魔王滅びる時。21回目でプロポーズ。

コタツの猟犬

勇者ってズルくね?

「ワハハッハハハ!!!

 さぁ人間共、恐れ戦(おのの)き、我が前にひれ伏すが良いっ!」


禍々しい黒きオーラを纏った杖を翳しながら、

魔王は高らかに宣言した。


「魔王よ! この世界をお前の好きにはさせないぞ!」


勇者は、その勇気を胸に魔王の前に躍り出た。


「脆弱な人の子よ。なぜそう生き急ぐのだ。

 我の見えぬ所で震えていれば長生きできたものを」


革のブーツ、革のグローブ、それにマント。

全身を黒で包んだその男は、何処までも余裕の表情を崩さない。


「大地を黒く染めるものよ。

 我等の一族は、お前の様な悪に絶対に屈したりはしないぞっ!」


緑の髪と白く美しい肌を持つ彼女の言葉は、

その気高き魂を現わしている様であった。


「全くもって忌々しい長命の種族め。

 しかし、考えたことはないのか?

 お前達、知能を持つ者達こそが、この世界にとって害悪だとは」


「そっ、それは…………」

「くっ!」


魔王の言葉に覚えがあるのか、勇者とエルフは動揺してしまう。


「お前達、耳を傾けてはならんぞ。

 確かに一見奴の言葉には理がある様に見える。

 しかし、一度その言葉に心を傾けてしまえば、

 奴は、魂を持つ者をとこしえの闇へと引きずり込んでしまうのだ」


この世のあらゆる知を修める賢者は、そんな若き魂達を導く。


「如何にも、魂の持つ者特有の傲慢な考え方だ。

 だが、一つ聞きたい。

 賢者よ、エルフよ。そして、勇者よ。

 お前達は何故あれほど愚かな者達の為に、

 命を懸け戦おうとするのだ?」



「僕達は誰かの為に闘っても、

 誰かからの報酬が欲しくてやっているわけじゃない!」



「あっははは!!!

 さすが勇者。なんと馬鹿で疎かで、物好きななのだ」



……………………。

……………………。

……………………。



◇2000年後◇



「あの頃は良かったよなぁ」


全身を黒でコーディネートした男が溜息交じりに言う。


「ええ、あの頃は、皆が真っ直ぐで、

 誰が正義で誰が悪か、本当に分かり易かったですからね」


それにしみじみと同意する、メイドの様な格好をした女。


「あの頃に戻りてぇ」


思わず本音を洩らす魔王。


「魔王様。あれは遠い過去の話です。前を向きましょう。

 お気持ちは十分にわかりますし、私も同じ気持ちです。

 ですが、それでお役目を放棄していい事にはならないのですよ?」


「んなことわかってるよ。

 だから、ちゃんと100年ごとに復活してやってるじゃん」


あまりにも投げやりに魔王は言う。


「それは、そうなのですが…………。

 しかし、ですね魔王様。

 ここ数百年の魔王様は明らかにモチベーションが低いというか。

 ……仕事が少々おざなりになってませんか?」


魔王の物言いと態度に少々棘のある言い方をするメイド。


「んなもん当たり前だろぉ~」

「なっ⁉ そこまでハッキリとっ⁉」


悪びれるもなく、また威厳を持って指図を諫めるでもなく、

普通に同意されたメイド。


問題の根の深さを知る。


「お前だって分かってるだろ?

 こんな世界で、今更魔王なんて流行んないだって」

「し、しかし魔王様。

 私達の仕事は本当に大切なものなのですよ?」


魔王の言葉に焦るメイド、しかし否定はしないメイド。


「お前の言いたいことは分かるよ?

 世界の理の中でそう決められてんだろ?

 それは他の誰にも出来ることじゃないってんだろ?」


「その通りです。とても尊いことなんです。

 ですから、ご自身の仕事に誇りを持ってください」


先程から必死で魔王を説得しているが、

自分に向けて言っている様にも魔王には聞こえた。


「いやだってさ。休みが多いのはいいよ?

 でもさ、100年の内の1年位しか仕事がないって、

 それはそれで、逆に労働基準法とかに違反してない?」


「なっ⁉ また、そんな下界の知識を得て来てっ!

 もう、魔王ったら! 私だって同じ条件なのですよっ!」


「だから、お前も一緒に遊びに行こうぜ。

 今、映画とか凄い事になってるんだぜっ!」


「でも……それでは私達の誇りというか威厳というか……。

 時間はちゃんと世界征服の為に使わなければいけないというか…………」


必死で自分達の仕事の意義を語るも、その力は弱い。


「だって暇じゃん。だから、その時間を使って遊ぶ。

 そんなの自然なことだろ」

「それは、そうなのですが……。

 ですが準備期間とか、そういうことにですね__」


同意はするものの、使命との間で揺れるメイドの心。

本来は魔王が持つべき葛藤だ。


「だってよ?

 やっとエルフ達がいなくなって、強くてニューゲーム。

 見たいなことする奴等がやっといなくなったと思ったのに、

 いつの間にか人類はとんでもない文明になってるしさ」


「確かに彼等の長命は厄介でしたよね。

 一度倒した経験があるというのは、

 対策や準備が抜かりなく出来てしまうという事ですからね」


「復活して数週間とかで倒されると、流石にスゲー切なくなっただろ?」

「それは全面的に同意します」


「だから、そういう意味でも情報収集って大事だろ?」

「ま、まぁそうなのかも知れませんが」


魔王の言葉には説得力が有るが、

これでいいのかと、やはり葛藤するメイド。


「はぁ~。だいたいさ。

 今は自動運転が本格的に実用化されそうな時代なんだよ?

 移動用の乗り物が空を飛んでるだぜ?

 ドラゴンやペガサスは疎か、馬すら使ってないんだぞ?

 今更、杖とマントで何すればいいんだよ。

 俺だってもう魔獣とかに乗るのは飽きたよ」


「そ、それが、本音ですか…………。

 でも魔法で飛べるじゃないですか。

 それに雰囲気というか世界観の問題でですね…………」


「だって、マントで飛んでのダサくない?

 それに魔獣は乗り心地も悪いし、正直乗るのもうやだよ。

 親切なガイドさんもいないしさ(CAの事)」


「確かに二人で旅行に行った時のサービスは凄かったですよね」


「だろ~? 第一アイツ(魔獣)等、いくら洗ってやっても臭いし、

 可愛がっても懐かないし、可愛くないだもん」

「し、しかしですね、魔王様。

 それではファンタジーというジャンルではなくなってしまうのですよ」


「あのなぁ、時代は進んでて、

 勇者達は常に時代の最先端の装備してんだぞ?」

 

「私達には魔法があるではないですかっ!」

「お前なぁ。直近の復活の時なんて、ミサイル打ち込またじゃねぇかよ。

 ちょっとタイミングが悪かったら、復活する前に消滅してたんだぞ?」


「そ、それはそうなのですが」

「なんで俺達だけは、何時まで経っても、こんな原始的な装備させられてんだよ。

 世界観の話するなら、それこそ可笑しいだろ?」


「確かに」


今まで理の為に必死で積み上がて来たが、

ここらが潮時かとも思うメイド。


「一番の問題は、勇者達の装備は時代が変わるごとにアップデートされて、

 グレードアップしているのに、なんで俺等は変わらんのだよ?」


「不備が目立ちますよね」


自分達が創られた時、

今の状況は想定されてなかったのだろうから、

仕方はないことだとは思う。


が、それにしても、世界は自分達にだけ優しくない。


「ぶっちゃけさ。今は俺(魔王)なんかよりも、

 AIとかの方がよっぽど怖いと思うんだよ」

「確かにそれもそうですね。彼等は味方で在りつつも、

 どんどん社会を侵食してますもんね」


「そうなんだよ。だからさ、そんな時代なんだから、

 流石にフォース系の武器を使わせろとは言わないけど、

 せめてレールガンぐらい装備させろってんだよ」

「うーむ」


それでは、SFだと思うメイドだが、魔王の意見には賛成だった。


「なぁ、次の21回目の(力の)復活で俺達が倒されたらさ、引退しようぜ?」

「なっ⁉ それはいけませんよ、魔王様」


「んで、俺達結婚して、ゲームとか、ネットして普通に暮らそうぜ?」

「ま、魔王様」


顔を赤らめるメイド。

ただ世界の理と、幸せな結婚生活の間で心が揺れているのだ。


「俺達、ファンタジーの経験が豊富なんだからさ、

 二人で小説書いても売れんじゃね?」



「でも、そうしたら魔王というものはどうするんですか?」



「今はミレニアムなんだぜ?

 この時代の勇者か賢者に言えば喜んでやってくれるさ」



こうして魔王という職業は勇者に引き継がれ、

そして世界にはファンタジー小説家が二人増えた。

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