第16話 ば、ばれた

僕一人になったと思っていたら、乳母のサラが部屋の隅に立っていた。


びくっ


サラがいたのに気付かなかった・・・

びっくりするからもう少し気配を出してくれ。

ん?ほんとにいつ来た?どこから見られてた?


「坊ちゃま、あちらの瓶は奥様にお渡ししてもよかったんですか?」


ひっ!!もしかして、僕が瓶を出したところ見てた?

どどどど、どうしよう。

ここはやっぱり笑ってごまかすか。

にこっ


「あーうー」

「ちなみに、あの瓶はどちらから?」


ひぇ。ごまかされなかった。


「まさか、魔法が使えないはずのお坊ちゃまがアポーツ(引き寄せ魔法)を?」


どっちにしろ喋れないんだから、説明もなにもできなかったんだ。僕。


「んーん」


軽く首を振って取り合えず否定してみる。


「ですよね。って、え?坊ちゃま、わたくしの言っていることがお分かりで?」

「うー」


頷いて肯定した。まあ、良いだろバラしても。サラなら敵対することもないだろうし。


「は・・・」


流石に驚いて言葉を失ったみたいで固まってる。おーい。生きてるか?


「さーあ」

「今、サラとお呼びで?」

「うー」


もう一度頷いて、そうだよって感じを出してみる。


「つくづく、こちらの事が分かっていらっしゃるのではと思っておりましたが、まさか本当に理解されているとは・・・」


ポーションの事はもう頭から吹っ飛んだかな?よし。


まあ、立ってるのもなんだからこっちに座ってというつもりで、僕の隣のスペースをとんとんとしてみた。

というか、お腹が空いたのでおっぱいを下さい。


「さーあ」

「ハイ。なんでしょう?」


近寄ってきたので、自分のお腹を2回たたいておっぱいを飲むふりをした。

それだけで、理解してくれたらしく何とか空腹は免れた。

そろそろ月齢的に離乳食を始めてもよさそうだけど、まだ用意される気配がない。

歩いて喋れるようになるまでは先が長そうだ。


そのまま一寝入りしてしまったらしい。外を見ると、太陽が中天を過ぎた頃の様だった。

またお腹が空いてきてしまった。

誰もいない。

ウインドウを出して、箱庭を確認する。

鉱山を開放したおかげで、鉱石類が増えていた。鉄と銀、水晶に石英。

石英があるなら、自分で哺乳瓶でも作れそうだな。ゴムがあれば完璧だけど、無いものはしょうがない。


―ゴムは次のレベルで開放されます。マスターそろそろ哺乳瓶ではなく、細めのストローで代用してはいかがでしょうか?哺乳瓶ではこの先あまり活用方法がありませんから。


む。でも赤ちゃんがストローを使うのにはコツがいるんだぞ。


―マスターには大人だった時の記憶がございますから、大丈夫でしょう。


じゃあ、箱庭に入ってコップを作るか。錬金で何とかなるだろ。


―そういえば、錬金や調合でしたら箱庭に入らなくてもウインドウから操作できますよ。


はい?またそんな重大な事実を後出しにして。

つまり、ここから操作ができるのか。


―そうです。


じゃあ、やってみるか。


ウインドウを操作して、石英や石灰を錬金で混ぜ合わせていく。

錬金を使うと勝手に熱が通ったかのようにぐにゃぐにゃ混ざっていく。

透明度の高いガラス板が一枚できたので、そこからコップに必要な分だけ分ける。

もう一度ゆっくり魔力を通して錬金をかけていくと小さいサイズのコップが出来上がった。

あとは麦藁をストローにすればいっか。



お腹が空いた。サラはどうしたんだろう。

いっそ、デラウェア丸ごと持ってきて頑張って食べるか。

よし、そうと決まれば。


ポトッ


ベッドの上にはブドウが1房。

僕が取って食べやすいサイズだからデラウェアの種だったのか?

種は確かに困るけど、このサイズが有難い。ベッドが汚れるのはしょうがないだろ。僕を放置したサラ達がいけないんだ。

手で1粒ずつ取って、口に入れてもぐもぐしたらペッと出す。

汚いって言うな。死活問題なんだ。歯が無いぶん、もぐもぐすれば果汁だけが喉を通っていく。

種は飲み込まないようにしないと危ない。


にしても、おいしいなぁ。僕の畑で穫れた野菜も食べるのが楽しみになるくらい甘味が強くて、旨味も凝縮されてるような気がする。早く離乳食を進めてもらわなければ。


僕がゆっくりと食べ進めて1/4ほど食べ終わった時に、部屋の扉が開いた。


ガチャ


「申し訳ございません、お坊ちゃま。少々立て込んでおりまして遅くなってしまいまし・・・・きゃぁぁぁぁぁぁ!」



ベッドに飛び散ったブドウの果汁(紫)

口や服についた果汁

見ようによっては惨殺された現場


あ、やべ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る