英雄へと至る道へ まずは足元を見てみよう 4話



 王家の腹積もりはわかっていて私が抗議せずに王家の主張通りに受け入れた理由は2つ。



 一つは各地の守備兵や騎士隊、更には精鋭中の精鋭、近衛騎士をゴミ屑のように蹴散らしたエイリークの側に仕える事を望む騎士も兵もいなかったという事。



 もう一つは私自身、このハーレム集団に王国の意を受けた男性を混ぜたくなかったという点。下手に腕力に自信があって、その上脳味噌の足りない獅子身中の虫をこの集団に混ぜたら、侍女や御者だけでなく力ずくで私たちに手を出そうと考える愚か者が出ないとも限らない。





 ただ、その点を考えると、ルーフェスで護衛を雇うにしても、同じことが言えるんだよね。余程信頼のおける人員を確保するか、後は私たち、もしくはアイクに高い忠誠心をもてる人物を雇えるか、そのあたりがカギになるかな。




 他に方法がないわけではない。アイクが自分の中のルールを崩せば何とでもなるのだ。




 例えば大気圏内を航行可能な戦闘艦やヨット、世界観を大切にするなら飛行船や飛空艇の様なものをネットワークから購入すれば女たちを守って、尚且つ世界中を気軽に旅をすることも可能だろう。



 ただ、アイクは、ネットワークを利用する際に、非等価交換による取引は余程の事でもない限り出来るだけ利用しない方針であることを私に告げている。



 後は過度に世界観を壊したくないとも言っていたけど、それを言うのならロケットランチャーは良いのかしら。やっぱり場当たり的な行動が多いわよね。




 彼曰く、ただでさえ人生ヌルゲー状態なのに、これ以上チート導入したら詰まらないだろう、だってさ。




 ただ、その言葉を発した彼の顔は、人生ヌルゲー状態でハッピーな人生送っている調子に乗ったパリピーという風ではなくて、どちらかというと人生の目標を見失って迷子になった子供の様に感じた。



 好意フィルターを通して見ているせいかもしれないけど、彼がそれを望まないのであれば、私たちもそれを受け入れるでしょう。



 現に、その解決策を口にする者は誰もいない。




 「いい加減に真面目に検討しましょう。このままじゃいつまでたっても終わらないから。



 アイクが提案しているPCの設置が終わるまでは、基本的には今のようにアイクにネットワークから物資を都合してもらって、購入した家屋から誰も外に出ないで対応するしかないわよね。



 ネットワークが使えるようになったら、生活に必要な物品は各々のPCで購入して、護衛の当てが出来るまでは外出を控える。




 この世界の商品を仕入れてネットワークで売りさばくには当然、仕入れ先を確保しなくてはいけないし、それにはルーフェスの商人に渡りをつけなきゃいけないけど、そのあたりの事はアイクにお願いするか同道してもらって自分たちで交渉する形をとるしかないわね。




 後は定期的に商人に家まで来てもらって仕入れと販売をすれば問題無し。どういう商品を扱うかは実際にPCを操作してみないと何とも言えないわよね。



 これが現実的な対応だと思うけど。」




 「うん、わかってた。やっぱり私たちが頭使う必要なかったよね。」




 「ローズさんがズバッと身も蓋もなく答えを出してしまうでしょうから、私たちは脇に逸れて話を混ぜっ返していたのに、予想通りに一刀両断にされてしまいましたね。」




 あんた達がまともに話し合いに参加しないからじゃない。そういえば王家との話し合いの席でも、マリアは殆ど喋らなかったけど、そんなことを思っていたのかしら。




 「まぁ、私なりの意見と言えばこれくらいですわね。ルーフェスで購入する家は私たちで資金を出して選びたいの。



 将来、旦那様といずれ生まれる子供たちを育てる家になるかもしれないんですもの。皆さん、自分なりの夢とか希望がおありの事と思いますし。




 庭とか遊具とかこだわりたいものもあると思うんです。最近のアイク様の様子から、私たちよりも先に御者さんの方に手をお出しになる可能性もなくはありませんから、最大で今いる人数+αくらいのお部屋も必要になるかもしれませんし。



 そうなるとかなり大きなお屋敷になりますわよね。大きな出費になりますから、あんまりアイク様に負担をおかけするのも本意ではありませんし。



 私たちの持参金はかなりの額になりますから、そこから費えを出せますし。」




 エリス、結構よく見てるわよね。今のところ彼が自分から近寄って話しかける女性って御者の4人だけなのよね。ちょっと悔しいけど、今はそういう風に誘導しているわけだし、仕方ないかな。




 「私の分の持参金は公爵家が出してくれているから、肩身が狭いけどね。」




 「そこは気にしなくていいわよ。私がマリアの人生を強引に変えちゃった面もあるし、肩身が狭いならこれから稼げばいいじゃない。」




 そんな風に慰めたのだけど、マリアが不意に爆弾を投げ込んでくる。




 「それはそうなんだけどね。なんかさ、ネットワークでビジネスって単語がつながるとある意味如何わしいワードになるわよね。



 騙されて商品抱えて破産するイメージがちらつくんだけど。」




 「あはははは、そういえば私一度騙された事あるんですのよ。当時付き合っていた彼氏が、友人に誘われて、私も一緒にどうだって言われて。あれが切欠で人生狂いましたね。



 今ではいい思い出ですけど。」




 すかさずエリスが導火線に火をつけて爆発させてしまった。




 「いや、聞き捨てできないから、なに。そんなことがあったの?え、エリスに商取引参加させるの怖いんだけど。」




 「エリス、私たちが同席しない限り一人で商人に会っちゃだめよ。」




 「酷いですね。もう何十年も昔の話だし、私も痛い目にあって色々と勉強したんですよ。ネットワークビジネスにマルチ商法、FX取引、先物取引、未公開株。あとはお祖母ちゃんになってからですけど、催眠商法とか押し買いとかでしたっけ。



 色々と経験してきていますし、ちゃんと注意は受けましたから、安心してください。」





 「いや、普通に安心できないんだけど。何それ、騙されたの一度じゃないじゃない、軒並み引っかかっているじゃん。」




 「この手の詐欺って引っかかる人は際限なく引っかかっていくって聞いたことあるけど。」




 「でも一応FX取引とか先物は詐欺じゃなくない?」




 「一応、そうだけどさ。身を持ち崩す切欠になる事が多い取引だし、先物に至っては悪質業者に引っかかると根こそぎやられる事もあるから。」




 「悪徳業者だったのかしら。確か取引が失敗してしばらくしたら私がお世話になっていた取引会社が摘発を受けたってニュースが流れましたけど。」




 「駄目だよね、これ。絶対に商人と会わせちゃいけないタイプだよね。エリスって。」




 女三人寄れば姦しい。その言葉を証明するかのように昼食の準備が出来たという知らせが来るまで、延々としゃべり続けていたわ。




 結局私もいつの間にか本筋からそれておしゃべりに夢中になって、ルーフェスで家をどうするかの話し合いは終わらなかったけど、アイクの意見も聞かなきゃいけない事ではあるし、もしかしたらルーフェスで落ち着かずに、別の国に移動する可能性もあるわけだから、あわてて高価なお屋敷を購入する必要もないかもしれないしね。




 自分に言い訳を済ませてからアイクに昼食のお誘いを掛けに行く。今度はエリスも誘って三人でね。




 なんとなく、この三人でならこの先楽しくやっていける気がしてきた。





 トラブルは絶えないでしょうけど……。

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