第11話:意外な弱点
さすがに450万は貯まらないだろう……、と思っていたのだがが、まさかの配信終了間際で、合計で452万となっていた。
そして、その瞬間にコメント欄が歓喜に満ちていた。
:よっしゃぁぁぁぁ!!
:超えたー!!!!!
:俺、今からこのダンジョンへ行ってくる。
:ちょっと待て! 俺が先だ!!
:本当にいたのか……、ダイヤスラ妖精
たくさんの人がダンジョンに来そうだったけど、本当に良いのだろうか?
そんなことを思いながらも、宣言通りにダイヤスラ妖精を二階層の入り口に配置する。
普通のスラ妖精とは違い、かなり巨大な体をしている。
それこそオークに匹敵しそうなくらいに……。
その体格の割に動きはかなり素早く、体当たりされるだけでも恐ろしい。
そんな巨大な白銀に輝くスラ妖精が二階層の大空間に生み出された。
今はここに僕と遥しかいないからか、動かずにジッとしている。
一応、約束をしたので、それとは別に残り三体のスラ妖精を作り出すと、今日もらったスパチャは使い切った。
◇◇◇
翌朝、ダンジョンの様子が気になり、早く目覚めてしまった。
ただ、ある意味予想通りの結果となっていた。
二階層の様子をモニターに映し出すと、そこにはダイヤスラ妖精に挑む冒険者の姿が映っていたが、その様子はまさに阿鼻叫喚としか言えなかった。
『お、おい、こんなに強いなんて聞いてないぞ!?』
『こ、攻撃をしたら跳ね返ってくるなんて……』
『相手の攻撃も強すぎる……』
『もうダメだ……。た、助け……』
既にダイヤスラ妖精によって、HPの大半を削られた冒険者たち。
その一方で、ダイヤスラ妖精はHPが1も減っていない。
これを絶望と言わずして、何を絶望というのだろう?
きっと一気にレベルが上がる、とウキウキしてこのダンジョンに来たはずが、一気に今の状況へ……。
うん、ひどい状況だね。
でも、仕方ないよね。冒険者は何より情報が命なんだから……。
ダイヤスラ妖精がかなり強いことを想定していなかったのが悪い、ということだよね。
経験値が欲しいだけの低ランク冒険者だと、一瞬で返り討ちにされる。仮にもSランクの魔物なのだから。
「あれ、遥なら倒せるの?」
「えっと……、私には厳しいですね。有効打が与えられませんから……」
「そっか……。Aランクの遥が倒せないなら、それこそSランク冒険者が来ないと話にならないんだね……」
とんでもない魔物を召喚してしまった、と乾いた笑みを浮かべてしまう。
「みんな望んでたから仕方ないね。きっと、あれが本望なんだよ……」
ダイヤスラ妖精の極大魔法によって、冒険者たちが吹き飛び、装備品だけが後に残されていた。
ただ、よくみると装備品はそれだけではない。
既に昨日の配信中に少しだけ伸ばした通路に、別の装備が山のように転がっていた。
えっ!? 一体どのくらいの冒険者の人を倒したの!?
慌ててダンジョンステータスを表示させる。
――――――――――――――――――――
№1524【カナタダンジョン】
マスター:
ランク :F LV :1 階層数 :1 クリア特典:なし
所持DP:5994
【モンスター】
《1階層》
スライム:LV1(0/5)
オーク:LV30(0/1)
《2階層》
スラ妖精:LV20(6/6)
ダイヤスラ妖精:LV60(1/1)
【ダンジョン侵入者数】
今日:16 昨日:25
【配信視聴者数】
今日:43,215 昨日:112,541
【スパチャ金額】
今日:0 昨日:4,520,000
【インセンティブ(DP)】
今日:4357 昨日:26,161
――――――――――――――――――――
既に40人以上も倒してしまっているようだった。
しかも、ダイヤスラ妖精のHPは一切減っていない。一階層にいた魔物はことごとく倒されてしまっているが……。
「えっと、本当に倒す方法ってあるのかな? 絶対に倒せない相手ってわかるとそのうち冒険者の人が来てくれなくなるよ……」
「――大丈夫です。一応倒す方法はいくつかありますよ」
「ほ、本当に!?」
僕は思わず遥に詰め寄り、その肩を掴んでいた。
すると、遥は頬を赤くして、恍惚の表情を浮かべながら答える。
「は、はい……。一応魔法は完全に効かないけど、物理攻撃は通りますよね? 与えたダメージは跳ね返されるだけで……」
「そうだね。だからいくら攻撃してもダメージを――」
「攻撃力に依存する攻撃ならそうかも。でも、秘宝級装備に固定ダメージを与えるものがあるって聞いたことがありますよ。そういったものだと、確実に相手にダメージを与えられるので。もちろん同ダメージが自分に返ってくるけど……」
「あっ、そっか……。スラ妖精と同じでHPは低いんだもんね。でも、秘宝級装備ってそう簡単に手に入るの?」
「――手には入ったら秘宝……なんて言わないですよ。噂によればSランク級ダンジョンになら落ちているらしいですね」
「そうなんだ……。そうなると、ダンジョンに配置できる宝物の中にあるのかな?」
DPで交換できるアイテムを眺めていく。
すると、固定ダメージを与えるものがいくつか存在していることに気づいた。
確実に1ダメージを与える【初心の剣】
確実に2ダメージを与える【二心の槍】
確実に1ダメージを与え、たまに一撃で射殺す【暗殺の弓】
この辺りが今遥の言っていたアイテムに当たるのだろう。
ただ、この辺りはそこまでランクの高い装備ではないので、今すぐにでも配置することができる。
「うーん、一応二階層の救済措置として、隠し部屋でも作って、設置しておこうかな」
「そうですね。倒す方法があると分かったら、たくさんの人が来てくれますね」
「なら、早速ダンジョンを広げるところから始めようかな」
それから僕は増えたDPを使い、黙々とダンジョンを広げていった。
◆◆◆
とあるBランクダンジョンの最下層。
魔物や冒険者たちが倒れている中、一人だけ生き残って高笑いしている男がいた。
「くくくっ。なんだ、この程度か。今まで散々俺のことを
「がはっ!?」
男は倒れている冒険者の腹を思いっきり蹴っていた。
すると、男のHPがきっちり100減っていた。
「はぁ……、はぁ……、ど、どういうことだ? お、お前は常に1しかダメージを与えられない最弱スキル持ちだったはず……。なぜ、どの攻撃も100与えられるんだ!?」
「くくくっ、だからお前はダメなんだよ。俺の真の能力、それは【スキルレベルに応じた固定ダメージを相手に与える】ことだ! しかも、それは俺周囲にいる全てのやつに与えることができる。魔物も人間も全てにな」
正確には、攻撃範囲内にいる男が指定した対象全てに固定ダメージを与える能力なのだが、そこまで丁寧に教える義理がこの男にはなかった。
「そ、そんな馬鹿な……。し、しかし、1しかダメージを与えられなかったお前がスキルレベルを上げられるほど魔物を倒せるはずが……」
「あるだろう? HPが低くて、大量に経験値を持っている魔物が――」
「ま、まさかスラ妖精でレベルを上げたのか!?」
「あぁ、苦労したぜ。スラ妖精以外の魔物は前の俺だと、勝てるはずもないからな」
男は嘲笑を投げかけていた。
「まぁ、それもこれもお前たちが俺をCランクダンジョンの奥で捨ててくれたおかげだがな。そこにたまたまスラ妖精がいたから、こうして生き残ってる。お前たちにやっと復讐ができるんだ」
「ま、待て!? ぼ、冒険者同士の殺し合いは御法度。お前も知っているだろう?」
息も絶え絶えに倒れている冒険者は、やっとの思いで言葉を出す。
しかし、それを聞いた男は更に甲高い笑い声を上げていた。
「はははっ、それをお前が言うのか!? 冒険者を殺すのが御法度なら、ダンジョン奥深くに捨てるのはどうなんだ? それも規則に違反しているだろう? つまりやっていることは同じ事だ! お前に何か言う資格なんかないんだよ!」
「ぐっ……」
「もうお前、うるさいよ。そろそろ死ね!」
男が声を上げると、その瞬間に冒険者のHPが100減り、ついに残りHPが0になっていた。
「ぐはっ……」
冒険者は血を吐くとそのまま意識を失い、そして、装備を残し、光へと還っていった。
「はーっはっはっはっ。この力があれば俺はどんなやつにも負けないんだ。だが、まだまだスキルレベルが足りない。レベル3になってようやく100ダメージを与えられるようになったが、これだと強い相手には勝てない。俺はもっと強くならないと行けないんだ……。俺を馬鹿にした全てのやつに復讐するために――。そのためにはもっと経験値を――」
冒険者たちが落とした装備を拾うと、男は最下層の奥にあるワープ部屋から、ダンジョン一階へと戻る。
そして、その装備を売り払うタイミングでとある噂が耳に入る。
『カナタダンジョンに魔物の中で最も経験値をくれるダイヤスラ妖精が召喚された』と。
「くくくっ、まさに俺向けのダンジョンじゃないか。これはどう考えても俺に復讐しろって言ってるんだよな? いいだろう、望み通りにやってやる!」
装備を換金し終えた男はそのまま、カナタダンジョンへと向かって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます