第19話:初めての客

「とりあえず、宿の店員かどうかは考えるとして、このダンジョンにいてもらう方向でいいかな?」




 マスタールームに入ると遥に確認をする。

 一応、エリシャにもマスタールームへ入る許可を与えてあるので、彼女もこの部屋にいるが、今は興味深そうに部屋の中を物色していた。




「わわっ、お風呂があるよ。キッチンも……。エリシャが住んでるところより豪華だよ……」




 どんなところに住んでいるのかは気になってしまうが、今のところはエリシャの対応が先だろう。




「突然襲ってくることもないでしょうし、問題ないと思いますよ。ただ、宿の店員としてはどうでしょうか? その……、色々と……」




 エリシャの見た目のことを言ってるのだろう。

 確かに彼女だけを働かせる、と考えると不安は残る。

 むしろ、不安しかない。

 家事全般はできるようなので、そちらは問題ないけど……。




「と、とりあえず、最初は僕たちも協力して、任せられそうなら任せる……でもいいかもね。どのくらい冒険者の人が来るかもわからないし……」


「そうですね……」




 遥が頷いてくれる。




「エリシャ、ちょっとこっちに来てくれるか?」


「なにー、お兄ちゃん?」




 ぱたぱたと小走りで向かってくる。




「一応、宿の店員として一緒に働いてもらおうと思うけど――」


「ほ、本当にいいの? やったーーーー!!」




 エリシャはうれしそうにその場でくるくると回り始める。

 そして、僕に抱きついてくる。




「た、ただ、最初は一人で大変だろうから、慣れるまでは僕たちも手伝うよ。あと、部屋はこのマスタールームに部屋を作るから使ってね。そ、それと抱きつかないで……」




 アタフタとしながらモニターを操作すると、マスタールームに扉が一つ追加される。




「えっと、あそこがエリシャの部屋だからね」


「え、エリシャの部屋? も、もしかして、部屋まで使っても良いの?」


「もちろんだよ? どこで寝るつもりだったの?」


「たくさん草が生えてるから外で寝ても温かいと思うの」


「えっと、それって今までもしてきたの?」




 さも当然のように言ってくるエリシャに、驚いてしまう。




「うん、もちろんだよ? 何かおかしいことを言ったかな?」


「ぜ、絶対にダメだよ!? そ、そんなところで寝て襲われたらどうするの!?」


「大丈夫だったよ?」


「ダメダメ!! と、とにかくこれからはこの部屋を使ってね。ベッドも使っていいから」


「そ、そこまでしてくれるんだ……」


「普通だよ?」


「と、とりあえず、今日はもう遅いし明日からよろしくね」


「うん!」




◇◇◇




 翌日になると、朝早くから宿の前に行列ができていた。




「あっ、待ってたぞ! 今日から泊まりがけでダンジョンに潜るんだから泊めてくれ!」

「俺が一番だ!」

「いやいや、俺の方が先だ!」

「一泊いくらだ? 優先してくれるならいくらでも出すぞ!」




 詰め寄せる強面の冒険者たち。

 宿だけでこれだけの効果が出るのは正直驚いてしまった。




「あわわっ、い、いらっしゃいませ。お、お部屋に案内を……、あっ、そ、その前にお金だった。あわわわっ、お、お金をおいていってください!」




 困惑したエリシャがまるでゆすりのようなことを言っていた。




「ち、違うよね!? えっと、一泊1万円ですけど、何泊しますか?」




 値段は割高になるように設定している。

 ただ、経験値の効率を考えて、わざわざここにやってくる冒険者はそれなりに持っているはず……。

 そして、それは持っていた装備からも十分予想することができた。


 だからこそ、少し強気な値段設定をしたのだけど――。




「なんだ、そんな値段で良いのか? なら俺は一ヶ月泊まっていくぜ!」

「くっ、お前が一ヶ月なら俺は二ヶ月だ!」

「そこで張り合うなよ。まぁ、俺は三ヶ月泊まっていくが」

「年間契約はないのか?」




 まさかの週を飛ばして、月換算での宿泊を申し込まれる。




「ありがとー!! えっと、1日1万円なら……、たくさんお金を置いていってね」




 にっこり微笑みながら、エリシャはとんでもないことを言い出す。




「わわっ、違う違う。一ヶ月30万円……、ううん、25万円で構いませんよ」


「そうみたいだよ。だから有り金全部置いていってね」




 慌てふためく僕を他所にエリシャの口は留まることを知らない。

 まるで盗賊のようなその台詞を聞いて、更に僕は慌ててしまう。

 でも、冒険者たちは全く気にしていない様子だった。




「あははっ、お嬢ちゃんには適わんな」


「お嬢ちゃんじゃないよ? エリシャだよ?」


「エリシャちゃんだな。よし、とりあえず今日は一泊分で、明日に残りの宿泊費を持ってくる」

「ふふふっ、俺は持ってきたぞ! これで足りるか?」

「俺は……明日だな。今日の分は渡しておく」




 まぁ、持ってきた人はおかしいよね。

 町中を歩くのも怖いのに、こんな人里離れた山の中まで、大金を持ち運ぶなんて……。



 でも、自分の力を信じている冒険者ならおかしいことではないのかな?



 なんて一瞬だけ考えてしまったが、大量にお金を持ってきたときに、死ぬと持ち金の半分をとられてしまう。

 だから余計に大金を持つ理由がなかったのだ。



 まぁ、人それぞれだから、そこは僕が気にしても仕方ないだろう。




「わかりました。それじゃあ、お部屋にご案内しますね」


「付いてきてね!」




 にっこり微笑んで部屋へと案内していくエリシャ。

 やっぱり不安しか残らないんだけど……。 

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