第54話:対話

「どうしたのですか、奏さん」




 遥が不思議そうに聞いてくるのが、余計に僕に恥ずかしさを感じさせる。




「な、なんでもないよ……」




 思わず顔を背けて、話を無かったことにしようとする。

 しかし、そういうわけにはいかなかった。

 遥が僕の顔をのぞき込むように見てくる。




「なんでもないってことはないですよね? わざわざ改まって何か言おうとしていたのですから」

「うっ……」




 思わず言葉に詰まらせてしまう。




「それでどうしたのですか? 奏さんが噛んでしまうなんて今更ですよ」

「そ、それって酷くないかな?」

「お兄ちゃん、いつも噛み噛みだもんね」

「それがいいのですよ」

「そうですか? 私も噛んでみようかな?」

「秋はそのままでいいです。むしろやったら、叩きますよ?」

「遥の辞書、痛いから嫌ですよー」




 秋さんは遥から少し距離を取っていた。

 遥の手にはいつの間にか武器である本が握られている。




「あ、あははっ……。うん、やっぱりみんないつも通りだね。僕も少し気が楽になったよ」




 僕は苦笑を浮かべながら二人を見ていた。

 そして、覚悟を決めると大きく一度頷く。




「みんな、改めてここまでダンジョンを広げることができたのはここにいるみんなのおかげだよ。本当にありがとう……」




 僕は頭を下げてお礼を言う。

 すると、あまりに突然のことで三人ともキョトンとした表情を浮かべていた。




「ど、どうしたのですか、突然……」

「お兄ちゃん、どこか行っちゃうの?」

「奏がどこかに行くならこのダンジョン、壊しちゃいますよ? いいのですか?」




 なぜか僕がどこかへ行くと思われてしまった。

 いや、今の切り出し方なら仕方ないかもしれない。




「ち、違うよ!?  ただ、ちょうどダンジョンも10階層に到達して、ちょうど節目のタイミングだったからね? だから改めてお礼を言いたくて……」




 慌てて、どこかへ行くということを否定する。

 すると、遥たちは安心していた。




「そういうことですか。……よかったです」

「お兄ちゃんがエリシャを置いてどこかへ行くはずないもんね」

「……少し残念です」

「ちょっ!?」




 秋は相変わらずダンジョンを壊そうとしていたので、思わずツッコミを入れそうになる。

 しかし、今日はそういうことを言いたいわけではない。




「とりあえず、まずは――」




 僕は自分の武器である杖を構えていた。




「僕と戦ってくれないかな、三人とも。一応僕が成長できているところを見てもらおうかな、って」

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