午前ー零時ー雨の中
門前払 勝無
第1話
午前ー零時ー雨の中①
昨日の約束の場所へ今日も行ったー。
やはりカズは居なかった。
翌日、学校の下駄箱でカズと擦れ違ったがカズは俺を無視して通りすぎていった。まるで俺の存在に気付いていないようだった。
その時だったーあの“冷たい風”が俺の中に吹いたのは…。
誰にも依存はしていなかったがカズはよく俺に話し掛けてきた。初め俺は適当に話を合わせていたがなんとなくよく会話をするようになった。それからはカズの周りのクラスメイトも話をするようになって行ったがカズの無視から始まりいつしか俺は孤立していった。元々孤立していたからショックは大きくなかった。なぜ急に無視が始まったのかも解らないが知る気にもならなかった。
「靴が…無い」
俺は“いじめ”の始まりを感じた。
モノクロの奴等が俺を置いて帰って行く…。
しばらく様子を見るか…即、宣戦布告を仕掛けるか…。
不思議なものでコイツらの命の価値を見出だせない。この中の誰かが死んだら一時の話題で終わるであろう。よくニュースでやってる“いじめによる自殺”の話題である。
しかし俺は死ぬ気は無い…ただ殺す気はある。誰かのためとは考えていないが、虐められたらそいらを殺せばいい。防衛手段として自分にとっての障害は排除すればいい。このイジメが発覚したところで奴等は捌かれないし、イジメは必然性な物なのである。恐らく奴等に俺を虐める理由は無いだろう。
俺は上履きで帰りながら思い付いた。
カズには2つ年下の妹が居る。
その妹を血祭りに上げようー。
俺はカズの妹を調べた。何度か会ったことがあるから顔と組は知っていた。それから毎日妹を尾行して行動を調べた。
カズの妹は不良グループとつるんでいて塾に行く振りをしてゲームセンターへ入り浸っていた。
教室へ入ると黒板の隅に“黒木礼次永久欠席”と書いてあった。具体的ないじめになってきたようだ。
「黒木!なに学校きてんだよ!」
カズの金魚の糞の清水が言った。その隣でカズが笑っている。その他のクラスメイト達も見て見ぬふりをしている。
俺は無視して席へ座った。
俺は学校から帰りゲームセンターへ通った。妹を血祭りに挙げるためのタクティクスを考えながら…。
その日は不良グループが居なかった。
俺は適当にゲームをしていた。
「最近、いつも来てますね」
カズの妹に話しかけられた。
「あ、暇だから…」
「今日は友達が居なくて…」
「そうなんだ…」
「一緒に遊びません?」
「え、あ、あぁいいよ」
「やった!」
チャンスが来た。
しかしまだ作戦を考えていなかった。どこかに連れ出して殺すか…しばらく泳がすか…。
「マック行きません?」
「腹減ってるの?」
「おこづかいもらってないから…これ持っていってポテトもらうの」
妹の手にはダイエーのレシートがあった。
「それでポテトもらえるの?」
妹はうなづいた。
ちと、捕捉というか知ってる人は知ってると思う。昔のマックはスーパーに併設されてたりしていた。スーパーの1000円以上のレシートをマックに持って行くとポテトsを貰えたのである。
俺は妹にマックでダブルバーガーセットを奢った。
見慣れた街をいつもとは違う角度で見ている。殺したい奴の身内とマックで飯を食べている。
妹はいろんな話をしてきた。学校の事、家の事、塾の事、不良グループの事…。
「あたし…どこに行ってもイジメられるの…家でも学校でも塾でも…だから、ゲーセンの仲間と遊んで時間を潰してるの…」
「イジメられてるのか…」
「…ほんとは…死にたい」
「え」
「でも、死んだらニュースになって…パッてなってスッてなるでしょ?それが嫌なの…だから、死なないの…」
妹は手首を擦っている。
俺はチラリと見た。
妹は何も言わずにリストカットの傷痕を見せてきた。薄く死ぬ勇気の無い傷痕はまだ希望を持って誰かに自分の存在を知っていて欲しいと思えた。
「自殺より殺す方が面白そうじゃないか?」
「殺人?」
「うん…試してみるか?」
妹は怯えた表情をしながら俺を見ている。
ダイエーのマックを出てエレベーターを待っていると同じクラスの奴がトイレの方へ歩いていくのを見つけた。
俺はポッケの中のナイフを握り締めてから妹の手を握りトイレへ向かった。
男子トイレの小便器にいるクラスメイトの太股へいつも持ち歩いているナイフを突き刺した。ナイフは鋭く太股へサクッと入った。
クラスメイトも妹も何が起きているのか理解できていなかった。
「黒木?」
俺はズボンとパンツを下ろしたままの状態で個室へと連れ込んだ。妹も一緒に入った。
「太股いてぇ!」
「ナイフ刺したからね」
「なんでだよ」
「殺すためだよ」
「俺がなにしたんだよ」
「観覧者だからだよ」
「え?なにそれ」
「イジメを見てみぬふりも同罪だ」
「礼次くんイジメられてるの?」
「そうだよ」
「こいつに?」
「こいつら…にだよ」
妹はクラスメイトの顔に蹴りを入れた。
俺も蹴りを入れた。足を手で避けようとしたらナイフで切ってやった。
だんだんと血が滴り落ちてきて「やめてください!死んじゃいます!」と泣き叫んでいる。
俺も妹も止めなかった。
震えながら泣きじゃくっている奴を見ていたら少し満足した。コイツはこの時に弱者である。弱者のまま死んで行くー。
妹は俺を見て笑っている。
俺はチャリンコで妹を家の側まで送ってあげた。
「礼次くん、ありがとう。楽しかった…」
「…」
「またいじめっ子をやっつけるの?」
「まだ一人目だからね…まだまだいるよ」
「あたしも一緒にやっつけてもいい?」
「いいよ」
「じゃ、明日もやっつけようよ」
「そうだね」
妹は俺に抱きいつて頬にキスをしてきた。
俺は真っ赤になった。
「また明日ね!」
妹は走って家に入っていった…。
なんだか…身体の中の血がやたらと早く動いている。
助けを求めながら泣きじゃくる奴は弱者であった。いじめられっ子が弱者だと思っていたが違っていた。攻撃するものと攻撃を受けるものそれに屈する者が弱者なのである。それを蚊帳の外から見ている者は攻撃をする者と同じである。俺と妹は弱者からの革命家である。一見、強者に見える集団に対してのゲリラ作戦である。
二人目は女だった。
夕方の土手に部活帰りを狙った。妹は父親の甲子園出場記念の金属バットを家から持ってきていた。
女を土手から河川へ突き落としてからバットで足をひたすらに殴った。女は恐怖のあまり声さえ出さずに我慢している。
「ゼロツー!こいつつまらないね…」
妹は俺を礼次だからゼロツーと呼び始めた。
「シスター!俺達は楽しいからやってるんじゃない!悪を倒しているんだよ」
「ごめん!ゼロツー!そうだった!」
「シスター!でも、楽しむことも必要だ!…こいつはもういいだろう」
「だね!」
俺達は女の脚を徹底的にバットで殴り付けて動けなくなった女を置き去りにしてチャリンコに乗った。
コンビニでカップヌードルを買って街を見下ろせる公園で食べた。
「なんかさぁ」
シスターが夕焼けを眺めながら言った。
「ん?」
「あたしね…暴力は悪いことだと思ってたから…仕返しってちっとも思ってなかった」
「そうなの?優しいね」
シスターははにかんだ。
「でも、仕返しは必要だと思ってる。あんな弱い奴等にイジメられてたなんて…あたしってチョー弱いじゃん…でも、ゼロツーが居てくれたお掛けで目覚められた!」
「…そっか」
「ありがとう」
「…あ、そうだ!もっとさかっこよく殺ろうぜ!」
「え?」
「明日、俺のコレクションを持ってくるから制服で来いよ!」
「わかった~なんだろ⁉」
俺達はカップヌードルのゴミを投げ捨てた。
翌日ー。
「かっこいいわ!」
俺はシスターのビジュアルに満足している。
「見えないから解らないよ」
「スゲーかっこいいよ」
「写メ撮って!」
「いいよ!なんかポーズしてみて!」
セイラー服のタイガーマスクが金属バットを持ってピースしている。
「俺も撮って!」
ニルバーナのTシャツのレザーフェイス…腰道具を装備してショックレスハンマーと腰袋に因子ロックとガムテープを入れている。
「かっこいいね!」
シスターは喜んでいる。
「ヒーローみたいだね!」
「二人で撮ろうよ!」
「良いよ!」
二人で自撮りした。
不の渦の中から若きヒーローは誕生した。
つづくー。
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