水瀬さんはリア充ポイント100で爆発する!?

2023年中に小説家となるスンダヴ

第1話 私、リア充になると爆発しましゅ!

「すみません、あなたに0.0001ミリも興味がありません」


 どこを切り取っても平凡なことで知られる西方高校。

 階段の踊り場で、凛としながらも冷たい声が響く。


 口を開いたのは、ピンク色のノートを両腕で抱えた、この学校でも1、2を争うほどの美少女。


 「元々、私は恋人も友達も作るつもりはありません。だからあなたの彼女にもなれません」


 磨いた真珠のように光輝くショートカットの銀髪、海を閉じ込めていると錯覚するほど蒼く澄んだぱっちりとした瞳、大人と少女の中間にあることを示す平均より成長した胸。


 日本人離れした容姿を持つ、ロシア人と日本人のハーフ美少女。

 俺と同じ西方高校1年3組に属している高嶺の花。


 そして、”氷のナイフ”と呼ばれるほどの塩対応で恐れられる有名人。


 水瀬亜里沙みなせありさだ。


 「ど、どうしてだい!?君もリア充になりたいだろ!?」


 「リア充?まったく興味ありません。今お話しした通りです」


 「いくら何でも冷たすぎるじゃないか!」


 告白を一蹴され動揺している3年生のイケメンにも、水瀬さんは冷たく接する。

 

 「なんなら褒めてあげましょうか?」


 抱えていたピンク色のノートを開き、一分の感情もない声で文章を読み上げた。


 「3年生の高橋さん。サッカー部所属。同じクラスに彼女がいるにも関わらず、めぼしい女性に声をかけまくる女の敵」


 「な、なぜそれを!?」

 

 「学校中でみんな噂してるので。これ以上浮気すると痛い目にあいますよ?」


 「ひ、ひいいいいいいいっ!」


 悲鳴をあげながら高橋は階段を登り、逃走する。水瀬さんが男子をフる時、いつも持ち歩く『塩対応ノート』を活用するという噂は本当らしい。


 ”氷のナイフ”の名に恥じず、いつものように孤高を貫いたのだった。


 (勝手に覗いていると俺も何されるか分からないな)


 踊り場から階段を10段下った所で見守っていた俺は、顔を引っ込める。言い争うような声が聞こえたので来てみたが、出番はなさそうだ。


 それに、俺はリア充なんてこれっぽっちも興味がない。自分に縁がないものを追い求めるのはやめだ。


 懐のスマホを見ると、時刻は12時20分となっている。後10分で昼の授業だ。

 さっさと教室に戻ろう。


 「はぁ…」


 俺の足は途中で止まった。


 水瀬さんが深いため息を付いたからだ。男子学生にも一歩も引かず塩対応を行う彼女らしからぬ、気弱な声。


 もういちど覗いてみると、開いていたノートをぱたりと閉じ、暗い表情を浮かべた水瀬さんがいる。サファイアのような瞳は揺れ、悲しみに満ちている。


 「亜里沙、リア充になりたい…」


 「なりたいの!?」


 「!」


 思わず驚きの声を上げてしまい、彼女に気づかれてしまう。

 まずい、思わず突っ込んでしまった。


 「あなたは…きゃあ!?」


 階段を下りようとした水瀬さんが、悲鳴を上げる。足を滑らせ、階段から転げ落ちたからだ。華奢な体がぐらりと傾き、硬い床に叩きつけられようとする。


 「危ない!」


 思わず体を前に出し、彼女の体を受け止めようと両腕を広げた。


 ふわり。


 柔らかい感触と共に、水瀬さんの体がこちらに倒れこんでくる。思春期の少女特有の甘い匂い。華奢な体格に似合わない成長した胸が押し付けられるのを感じ、ドギマギする。


 (これが、リア充の感覚!?)


 だが、それだけでは終わらない。


 目を見開いて驚きの表情を浮かべている水瀬さんの顔が、こちらに迫ってきた。


 そしてー、




 ちゅっ。


 形の良いピンク色の唇が、俺の唇に触れた。




 ソースイート。

 ベリーキュート。



 ****



 「いてててて…」


 次に気付いた時、廊下の固い床に横たわっていた。


 「…」


 水瀬さんは俺にぎゅっとしがみついている。幸い大きな怪我はないようだが、胸に顔をうずめられているため、表情は見えない。


 「だ、大丈夫!?さっきはその、不可抗力で」


 「…」


 「だから個人情報は晒さないでください!なんでもしますー」 


 「あ、あわわわわわ…!」


 「へ?」


 水瀬さんが俺の胸から素早く顔を離す。


 顔色はお酒でも飲んだかのようにまっかっか、目はぐるぐるとうずまき状になっており、口は『あわあわ』と効果音を発しているような形となっている。


 「男の人と、キスしちゃった。どうしよう…」


 水瀬さんは皆が思っているほど冷たい人間ではないらしい。それは良いのだが、俺は別の事に気を取られていた。


 彼女の頭上に浮かぶ、ハート形の物体。タイマーとしての役割でも果たすのだろうか、中心には『069』の数字が表示されていた。


 それが、『100』となる。


 水瀬さんはそれを見てはっと表情を変え、再び俺に強く抱きついた。


 「矢崎くん。その…」


 ハート形のタイマーが急に膨張し、内部から光を発しながら大きくなっていく。


 「な、なに?」


 「言いにくいんですけど…」


 あわあわしながら視線を泳がせていた水瀬さんだったが、意を決したように表情をこちらを強く見つめ、震えながら声を上げる。






 「私、リア充になると爆発しましゅ…します!」

  

 言い終えると同時に、爆発。


 強烈な衝撃と風、鉄筋コンクリートの校舎の破片と共に吹き飛ばされる俺の体。ぐんぐんと天高く上昇。


 「えええええ!?」


 あっという間に、周りの風景は空しか見えなくなった。ひどく高い所に飛ばされたらしい。水瀬さんの姿はどこにも見えない。


 「えええええええええええ!?」


 常識を破壊する出来事に驚きの声をあげる俺の体に重力がかかるのを感じる。


 「えええええ…」


 ジェットコースターの何倍もの速度で落ちていった。



 ****



 「はっ!」


 途切れていた意識が、突然覚醒する。見慣れた階段と手すり。西方高校の何の変哲もない校舎だ。


 固い床の下に、俺は横たわっている。


 「夢、か」


 スマホを見ると、時刻は12時17分を指している。


 (…17分?)


 「あれ?ここにいるって聞いたのに」


 その時、上の方から誰かが降りてくる音が聞こえる。不思議なことに、誰なのかすぐわかった。


 サッカー部の高橋だ。


 「水瀬さん、君に話したいことがあるんだけどぉ~。隠れてるのかい?」


 浮気者のイケメンが辺りを見回しても、お目当ての美少女は影も形もなかった。

 



 小説×イラスト投稿サイト「たいあっぷ」に掲載する予定の作品です!コンテストにも応募してますので、気に入った方は応援いただけると幸いです…!イラストも付きます!


たいあっぷ

https://tieupnovels.com/creator

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