第21回ナガグボール全国大会

武海 進

第21回ナガグボール全国大会

「そんな!今年は大会がないんですか!」


 部室に悲痛な叫びが響き渡る。


「仕方がないだろう。どこもスポンサーについてくれないのだからやりようがない」


「でも今年こそはって、優勝目指してみんな頑張ってたんですよ!」


 教師は部室の中を見渡してため息を吐く。


「あのなあ永井。みんなと言ってもナガグボール部の部員はお前を入れて3人しかおらんだろうが。それだけナガボールはマイナー競技だというのはお前も理解してるんじゃないかのか」


 部の顧問に言われ、ナグボール部部長、永井は反論出来なかった。そもそもナガグボールとは、靴飛ばしの要領で飛ばした長靴にボールを投げ入れ、その長靴と飛ばした本人との距離が離れているほど特典が高いという競技だ。


 ただ、顧問の言う通り超が付く程のマイナー競技であり、全国でもナガグボール部がある高校はこの御務高校を含めて10校程度だ。


 そんな訳で、大会自体も年に一度の全国大会しかないのだが、本来ならば第21回目を迎えるはずだった大会が遂に、スポンサー企業が下りて無くなってしまったのだ。

 

 スポンサーが下りた理由は、代替わりだった。前社長はえらくナガグボールを気に入っており、スポンサーを続けてきたのだが、新社長である息子は超マイナー競技の大会を開く金などムダ金だと言い、スポンサーを降りることを決めたのだ。


「もう一つ伝えることがある。今後大会が開かれることも無い上に部員も3年であるお前達しかいないこの部は今月で廃部だ」


 不幸の追い打ちに永井は膝から崩れ落ちた。


 去年の大会では惜しくも優勝を逃し、2位という結果だった。今年はその雪辱を晴らす為に永井達3人は血の滲むような特訓を積んできたのだ。


 それなのに、大会が無いどころか先輩達から受け継いできた部自体も無くなるとは彼らにすればあまりにも残酷すぎる事実だ。


「お前たちの気持ちは分からんでもないが、こればかりはどうしようもない。それにお前達、皆大学を受けるんだったろ。勉強する時間が増えて良かったじゃないか」


 教師はそう言い残すと部室から出ていった。しばらく放心状態だった3人は正気に戻ると話し合った。最初は全てを受け入れ大人しく受験勉強に専念する方向で話し合いが終わりかけたのだが、彼らの情熱はそう簡単に消せるはずが無かった。


 諦めきれない3人はどうにか大会を開けないかと考えた。そこで思いついたのが今までスポンサーを務めていた会社の新社長に直談判をするという作戦だ。


 早速実行に移した3人はものの見事に玉砕した。会社に行ったまでは良かったのだが、社長に会う事が出来ないどころか、受付で社長に会いたいとごね続けたせいで高校に連絡され、迎えに来た教師に思い切り怒られた。


 その後も3人は他の企業にスポンサーを頼みに行ったり、OBに協力を呼び掛けたりと色々な手で大会を開こうとしたが上手くいかず、結局大会は開かれることなく、ナグボール部は廃部になってしまった。


「安岡、小谷、すまない。あれだけ練習したのにそれを無駄にしてしまって」


「部長が謝る事じゃねえよ。仕方ない事だって」


「そうですよ。それに無駄なんかじゃありませんよ。みんなで練習した毎日、とても楽しかったですから」


 部員たちの言葉に感極まった永井は、彼らを抱きしめて泣いた。そして彼は誓ったのだ。いつか必ず全国大会を復活させると。


 彼らが高校を卒業してから10年の月日が経った。かつてナガグボールの聖地と言われた陸上競技場に、再び全国から細々と生き残っていたナガグボール部が集結していた。


「いよいよだな、部長」


「安岡君、部長じゃなくて社長と呼んでください。部長と呼びたくなる気持ちは分かりますが」


 競技場の来賓席にはかつての御務高校ナガグボール部の三人が座っていた。彼らは大学卒業後3人で起業し、見事成功を収めてナガグボール全国大会を復活させたのだ。


「それではスポンサー企業であるナガグコーポレーションの社長である永井様より開会の御言葉を頂きたいと思います」


 司会者に促され、永井がマイクの前に立つ。


「皆さん、おはようございます。今日は日頃の練習の成果を存分に発揮すると共に、ナガグボールを心から楽しんでください」


 お決まりの挨拶を済ませた永井はさらに言葉を紡ぐ。


「私もかつて皆さんと同じくナガグボールに熱中していました。しかし私が出るはずだった第21回大会は開かれることなく、部も無くなってしまい、悔しい思いをしました。ですが今日、こうして全国大会を開くことが出来てかつての無念を晴らすことが出来たような気がして清々しい気分です。少し話が長くなってしまいましたのでつまらない話はここまでにしますね」


 声が震え、目には涙を浮かべる永井が、声高らかに宣言した。


「第21回ナガグボール全国大会の開催をここに宣言します」


 全国から集まったナガグボールプレイヤー達は歓声を上げ、安岡と小谷も立場を忘れて完成を上げていた。

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第21回ナガグボール全国大会 武海 進 @shin_takeumi

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