵が動いたとしても、公爵家を名乗れば動きを掣肘できる、ですよね。そうすると屋敷内で迎え撃つというより屋敷前かこちらの庭が戦場になるという事になるのかしら。」
「どのポイントで迎撃するかは隊長たちと相談すべきね。こちらの勝利は動かないにしてもどれほど被害が出るか、が問題よね。迎撃の仕方にもよるけど。」
「主力の私達が出張って後先考えないで全力戦闘すれば、何人かの乙女の尊厳を犠牲にするかもしれないけどそれ以外の被害は出ないと思う。」
「できればそれは避けたいわね。こちらの兵がどれだけ動けるのか、守護のペンダントの実戦での効果も確認しておきたいし、私たちの訓練の成果も確認したい。」
意外と、私たち三人の中で一番戦闘センスがあったのがエリスだったりしてその意外性に二人して驚いたのだけれども、14人全員で見てみるとやはり私達はそれほど戦闘に向いていないみたいで、御者の4人と侍女の中だとエリアとラナが頭一つ抜けているみたいね。
まぁ、団栗の背比べだと言われたら反論できないくらいのレベルでしかないけど。
結局昼食の時間だけでは十分な打ち合わせが出来なかった。私とマリアは午後の商談があるし、こちらの方も手抜きをするわけにはいかない。
1日商談を後回しにすればそれだけランシス国内の物流も経済も停滞する。それは多少言い過ぎかもしれないけど、段々とそんな風に物流の流れが出来上がりつつあるし、私たちの影響力も日々大きくなってきている。
少し悩んでいるとエリスが私に任せてほしいと言い始める。
「私で判断できない様な相談が出てきたらネットワーク経由でお二人に相談しますし、基本的には餅は餅屋でしょ?隊長さんがある程度考えてくれるでしょうから、相談するだけなら私でもできますから。」
「多少心配でも仕方ないわね。あんまり殿下に雑用とかやらせたくないんだけどね。能力云々置いといて、外聞もあるし。」
「あたしらにとっては殿下と言うよりお祖母ちゃんだし、原則にこだわっていられる状況じゃないわよ。襲撃が今夜っていう判断だってどうなるか分からないわよ。
もしかしたら既に外にレイモンドが来ているかもしれないしね。」
「その可能性がゼロってわけじゃないからね。悪いけどエリスにお願いするしかないかな。
基本的に警備兵中心での迎撃プランでお願いね。此方からは数人出る予定だけどレイモンドが出てきている場合は私自身が出ないと色々と不都合もあるでしょうから。その場合は私も戦力に数えてもらえると助かるわ。」
「あんまりローズを前に出したくないけどね。家の女主人に何かあったら一大事よ。それでも事情が事情だし、公爵家の後継の正当性と周囲へのアピール、そして強化された現在の戦力を勘案すれば妥当かな。」
マリアの了解も得られたところで、昼食の時間を少しオーバーしてしてしまい、あわただしく食堂を後にした。
いつの間にか二人に相談する前に感じていた気負いの様な物が肩から降りたようで物理的に感じるほど体が軽く感じたの。
自覚した時に驚いたわ。自分一人じゃなくて、自分と同じ立場に立って支えてくれる人たちと一緒に考えて任せる事が出来るって事実がどれだけ頼もしい事か。この感覚を味わえるなら、この先に待つだろう色々なトラブルにも楽しみながら挑めるかもしれないわね。
今夜にもあるかもしれない襲撃を心待ちにしている自分に苦笑を漏らしつつ、どこか心軽く午後の商談に挑む私がいたわ。
……この場にアイクがいたら、レイモンドが滞在しているだろう子爵邸にこちらから乗り込んでいきそうよね。
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