作戦会議 1話

ローズ視点


 夕食の時間に呼び出されるまで、時間を忘れてネットワークの確認に集中してしまったわ。他の二人も似たような状態だったみたいで、4時間くらいあっという間だった。今日はこうなる事は想定済みだったから、メインの食材の調理も皆にお願いしておいて正解だったわね。



 食後、予定通りマリアとエリスが私の部屋に集まって情報のすり合わせを始める。アイクが屋敷のリフォームを頑張ってくれている間、私たちも何もしなかったわけではない。土地勘が無く、周囲に面識のあるものが一切いない中で、よそ者が多く入り込んでいる港町を少数の女性で外出させるわけにもいかないから、やれることと言ったら限られている。




 精々が侍女数人を連れてご近所への挨拶やら、宿暮らしをしていた時に宿の女将を通じて紹介されたフットワークの軽い出入りの商人を何人か近所の人にお願いして屋敷まで来てもらったりして、町衆との伝手をつくったり位だろうか。




 大きな屋敷に15人も引っ越ししてきて、食料も何も町から買わないとなれば、周囲からはおかしな目で見られるし、人の出入りが全くなければそれなりに悪い噂が立ちかねない。





 アイクが心配性なのは兎も角、お嬢様然とした私たちや侍女が外を護衛もなしに出歩くのは不用心だというのはわかる話だし。御者もうら若い乙女だという事は確かなのだから。



 元々こうなる事を期待して編成された人員だから仕方ないと言ったらそれまでなのだけれど不便なことこの上ない。



 まぁ、そのうちに周囲へ認知され知り合いが増えてコミュニティーに受け入れられるようになれば、侍女が何人かで買い物に出ても町衆の存在が安全を担保してくれるようになると思うけど。





「それで、どうだった?私の方は最初に予想した通りだったけど。」




「こっちも駄目でしたね。制限された情報にはこの世界のこの先の情報も含まれているようですね。




 ローズさんがアイク様から手に入れた情報から判断するなら、この世界にアイク様よりも先にカトラリーとして転生して、私たちの時代のずっと先までをこの世界で過ごした者がいる可能性は高いですわ。




 それならばこの世界の未来の情報を手に入れられる可能性もあるかと思いましたけど、私たちがふれる事のできる情報は、現時点での情報まででそこから先の未来の情報に触れる事は出来ませんでした。」





 「アイクさんがこの世界に転生したのと、別のカトラリーが転生したのでは世界に与える影響は違うはずだから、参考程度にしかならないけどね。



 それでも各国のこれからの動きや、自然災害の有無を知る事が出来るとしたら、かなり大きなアドバンテージだったんだけどね。



 ただ最初の予想通り、現時点での情報を取得する事が出来るだけでも、けっこうずるいわよね。これって。」





 「まぁ、マリアの言う通り、参考程度にしか役には立たないけどね。私が確認できたのは6通りの現時点での情報だけど、同じカトラリーでもその行動でかなり歴史が変わるものなのね。



 6通り中3つの歴史で現在の時間でランシス王国が滅んでいたわ。



 正直、これじゃ情報としては全く役に立たないわね。



 辛うじて使えるのは、地形情報と産業関係の情報。後は大陸の反対側の情勢はそこそこ正確かもしれない。



 閲覧した情報がこの周囲に転生したカトラリーの情報だからかしらね。」





「私が確認できた情報は5つ中ランシス王国が滅んだ情報は1つだけ。基本的に別大陸に転生した人の情報を集めたから。



ただ、そのせいか当然、この周辺の情報は少ないけどね。



 一応、衛星軌道上に情報取集の為の調査艦を展開した人のデーターにアクセスできたけど、やっぱり簡単な地形情報と資源、産業関係がメインで私たちが必要としている各国の主要人物の詳細なデーターは無かったわね。」





 おそらく、アイクは私たちがこんな風にネットワークを活用するとは思っていなかったと思う。アイク自身はこの世界の未来情報を簡単に手に入れる事が出来るはずだけど、彼の行動を見ているとそれを望んでいるとは思えない。



 現状、私たちに情報制限をかけていることからもそれはわかるわね。



 当然、彼が想定した通りのネットショッピングやネットワークでの商取引はするつもりだし、個人的に必要な品のチェックも早めにしておきたい。




 女性なら、だれでも必要になる色々な物も今まではアイクにお願いして手に入れていたのだから、出来ればこれからは自分で何とかしたい。正直気恥ずかしいし。



 それに侍女や御者の皆にも使わせてあげたいって気持ちもある。今まで気恥ずかしくて自分たちの分しか頼めなかったという問題もあるけど、彼女たちもそんなものがあるとは思いもしないだろうから、少しの間内緒にさせてもらっていたのよ。




 その……まぁ、デリケートな問題だしね。




 その辺、アイクの気がまわらないのは、まぁ男の人だし?仕方ない部分もあるし。それに気がまわってアイクの方から聞いてきたり無言で用品を渡してきたら、正直引くしね。



 理不尽だとは思うけど、こればっかりは仕方ないわよね。






 その件は置いておいても、私たちはまず真っ先にこの世界の情報を可能な限り手に入れる必要があった。



 それはアイクが英雄になる為にこれからどう動くべきか、その行動の指針になるからというのが一つ。



 私たちが始める予定の商売に情報が必要だという点が一つ。そしてもう一つがこの先戦争や災害が起きるかどうかの情報を押さえておきたかった。




 今回の王都での一件が周辺国にどういう影響を与えるか。私は祖国には、正直それほど愛着はないけど、祖父、祖母、そして両親と暮らした公爵領に関してはそれなりに愛着があるし、守れるものなら守りたい。




 当然エリスやマリアにも各々思う所があるでしょうし、自分たちのせいで友人知人が不幸になるのはあまり気分の良いものではないしね。




 出来る範囲で良い子ではいたいと思うのが人の常だと思う。




 メインは未来の旦那様の夢をかなえる為に私たちでできる事を精いっぱい頑張ろう、という何回目かの女子会の際に盛り上がった内容だったりするんだけどね。




 後、ちょっと怖い話、気にしても仕方ないから考えないようにしているけど、私たちの前からアイクが消えてしまう可能性も、全くないわけじゃない。




 それはアイクが行方をくらまして逃げるといった意味もあるけど、アイクが教えてくれた神の端末の性質に関わってくる問題ね。




 同じ世界に神の端末が2人以上存在することは殆どない。もし今の状態でアイク以外の神様の端末がこの世界にやってきたら、世界はアイクが存在する世界と新しい端末がやってきてアイクが消えてしまう世界の二つに分かれてしまうらしい。




 その時今の私は元の世界と新しい世界、二つに分かれて存在することになり、新しい世界での私はアイクを失ってしまう事になる。それも突然に。




 考えても仕方のない話だし、今の私がそうなるとどういう感じになるのか、想像もつかないから皆も考えないようにしているけど、その為もあってか結構焦って情報の収集にも力が入っているのかもしれない。




 アイクが消えたらこの力もなくなると考えた方が自然だから。




 だから、多分このミーティングが終わって各自自室に戻ったら、皆可能な限り必要な物資の確保に走ると思う。当然商売に必要な資金を残しておくとは思うけど。




 マリアは兎も角エリスは心配だから、後でくぎを刺しておかなくちゃね。





 ネットワーク上でそのあたりの情報を調べようとしたんだけど制限がかけられているみたいで、詳しい情報は手に入らなかった。




 自分がいつ死ぬんだろう、死んだらどうなるんだろうと考えるのと同じ、今考えても仕方のない事。だけど頭から離れない。




 ただ慰めというか安心できる情報がいくつかあって、神様の端末の中には自分がかかわった世界に他の端末が干渉することを嫌って世界自体を自分の力で覆ってしまって干渉できなくするすごい力を持った人もいるらしいという情報と、基本的には他の端末が存在している世界に干渉することを好む端末はほとんどいないという事かな。




 その内アイクが力を持ったらこの世界を守ってくれるかもしれないし、そもそもちょっかいをかけてくる人もいないかもしれない。




 少しは安心できるよね?……よね?



 私の心の声に答えてくれる人は誰も居なかった。

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