THEMISと紫電

「テミス! 飛ばすぞ!」

 戯言遣いの偽物さんが叫ぶ。彼のアーマー、腕の部分には確かに「THEMIS」と書かれている。アーマーの名前? 中にAIでも入っているのだろうか。

「連発する! インパクト・ブラスト最大出力!」


 自身の偽物コピーを突き飛ばした偽物さんが連続して掌から衝撃波を放つ。さっき僕が吹き飛ばされたのはあれだ。やっぱり衝撃波を放つ装置があるんだ。


 偽物コピーも小刻みに体を動かして衝撃波を回避する。重装備の割にフットワークが軽い。敵はいきなり飛び上がると……あのインパクト・ブラストって飛行にも使えるんだ……右手を大きく振りかぶり偽物さんに殴りかかってきた。


 ここに来て普通のパンチ……? あまりの単純さに嫌な予感がする。すると偽物さんも何かを感じ取ったのだろう。正面に向かってインパクト・ブラストを照射すると反動で大きく後退した。直後、偽物コピーが拳から着地した。


 バラりと崩れる、床の素材。

 細かいキューブ状。何だかああいうゲームを見たことがある。角砂糖の山が崩れるような見た目だった。本能的に分かる。あれに触れたら、まずい。


「分解能力?」

 僕が叫ぶと、偽物さんが答えた。

「『詞衿』の能力だ! 俺の作品の敵キャラ!」

 そうだ。偽物コピーは一度に複数のキャラクターの能力を行使してくるんだ。主人公を使いながら敵役を使うこともできる。


「あの手に触れたらまずいなぁ? テミス」

 内部に搭載された人工知能と会話しているのだろう。すると急に、偽物さんの動きが俊敏になり始めた。偽物コピーの繰り出してくる連続パンチを、体を捻りステップを踏み、華麗にかわしている。こっちもアーマーを着ているとは思えない身のこなし方だ。


「すごい……」

 僕がそうつぶやくと、いつの間にか僕の作った壁の後ろに来ていたスキマさんが分析した。

偽物コピーは重力攻撃も仕掛けてます。押しつぶして動けなくなったところを分解しようとしている。でも戯言遣いの偽物は、重力操作を重力操作で打ち消して、しかもあのフットワークでかわしてる。多分、人工知能テミスに分析させた上での動きでしょうが」


偽物コピー偽物コピーにぶつけるんだよなぁ?」

 ひらりひらりと身をかわしながら偽物さんが叫ぶ。

「次の一手で決めるぜ! 行くぞ!」

 インパクト・ブラストのキックで大きく上に飛び上がった偽物さんはいきなり背中に手を伸ばした。その先にあったものは……刀? 


「妖刀、『紫電』」

 輝く刀身。振り抜かれる一閃。

 拳を突き出して突撃してきた偽物コピーの腕を刃が捉えた。やったか? と思ったが、刀は敵をすり抜けて大きく振り下ろされた。切って……切ってない? 

 偽物コピーの腕が軽い音を立てて偽物さんに当たる。しかし分解されていない。偽物コピーが驚いたように拳を引く。


「てめー、俺を複製コピーしといて忘れてるようだが紫電は『能力が切れる』刀なんだよ。詞衿の分解能力を切って無効化してやったぜ」


 即座に偽物さんが振り抜いた右手で偽物コピーの横っ面を叩く。同時にインパクト・ブラストも照射していたのだろう。ただのビンタとは思えない勢いで偽物コピーが横に吹っ飛ばされた。転がった先には……ヒサ姉が潰したもう一体の偽物コピー! 


「ごり押すぜ!」

 偽物さんが連続でインパクト・ブラストを照射する。祭囃子のような腹の底に響くビートで放たれたショックが偽物コピー偽物コピーの方へ追いやる。ビンタで完全に体勢が崩れていた偽物コピーは為すすべなく崩壊しかけた偽物コピーの方へ。そして、そのまま。


 スライムを壁に思いっきりぶつけたような飛沫音があって。

 偽物コピー偽物コピーが衝突した。その瞬間、何も聞こえなかったはずなのに断末魔のような一拍があって、すぐに二つの偽物コピーが消滅した。後には何も残っていなかった。


「やった……!」

 僕は思わずガッツポーズをする。

「やっぱり! 偽物コピー偽物コピーは重なると消滅する! 複製コピーされることは本物オリジナルの証明になるんだ!」


「つまり、あれか」

 残った偽物さんが刀を背中にしまいながらつぶやく。

「俺は本物オリジナルだって証明されたわけか?」

 その一言を合図にしたように、全員が武装を解く。銃を下ろしたスキマさんが応じた。

「一旦は信じてもよさそうです。複製コピーの攻略法が分かったことは収穫ですし、何より……」


「ちありや偽物コピー説わね」

 綺嬋さんが銃をホルスターに収めながらつぶやく。

「一応筋は通るわね。チームの分断を言い出したのもちありやわね。私たちをバラバラにして少しずつ始末していこうとしていたのなら納得できるわね」


「しかし私はちありやさんの指示で皆さんと合流しましたし……」

 スキマさんが解せない、という風に首を振る。

「目的が見えません。ちありや偽物コピー説はところどころ無理があります」

「埋まっていないピースがあるだけ、とはとれないですか?」

 のえるさんが静かに告げる。

「『分からない』ことと『筋が通らない』ことは別です。不透明だった部分が分かった結果、筋が通ることもある。一旦、そのちありや偽物コピー説を念頭において、今後のことについて話し合った方が……」


 黙考していたすずめさんが口を開いた。

「賛成。でも当初の目的は果たすべきだと思う。シェルターがあってそこに『イビルスター』の仲間がいるんでしょ? この情報はちありやさんからも綺嬋さんからも得られている。『どっちも偽物だった』、つまり『綺嬋さんが偽物コピーである』場合を除きこの情報がフェイクということはない」


 全員の視線が綺嬋さんに注がれる。しかし僕は証言する。

「綺嬋さんが複製コピーを取られるところを僕は見ています。本物です」

「……ならシェルターに援軍がいることは本当。一旦そっちの確保を急ぎましょう」

「このセクターZからシェルターへの近道は分かるわね?」

 偽物さんが応じる。

「任せろ。テミス。避難シェルターまでの最短経路を」

「ん? 待つわね……」

 いきなり綺嬋さんが片手を上げて制する。


「そう言えば、この先ロボット研究室ラボがあるわね……」

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